今回は かず&カズヒコのお話です。

軽くBL含みますので、苦手な方は ご遠慮くださいませ。







「カズヒコ、ただいま。…居るんだろ?」

リビングの電気は ついているものの、そこに カズヒコの姿は無い。


コンコン、カチャ…


カズヒコの部屋のドアを開けてみたけれど
その静まり返った室内に 気配は無かった。


翔さんと一緒なワケでも無いのに
どこに行ったんだろう。

…コンビニにでも 行ったのかな?



カズヒコの部屋のドアを閉め

隣の…
自分の部屋のドアを開けた。


真っ暗な部屋。


手探りで  照明のスイッチを入れると、ベッドに座ったまま…ゆっくりと顔を こちらに向けるカズヒコの姿があった。

その 瞳に…
背筋を冷たいものが 伝い落ちる。



「…今日は帰って来たんだ」

「…うん、ただいま」


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近づいて カズヒコの頭を 
クシャッっと撫でた。


虚ろな瞳が揺れ
僅かに 安堵の色が過ったけれど

次の瞬間…

オレに向けられた視線は
再び 冷たく突き刺さった。



「…かず、昨日…」

「うん?」

「………」



昨日…
オレと 大野さんが一つに溶け合っていた時
カズヒコは  ” 何か ”  を感じたんだろう。

それが 言葉にならなくて…
言い淀んでいる。



「カズヒコ、オレさ…大事な人が出来た」


オレの方から  そう告げると
怯えた瞳が  大きく見開かれた。


ボスっ!

投げつけられた枕が 床に落ちた。


「…かずは…皆が オレを独り置いて いなくなる!!」

「??  カズヒコ…オレは何処へも行かないよ?
お前とは これからも一緒だし。
何をそんなに…怖がってる?」

「大事な人って…誰?
かずが好きなのは、翔ちゃんだよね?
他の誰かじゃ…ダメだから!」


…??

どうして翔さんが出てくる…?


あぁ、そうか。


カズヒコの時間は、オレが 翔さんの事を好きだった あの頃から…ずっと 止まったままなのか。



オレ達の 時間を…
巻き戻さなくちゃ。


「カズヒコ。
オレはさ、翔さんの事…確かに好きだったよ。でも それは…ずっと昔のことなんだ。

今のお前は…どうなの?」

「オレ?  オレは…?  かず が好き」

「…うん。そうだよね。

だけどさ、お前の中には 昔の…翔さんの事が好きだった頃の オレが居るよね。

今のオレにとって、翔さんは友達でしかないんだ。
それを聞いて…カズヒコは翔さんと、ただの友達に戻れるの?」

「翔ちゃんが…友達?」

「そうだよ。翔さんはお前にとって…友達なの?」

「だって…かずは 翔ちゃんが好きで、だから オレも翔ちゃんが好き。
オレたちは…何時だって同じ事をしてきたじゃない!?
なのに、翔ちゃんを好きじゃないって…何で今頃そんな事言うんだよ」

「なぁ…もう 分かってるんだろ?
カズヒコの中に居るオレが、翔さんを好きなんじゃないんだよ。

だとしたら、お前の中の…翔さんを好きなのは誰なの?

お前が…カズヒコ自身が、翔さんを好きなんじゃないのか?
オレたちは 別々の人を好きになった。
…ただ そんな 当たり前に 恋をしただけなんだよ」


一瞬…
瞳に 光が射したけれど

直ぐに消えた。


「………だって、翔ちゃんは…
オレのこと好きじゃないよ。
翔ちゃんが好きなのは…かずだから」


目を伏せたまま、震える声を絞り出した。


「は?  んなワケないでしょ!?
誰がどう見たって、翔さんはお前に惚れてるよね。
お前…本気で言ってる?」

「…翔ちゃんが かずのこと好きだから。このままだと かずを取られちゃう。
だからあの時…。
翔ちゃんにとって オレは、かずの身代わりでしかないんだよ!

……オレにとっても、ね」


泣きながら向けられた
歪んだ笑顔は

怖いほどに 美しくて。

同じ…顔なのに 
見惚れてしまう程だった。


俺の大好きな…カズヒコの薄くグレーがかった瞳。

唯一、オレと違っていた特徴が
今は 同じ…飴色に染まっている。


カズヒコが近づき
唇が重なる。

…オレは 動けなかった。


つづく

2015.10.12   miu