つづきです。







「…大野さん?
初めまして。カズヒコです」

大野さんの前に
かずと 二人で並ぶ。

「あ?   えっ! カズヒコ…
カズヒコ?!
…いや、まぁ、そこ座れば?
コーヒーで良い?」

「ありがとう。…せっかくの定休日に ゴメンね?」


心配そうに こちらの様子を伺う 
かずの視線がチクリ、と刺さる。


「別に、かずの大事な大野さんを 取って食べないから。大丈夫だよ!」


少し離れた所で ゲームを始めたかずを牽制し…大野さんに向き直り

まずは 確認したい事から
話し始めた。


「…ね、大野さん。
昨日の電話、よく かずじゃないって分かったね?
電話で かずのフリしてばれたの、大野さんが初めてなんですけど?」


顔を見れば、区別がつくかもしれないけど。
瞳の色が…微妙に違うしね?

だけど 電話の声は、両親でさえ区別がつかないようで。

『かずじゃないよな?』って言われたのは初めての事だった。


「ん~何となく、な。
あれ?カズじゃねぇな?…って思ったんだよ」


何となく…
でもそれって 凄い事かもしれない。


メール報告を義務付けたのが、大野さんだった事は…ここに来る途中で かずから聞いていた。

翔ちゃんが  かず宛てに送ってた、メール画面も見せて貰って。
…チョット笑ってしまった。


理由を聞けば、ね?
まぁ、分からなくはない。

これまで、そんな状態が続いていたのなら
事前に知らせると言うのは 有効な手段だったと思う。


だけど
その必要なくなった今…
もう 続ける理由はない筈。


「ねぇ、大野さんはどこまで知ってるの?オレと…かずと…翔ちゃんの事」

「あ?…ん~、カズからは昔、翔さんを好きだった事と…翔さんからは…カズを好きだった事。
あと…翔さんとお前の始まりも、な」

「…なるほど。ほぼ知ってるってコトね?
だから、翔ちゃんにイジワルすると。
大野さんって…可愛いなぁ!」

「いや、悪かったよ。
でも、昔の事ってよりも…カズが翔さんの肩を持つのが…それが気に食わなくて。
で? 今日は苦情を言いに来たのか?」

「フフッ…苦情ってワケじゃないですけど。 とりあえず…メールはもう勘弁してあげて?

翔ちゃんもだけど…オレが 落ち着かないから」

「………了解」

「それと…ありがとう」

「え?…何が?」


ポカンと 口を開けている大野さんを
ジッと見つめる


かずが選んだひと。


この人のおかげで
オレは…戻ってこれた。


目も耳も…自から閉じていた。


何も見ない。

何も聞こえない。



…閉じていた事実に
気付きもしなかったんだ。


かずも 翔ちゃんも

こんなにも深く 
愛を注いでくれていたのにね。


オレが絡ませてしまった
3人の糸を 解いてくれたのは

やっぱり アナタだと思うから。


だから、 ありがとう。



「大野さんは…優しい、ひとだね?」

「…優しい人間が、妬いて 腹いせにムチャぶりなんかしねぇよ。
おれ、我儘だから…」


恥ずかしそうに 視線を逸らす
…その仕草が何とも可愛い。

うん…翔ちゃんが居なかったら
オレも惚れてたかもね?


「ちょ、ひーくん、見過ぎ!!」


突然頬を両手で挟まれ
グイッと 横を向かされた。

さっきまで ゲームをしていた筈の
かずが、いつの間にか 直ぐ隣に座っていた。


「大丈夫!話は終わったよ。
もう、メール報告は無しだからね?」

「ん…そう?
大野さん、もう良いんだ?」

「うん、まぁ…反省しただろうし?」

「「反省って…何のよ?」」

思わず ハモる。


もしかして 高校生の頃、翔ちゃんが かずにキスした事を言ってるのかな。
オレと翔ちゃんの始まりを知ってるって事は、それも知ってるんだよね?

結局は そんなにも昔の事に妬いてるこの人って… 
やっぱり 可愛い。

どれだけ  かずのことを好きなんだろう?

オレが大好きな かず。
その かずの事が大好きな…大野さん。

ふふっ…♡

思わずチューをしたい衝動に駆られたけれど、オレには翔ちゃんが いるから。


…代わりに 
両手でかずの頬を挟み、チューをした。


「!!!?
あっ!カズヒコ!?お前…お前でもダメだぞ!
カズは おれのだから!」

「さて、邪魔者は帰りまーす!
かず、今日はオレ…翔ちゃんトコに泊まって来るね!
大野さん、後はお好きにどうぞ♡」

{5F8F3BB5-C41F-41F4-9223-8F2323AD19BD}

「ひーくん?  ひー!!
お前っ、逃げんなや!…ズルいぞ?!」


かず…
今日はもう、大野さんに離して貰えないんだろうなぁ?



オレは軽い足取りで
大野さんの店を後にした。


つづく


2015.12.2   miu