個人授業  カズ兄です…








「二宮センセイ、おれ…」


思い詰めた表情。
真っ直ぐな想いが、胸に突き刺さる。


びゅう…

細く開けた 窓の隙間から吹き込んだ風が
彼の瞳を、揺らした。



夏休み 
旧校舎の保健室。

赤い顔をして入ってきた生徒に、ワタシは 熱中症を疑った。


「どうした?」


体温を確認しようと伸ばした手を取られ
机の上に 押し倒された。


「おれ…センセイが好きなんです」


苦しそうに、そう呟いた。

目の前にいるのは、笑顔に幼さが残る 可愛らしい吹奏楽部の3年生。
彼が 好意を持ってくれていることには気付いていた。だから…気をつけてはいたのだが。

…出来れば、彼に その言葉を飲み込ませ
やり過ごそうとしていた。

ごめん。
ズルい 大人だよな…

でも、熱を秘めた 彼の瞳に
昔の…雅紀の顔が重なった。

彼が真剣なら、尚更 うやむやにせず
きちんと伝えなければならないのに。

深く深呼吸し、息を整えた。


「うん、そうか…ありがとう。
でも、竹内の気持ちには 応えられないんだ」

目を逸らさずに、彼を見据えた。


「それは、おれが男だから?
それとも生徒だから?」

「…いや、そうじゃない。
男だって、生徒だって…例えば、うんと歳が離れてたって関係ないんだよ。
…心が震える相手っていうのは、たったひとりなんだ。
ワタシは、既にその相手に出逢ってる。
だから 竹内にも、ワタシじゃない誰か…そんな相手がいるはずだよ」

「センセイ…」


肩を掴んでいた手から、力が抜けた。

ひとすじの涙とともに
立ち尽くす彼。

少しだけ開いた窓からは、泥にまみれて走り回る 野球部員の元気な声が届いていた。



去っていく背中を見送る。

…これからの
彼の未来に、想いを馳せて。


暑い…夏の日

ワタシは ガラス越しに
青い空を見上げた。










miu