…お待たせ♡( ・∇・)
つづきです♪
大福の短い足が、ちょこちょこと家路を急ぐ。丸いその後ろ姿を追うおれの足取りも、心なしか…
……いや、確実に軽かった。
ふわふわした気持ちで家に戻ると、小さな水切りカゴに伏せられた二人分の食器が目に入った。
片方は来客用ではあるが、ここに客が来ることなんてほとんどない。翔ちゃんがきた時に、たまに使っているくらいだ。
よく考えれば、元々仕事場として使っていた場所に、いつの間にか住み着いていたと言うのが正しい。だから必要最低限の生活用品の他には余計なものは置いていないし、仕事に必要な物の他には、大福のごはんやトイレシートくらい。
ニノに貸したシャツだって、この間翔ちゃんが用意してくれた服がクリーニングから戻ってきたものだ。
…そう。ここにあるのは、翔ちゃんが用意してくれた物ばかり。
おれは食器の水滴を拭いて棚に戻し
「新しいの買ってこようかな…」
と呟いた。
"明日、大福に会いに行っても良い?"
そうLINEがきたのは、金曜日の夜のことだった。
ニノが泊まったあの日以来、ステッカーの進捗状況を確認する業務的な連絡はきていたが、多分恐らく…仕事とは関係なさそうなメッセージに、おれは飛び上がった。
そして、ソワソワといつもより念入りに掃除なんかしたりして。
待って、おれ何してるんだろう。ニノは大福に会いに来るだけなのに。
それでもラジオから聴こえる声だけでなく、数日ぶりにニノ本人に会えるのが嬉し過ぎて、あまりよく眠れなかったのは内緒にしておこう。
翌日、午後になり玄関のチャイムが鳴った。
直ぐにでも飛び出したい気持ちを抑えて、深呼吸する。
いち、にい、
さん、のタイミングでドアを開けると
「ワン!ワンワンあぅん♪」
と、おれよりも先に、大福がニノの来訪を歓迎していた。
「わ、大福!元気だった?」
「いらっしゃい。どうぞ」
ニノの足元でじゃれついていた大福を抱き上げると、何だか不服そうな目でジロリとおれを見ている。
ちょっと待て。お前の飼い主は誰なんだよ。
…なんて思ったけど、犬は飼い主に似るってことだよな笑
なるほど、と ひとりで納得し
ニノを中へと案内すると
彼は不思議そうに茶色の瞳をくるくるさせた。
「なんか…部屋の雰囲気変わった?」
…あ、気づかれた。
って言っても、ソファカバーを新品に変え、床の上でぺちゃんこになっていたクッションをふかふかの新しいクッションにして…
あとは。
おれは、さぁ?と笑って
大福と楽しそうに遊んでいるニノを眺めていた。
「あ、そうだ。大野さん、これ…」
「え?」
ニノから渡されたのは、貸していたシャツ。
綺麗にクリーニングされ、たたみ仕上げされたワイシャツが袋に納められていた。
それを受け取ると、寝室へ向かう。
クローゼットの扉を開け、その奥へとしまい込んだ。
部屋に戻ると、大福がリードを咥えておれの足元に寄ってきた。
あ、そうか。そろそろ散歩の時間。
ニノもそれを察したようで、オレも一緒に行って良い?って遠慮がちに視線を上げる。
もちろんだよって言ったら、ニノは嬉しそうに笑っていた。
この間と同じように、大福を間に挟んで
ふたりで歩く。
ひとつだけ違うのは
慌てて、番組宛のハガキを持ってくるのを忘れたことと
ニノが、この信号を渡らないこと。
いつものポストの前まで来て
また来た道を戻る。
途中、通りががったコンビニの前で、ニノの足が止まった。
「あの…大野さん、その…今日って…」
普段のおれなら、気づかなかっただろう。
…でも、分かったんだ。
だって、おれも同じ気持ちだったから。
「何も買わなくて大丈夫だよ。
冷蔵庫でビール冷やしてあるし、着替えとかも…ニノの分、ちゃんと用意してあるから」
傾きかけた太陽がオレンジ色に染まる。
夕日を受け、赤く色づいた頬にそっと触れると
ニノは眩しそうに目を細めた。
miu