つづきです
おかしいと思ったのは、ステッカーのイラストの提出時期を延期して欲しいという連絡があったこと。
当初の話では、イラストが出来上がり次第、直ぐにでも印刷をかけたいと言っていたのに。
それくらい…ニノ自身が、この企画を楽しみにいていた。
不思議に思いながらも、了解し
その数日後…
ニノに送信したメッセージに、既読の文字がついていないことに気づいた。
…いや、ニノは忙しいから。きっとメッセージを見る暇も無いんだろう。
そう思いながらも、増えていく一方通行のメッセージに、不安はどんどん膨らんでいく。
そして、さらに数日が経った頃
ラジオから聴こえてきたのは、ニノではない別の人の声だった。
これまでも、ニノの体調不良や夏休みでパーソナリティが変わることはあったが、番組内でその理由を説明していた。でも、こんな…
最初から何事も無かったかのように、ニノの不在に触れないなんて明らかにおかしかった。
メッセージ画面の電話マークに触れてみたが、呼び出し音が鳴るばかり。
連絡先からニノの番号を表示してみたものの、そこから流れてきたのは
『おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないためかかりません』
と いう、何とも無機質な音声だった。
おれはもう…
居ても立っても居られず、家を飛び出してラジオ局へと走っていた。
…おれが来ることを、松本さんは予想していたのだろうか。
中へと通され、小さな部屋で数十分待たされた。
「…お待たせしました」
「松本さん、ニノは?!何かあったんですか?」
かなり疲れ切った様子の松本さんを見て、足が震える。どうしたんだろう。事故?病気?
最悪の想像ばかりが頭の中を駆け巡る。
松本さんは、そんなおれに痛いほどの敵意を向けた。
「…それは俺が聞きたいですよ。
急に、ここを辞めると言い出して…
先週の放送を終えて、デスクもロッカーも全部 綺麗に片付けて行きました。
今は残っていた有給を消化している状態です。
でも、ニノがそんなことを言い出すなんて有り得ない!!何があったんですか?」
「そんな…」
「番組は打ち切りとなり、来週からは番組名も変更になります。もちろんステッカーの企画もお蔵入りだ。
ニノが大切にしていた番組は…もう無くなるんだよ」
でも、と
松本さんは声を震わせながら付け加えた。
「これは自分のせいだから、大野さんには何も言わないでくれって…
笑うんだよ、あいつ。
目にいっぱい涙浮かべてるくせにさ、笑うんだよ!!」
…何も言えなかった。
なぜ、こんなことになったのか
その理由もわからないまま
抱きしめたはずの大切なものが
この手から砂のようにこぼれ落ちてしまうのを
ただ…
黙って見つめることしか出来なかった。
つづく
miu