つづきです


相葉さん視点です…( ・∇・)







「ね、座って?」



ずっと泣き続けていたかずが、ようやく落ち着き始めたのを見て、声をかけた。


オレはカウンターの中に入ると、数種類のビンを取り出す。

流れるような手捌きでシェイカーを振った。


並べたふたつのグラスに注いだのは、白い雪のようなカクテル。


すっ…と、かずと大野さんの前に置いた。



「相葉さん、これは?」


「これ? これは"プリンセスメアリー"」


「へぇ…キレイだな」


「ほう、見事だな」


「くふふ。恐れ入ります」



オレは、この場にいた もう一人のお客さまに頭を下げた。

…山田さまが、大野さんを連れてきたのには驚いたけどね。


しかも今日 この日に。

どんな神様のイタズラなんだろう。



「山田さまには、こちらを」



いつも店で飲む酒を静かにグラスへと注き、置いた。



「ねぇ、プリンセスメアリーって?」



かずは、大野さんの胸で散々泣いて

ウサギのようになった瞳で、オレを見る。


オレは下手くそなウインクをしながら『祝福』だよって教えてあげたら、かずは顔をくしゃっとさせて、初めて…

オレに可愛いらしい笑顔を向けてくれた。


…あぁ、やっぱり。

かずの笑顔って…良いなぁ。


それを自分が取り戻すことが出来なかったのは少し寂しかったが、心から笑うかずの笑顔に、オレの目尻も下がった。



静かな時間が過ぎていく。



「ね。久しぶりに会ったんでしょ?

積もる話もあるだろうし…ふたりでゆっくり話したらどう?」



オレがそう言うと、かずと大野さんは困ったように顔を見合わせた。聞けば、大野さんは山田さまの家でお世話になっているとか。


うーん…

流石にオレの部屋でふたりゆっくり…とは言い難い。


…本当はそこまでしてあげる義理はないんだけどなぁ。


この店を開く前に、ホテルのバーに勤めてたんだけどさ。

そのホテルに電話をしたら、このクリスマスイブの日に奇跡的に部屋が空いてるって言うから、一部屋押さえてあげた。


はいはい、早く行った。


追い立てるようにドアへと視線を向ければ


そうすることが当たり前のように…

ふたりの手が重なった。



「相葉さん、ありがとう」


「あの、ありがとうございました」



パタンと閉まったドア。


オレは、氷を入れたグラスにカンパリとスイートベルモットを注ぎ入れステアすると、ソーダを注いで、そこにオレンジを浮かべた。


ひと口含むと

甘く…ほろ苦い味が広がる。



「それは…何の酒だい?」



店に残った山田さまが、静かに尋ねるから…

オレは、「"アメリカーノ"っていうカクテルですよ」と答えた。



"届かぬ思い…"



忘れ物をしたから と、かずに頼んで持ってきてもらった 小さな包み。

キレイに結ばれていたリボンを解いて、中から箱を取り出した。


そこに入っていたのは、細くてシンプルなリング。


オレはそれを そっと取り出すと

まだ アメリカーノが残るグラスに沈めた。



「本気だったんだけどなぁ…」



たとえ大野さんが現れなくても…


クリスマスイブであり

自分の誕生日でもある 今日


かずに…自分の気持ちを伝えるつもりだった。



まぁ、結果は…

見事に振られちゃったけどさ。



でも、かずの幸せそうな顔が見られたから、良いか。


窓の外へと目をやれば

この街にしては珍しく…


真っ白な雪が舞っていた。







つづく






miu