つづきです








シャワーを浴び

少し遅い朝食をとりながら、これからのことを話す。



「オレね?一度、戻ろうかと思うんだ。免許証とか再発行しないと不便だし」


「うん、そっか」


「スマホも買い直して、相葉さんに返さなきゃ」


「良い人に出会えたな」


「…うん。アナタもね」


「だな。おれもじいちゃんにお礼しなきゃ」



ホテルを出たオレたちは、相葉さんの所に戻り深く頭を下げた。

相葉さんはオレの頭をぽんぽんと撫でて、良かったね と優しく笑ってたけど…

少しだけ寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。

部屋に置いてあった少しの荷物を持つと、再会を約束して手を振った。


相葉さんのアパートを出て、そのまま山田さまの家へと足を運ぶ。


ここでも丁寧にお礼を言い、着替えやなんかが入っていた小さなバッグを手に取ると山田さまが真面目な顔をして「さて、」と 向き直った。



「ここからは仕事の話をしても良いか?」


「…へ?仕事?」


「うちの会社で新発売する商品なんだが。その広告に君のキャラクターを使用したいと思って」



そう言うと、新聞のチラシの裏に描かれた、手足の生えた魚のキャラクターを楽しそうに眺めた。

山田さまの話に、大野さんの顔つきがすっと変わる。



「前向きに検討させていただきます。

近々また来ますので、それまでに条件などまとめておいてもらえますか?」


「もちろんじゃ。よろしく頼む」



ふたりはガッチリと握手をし、そして あはは

 と笑い合った。






「…カッコいいなぁ」



下りの電車。

心地よい揺れに躰を預けながら、オレはボソッと呟いた。



「何が?」


「大野さんも、山田さまも、相葉さんも…

なんか、自分をしっかりと持ってるって感じ」


「…ニノは?」


「オレ?オレは…」



仕事もない、住む所もない。

技術や資格のようなものも…


今のオレには、笑ってしまうほど何も無かった。



…でも。



心配して怒ってくれる友だちがいる。

静かに見守ってくれる家族がいる。

行き場のない気持ちを抱え、途方に暮れてても

優しく手を差し伸べてくれる人がいる。


そして、何よりも。


オレには…大切な人が、いる。


共に歩いていこうと思える、アナタが。



「オレはさ、これからカッコよくなるのよ。笑

だから…隣にいて?」



…うん。大丈夫。


前を向ける。


ゆずれない思いは、オレにだってあるから。



ぎゅっと繋いだ手を、胸に当てて

静かに目を閉じた。



この思いを抱いて


オレは…

オレたちは歩いて行こう。



ずっと、一緒に。







後日談を、もう1話。

それでこのお話は終了です( ・∇・)




miu