この翔くんサイドで、本当にラストです。


では、どうぞ。









智くんの元を去ってから

俺は、何かに取り憑かれたように仕事に没頭した。


…もちろん、智くんに言った「次の若手アーティストの育成」なんてのは口から出まかせだ。

大学時代の先輩が経営する会社で、ぜひ営業を担当して欲しいと前から声をかけてもらっていたこともあり、その言葉に甘えることにしたのだ。

最初こそ失敗もあったが、新しい仕事にもすぐに慣れ、あっという間に営業部の部長を任されるようになる。


たくさんの人と出会い

ともに仕事をしていく中で


俺は、自分がどれだけ狭い世界しか見ていなかったのかを知った。


…智くんだけで良かった。

彼のことをだけを考えていた。


でも、それは歪みを生み

全ては…自分の手で壊してしまったのだと気づいたんだ。



その後の智くんの近況は、インスタやTwitterで知っていた。

ずっと止まっていたアカウントが動き出した時には、あぁ これは二宮さんが手伝っているのだろうって。

定期的に更新されるようになったイラストからは、彼が心から楽しんで描いていることが伝わってきたから。だから、きっと…

智くんの隣には、二宮さんがいるのだと…分かったんだ。

元々、智くんはSNSに興味は無かったし

何より彼はあのテのことには疎いから、絶対智くんじゃない二宮さんだって、俺は勝手に決めつけていた。


でもさ、新しく描き上げられたイラストに添えられた飾らない言葉や、どことなく無骨な印象を受ける文字列は、智くん本人のものに間違いなかった。


結局、俺は…

彼のことを、本当には理解していなかったのかもしれない。


もしかしたら、智くんは窮屈だったのかもなぁ



どこまでも続く青い空を見上げて

ごめん と呟いた。




時間薬…とは、よく言ったもので。

時が経つにつれ、縺れた心の糸は解けてゆき、苦しい記憶は薄れ、やがて思い出に変わっていく。


もちろん、大切な人を傷つけてしまった罪は決して消えない。

智くんも二宮さんも…

俺を許すことはないだろう。


智くんと過ごした日々は かけがいのないものだったし、今でも時折…夢に見る。

夢の中の智くんは、『翔ちゃん』って、いつものふにゃっとした笑顔を向けてくれていて。

目が覚めて、そこに智くんはいないのに、とても幸せな気持ちになるんだ。


それは、今、彼が幸せだと確信し


俺自身も…前を向いて歩き出そうとしているからなのかもしれなかった。







「良い店に案内するよ」


山田会長とは、半年ほど前に合同プロジェクトを立ち上げた際に知り合った。既に引退して悠々自適だというが、まだまだその影響力は大きい。

それに、過去には 当時社長だった山田会長の経営する企業が、智くんの描いたキャラクターを広告に使用したことがあった。

そのこともあり、実は…かなり前から注目していた人物だった。


縁あって、今回一緒に仕事をすることになり…


山田会長とは、仕事上の付き合いだけのつもりだったのだが、何度か会ううちに、すっかり気に入られてしまったらしい。秘書や他の関係者を帰した後、個人的に飲みに行こうと誘われた。


俺自身、山田会長の人柄に惚れていたこともあり、断る理由は何もない。


そうして連れて行かれたのが


"ラパン"という

趣のあるバーだった。



静かで、落ち着く雰囲気

若いマスターは、男だけど"美人"と表現するのがぴったりで。

不覚にもドキッとしてしまった。


何より…酒が極上に美味くて。


同じ酒を出す店は他にもあるが、こんなに美味いと思ったことは無かった。



そんな、至福の時を過ごしていた俺の目を奪った、一枚の絵。

座っていた場所からは遠くて細部までは確認できなかったのだが、もしかしてあれは。



もう一度…来たい。


そう思いながら、この店を後にした。






忙しかった仕事が一段落し、やっとラパンに訪れることができた。


こちらにどうぞ と用意された席を断って

俺は、壁際の窮屈な席に座った。



…ああ。


智くんの絵だ。



シンプルな線で描かれたイラスト。

その上に、鮮やかな色が重ねられている。


昔と変わらない


いや、違うな。

前よりも…温かな色の使い方をしているように思う。


…?

眺めていて気づいた。

これは、刷られたものじゃない。イラストボードに直接描かれているようだ。


考えてみれば、ここは山田会長の馴染みの店だ。一緒に仕事をしたことのある智くんがこの店に来ていても不思議はない。


あれから5年。


智くんへの気持ちに、もう未練はない。

でも、自分の中では区切りがついていても…向こうが同じ気持ちとは限らないから。

まさかハチ合わせすることもないだろうが、ここに来るのは最後にした方が良いのかもしれないな。


少し寂しく思いながら、テーブルの上に代金を置いた。

立ち上がった俺の手に、何かが触れる。

そこに置いたはずの札が、手の中に押し込まれていた。



「あの、今日はオレにご馳走させてください。その代わり…

また来てくださいますか?」



それまで、ずっと静かに話していたマスターが、急にその距離を詰めてきたことに驚いたが

彼の真剣な瞳に、断るという選択は考えられなかった。



「うん。じゃあ…また来るよ」



我ながら子どもっぽいかとは思ったが、約束。ゆびきり。俺が小指を差し出すと、彼は嬉しそうに小指を絡めた。


思わず笑ってしまった俺につられて、彼も目を細めて笑う。



何か が動き出しそうな予感がした。


でも、それは…

決して悲観的な末路ではなく


無数の光に満ちた、前途。



壁に飾られた智くんの絵を見つめ


俺は、まだ見ぬ未来に思いを馳せた。






おわり





*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


つづき…の割には、中途半端ですが。


翔くんと相葉さんの出会い

大野さん、ニノちゃんとの再会


そして、5人で笑い合う日々…


きっと、遠くない未来に

それが待っているでしょう( *´艸`)



ではでは、薄っすらと櫻葉要素を残して(笑)

これにてever…終了でございます。


ありがとうございました♡




miu