テーピングの男 | まつすぐな道でさみしい (改)

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どうやら肩にテーピングを貼った手負いの男が千秋楽の舞台、2連勝で逆転優勝を決めたらしい。



13日目 日馬富士戦で肩を外されたのか?  土俵下で立ち上がれない姿に相当ヤバイことになったと直感し、14日目 鶴竜戦での、肩にテーピングを貼り全く力の入らない痛々しい取り組みには目を背けた。



新・横綱としての責務を果たすため出場はするのだろうが、土俵に立つだけで精一杯だろうと思われた千秋楽で奇跡は起こった。





2017年 3月26日
◆大相撲春場所千秋楽 エディオンアリーナ大阪

▽本割 
○稀勢の里(突き落とし)照ノ富士●

▽優勝決定戦 
○稀勢の里(小手投げ)照ノ富士● 
 

前日、大関復帰に燃える琴奨菊を立ち合い変化をつかってまで退け、星ひとつリードで直接対決に臨む巨漢の外国人力士は観客にとっては絶好のヒールだっただろう。


会場に響き渡るブーイングで迎えられた照ノ富士は、本割では右前まわしをとり、稀勢の里が痛めている側の左腕を絞り上げるような厳しい攻めを見せたが、逆転の突き落としに屈した。


優勝決定戦では正面からぶつかってもろ差しになったものの、ここで逆襲の小手投げを受けた。残しきれず前のめりになった照ノ富士は転がされ、土俵に腰掛けるような態勢で、ぼう然としたような表情を浮かべた。


これが千秋楽に起こった真・横綱の逆転優勝劇らしい。



らしい?



そう、私は仕事のため18時過ぎに出掛けなけばならなかったのだが、時間的には千秋楽を見るくらいの余裕は十分に有った。

にも関わらず、どうしても気が進まず優勝の結果も確認せずにそのまま家を出てしまった。



どうも私は、負傷部分をテーピングでガッチリと固め強行出場をするお相撲さんの姿を見るのが苦手だし、それを美徳として称賛する空気感自体が好きになれない。


そんなことを言いつつも帰ってVTRを見れば人並みに感動するのだろうが、怪我を押しての優勝決定戦というと、どうしても2001年夏場所貴乃花武蔵丸の一戦を思い出してしまうのだ。




2001年 5月27日  
◆大相撲夏場所 千秋楽  両国国技館

▽本割 ○武蔵丸(突き落とし)貴乃花●

▽優勝決定戦 ○貴乃花(上手投げ)武蔵丸● 

この場所13日目まで全勝で突っ走っていた貴乃花に異変が起きたのは14日目 大関 武双山との一番。


この対戦で貴乃花は右ひざを亜脱臼、千秋楽出場さえも危ぶまれるほどの大怪我を負ってしまった貴乃花は、周囲の反対を押し切り強行出場を決める。


そんななかで迎えた千秋楽、武蔵丸との本割での対戦では、武蔵丸の立会の変化に対応出来ず完敗。13勝2敗で並ばれ迎えた優勝決定戦。



その場に立っていることすらままならないという状態で、患部をテーピングでガチガチに固定し土俵に上がった貴乃花が塩を取りに行こうと振り返った刹那、奇跡は起こった。「そのとき亜脱臼している右ひざを回してみたら、うまく嵌った。それでなんとか戦えると思った…」これが実際に関節が嵌ったものなのか? それとも自分を奮い立たせようとそう思い込んだだけなのかは定かではない…



両雄が土俵へ立つも既に勝敗は見えている。誰もがそう諦めている一番によもやの事態が起こる。


貴乃花が立ち合いからまるで別人のように息を吹き返したのだ。貴乃花は、武蔵丸に強烈な平手を見舞った後にすぐさま左の上手をもぎ取る。そのまま右四つになるも貴乃花がすぐさま右手を引き寄せるようにして、武蔵丸を上手投げで土俵に叩き付けた。この直後に見せた目を吊り上げ唇を噛みしめた表情は、まさに鬼の形相だった。


この劇的ともいえる勝利に観衆は狂喜乱舞し、日本中が感動の渦に巻き込まれた。時の内閣総理大臣小泉純一郎が賜杯を送る際に放った「痛みに耐えてよく頑張った。感動した! おめでとう!」という言葉は多くの国民の共感を得て内閣支持率を上げるという奇妙な現象まで起こしてしまうのだが、この僅か13.2秒の取り組みで貴乃花の払った代償はあまりにも大きかった。


7場所連続休場という1年以上のブランクを持って再生手術を試みるも、あの一番で半月版が粉々に砕け散ってしまった右ひざが元のように回復することはなく、復帰後の貴乃花は1度も優勝の賜杯を抱けぬまま2003年 1月場所を最後に現役を引退する。




ちなみに、この一番を見て力士になる決心をした中学生が、昨夜同様のシチュエーションで日本中を感動させた横綱に成長したという話。らしいのだが、ネットニュースで稀勢の里優勝のニュースを見た私の頭に浮かんだのは、まったく別の人物だった。



少し長くなってしまったが、上記の理由で私はテーピングを巻き怪我を押して頑張っています。という力士やレスラーの姿を見るのは好きではなく、ましてや長いスパンである程度のストーリラインが決められているであろうプロレス団体で、選手個人の意思を尊重するという表向きのスタンスで、選手の体調を無視して出場を続けさせる団体の姿勢にも疑問を感じる。


何シリーズも通してテーピングを貼り続け痛々しい姿を晒すぐらいならば、いつそ1シリーズくらい欠場してプロとして万全な体調で試合を見せて欲しいと、常々憤っているのだが…




もし、あの男にとっての両国大会があの日の貴乃花同様、その後の現役生活をすべて棒に振ってでも悔いは残らないという覚悟で臨む物であるとするならば、それは10年後20年後に現れるであろう、まだ見ぬチャンピオンが過去を振り返ったとき『自分はあの一戦を見てプロレスラーになることを決意しました!』と言われるような素晴らしい一戦であって欲しい。







そして、もし叶うのであれば、試合後の男の腰に最高峰のベルトが巻かれていることを願うばかりだ。
















もう一丁!