この冬(というか9月から毎週末どこかしらの映画館に行っていた)にかけて、色々見たい作品が公開され、

特に気に入ったこちらの2作についての感想を。

※ネタバレしてます



THE FIRST SLAM DUNK


これはもう制作発表から必ず見ると決めていた。

大学の卒論で題材の一つにしたので、正直何周したか記憶にないほど読んで読んで読んで、読みまくった思い入れのある作品。


とにかく井上先生の絵が“そのまま動いている”と感じたのが嬉しくて、時間があっという間だった。

キャラデザや色彩設計は新装版の表紙に近いような、鮮やかすぎない色調で、動きは3Dを使いつつも綺麗すぎないしかと言って違和感もない。

手で描いたような線がしっかり残ってるところが味がある。

ベンチメンバーまで生き生きと動いていてとても嬉しかった。


あと音周りも良かった。

画面の大きさは大きいに越したことはないけど(IMAXでなくても良いと思うけど)、とにかく良い音のところで見るべきだなと思った。

(劇伴で入るのが意外だったけど)武部さんのストリングスや鍵盤を使った繊細な劇伴や、ボールがバウンドするSE、息遣い、そして10-FEETの楽曲を使用した随所のブチ上がるバンドサウンドの劇伴。

これは大音量の綺麗な音響で聴くに限る。


今回は宮城リョータを主軸にした山王戦の模様が描かれていたけど、これがすごく新鮮だった。

なんかすごく良い意味で“普通”な感じがしたんだよね。

桜木はある意味天才だし、ゴリは存在感が凄まじい、流川や三井はプレーの上で強みがある。あとそれぞれキャラが濃さを極めている。

リョータはその中で確かにバランサーな印象があったし、元々あった才能ってよりコツコツ開花させていったタイプだと思う。

その宮城が中心になる事で、非常に等身大で、親近感ある湘北に描き直されたな、という印象。

あと、原作は桜木が中心でギャグタッチも多いけど、宮城や彼の家族の繊細な心情をもとに、深みのある物語になっていたな。


そして何といっても山王戦の試合シーン。

あれをアニメーションで見られただけで胸がいっぱい。

尺の問題でカットもあったし、そのセリフそう言うかぁ〜みたいなところもあったけど、とにかく私は三井の美しい3Pを堪能できたことが幸せだった…。静かにしろい…。

そして最後のシーン。あの原作でセリフがなくなるところや、桜木と流川の無言のハイタッチをあのように描いてくれたのが解釈一致すぎて素晴らしかった。

あと、赤木の“オレたちゃ別に仲良しじゃねぇし、お前らには腹が立ってばっかりだ”のところを入れてくれたのも本当に嬉しかった。

やっぱり今の漫画にはない、スラムダンクらしさの全てがここに全て詰まっている。


ところでこの作品、なぜFIRSTなのだろう。

この映画を序としてその後もしくは原作準拠の第1話に戻るのかなと思ったけど、思いの外綺麗に終わってるからこの後はないか…?

もしくは、宮城を1として他のキャラクターへ続くのか?

この、FIRSTの意図を知りたいところである。

しかしとにかく良かった。



ラーゲリより愛を込めて


戦争を題材にした作品となると夏のイメージが多いけれど、この作品は終戦後のシベリア抑留というところで、冬公開というのはなるほどなという印象。


まずなんといっても、シベリアの豪雪地帯の描写がすごかった。

暴風に乗って吹き付ける大きな粒の雪や、一歩踏み出すほどに膝近くまで埋まる雪。

とにかく雪、雪、雪…。

その中を顔を真っ赤にしながらあんな軽装備で重労働を強いられる捕虜たち。

天候や労働だけでなく生活環境も劣悪そのもの。

映画とはいえ、画面の中から過酷さが伝わってきた。

そして帰国もできずそんな生活を続ける中、捕虜たちがどんどん荒んでいくのもまた哀しい…

松坂桃李くん演じる松田の虚な表情や、桐谷健太さん演じる相沢の目だけがギラッとしているところも、すごく印象に残っている。


そんな中、周りの捕虜たちに帰国を諦めさせないため

奮闘する山本。

映画の中で句会を催したりする一幕があったけれど、史実の中でもさまざまな試みを行い、希望を持たせ続けるよう鼓舞していたようである。


そんな姿を見ていてふと思い出したのが、高校の時に読んだ“夜と霧”。

著者は心理学者、精神科医で、ナチスの強制収容所に収容されながらも辛うじて生き延びた、フランクル。

収容所での経験を心理学のアプローチから分析し、そこから生きる意味を人々に伝えていくという非常に興味深い著書。(とてもいい本なので是非)

その中でフランクルは収容所での体験を人々に伝えることを生きる意味とし、収容所を生き延びたけれど、

山本は生きて家族に再び会う約束を果たすことを、山本亡き後の仲間たちは彼の遺書を遺族へ届けることを、収容所を生き延びる意味として持ち続けた。

他にも色々とハッと本の内容を思い出すところがあって、絶望していた山本がシベリアの空をひととき見上げて感慨に耽るシーンや、松田が野原から綺麗だと思った花を摘んで病床の山本に差し入れるシーンなどは、思わず首をぶんぶん振ってしまった。


今回久しぶりに二宮さんのお芝居をじっくり見られて嬉しかった。

言葉がない時の表情とか間合いとかが好きなので、二宮さん出演作品はコメディじゃない系の映画が1番観たい!と思う。(流星の絆はドラマだけど、シリアスなシーンは尺をしっかり取ってくれてたのが良かったよね…)

特に、病床に臥せってからのシーンはどこも見どころだった。日に日に力がなくなっていく中、絶望も希望も抱えてベッドの上で過ごす姿。

大きな動きがない分、目線や声…出せる箇所で徹底的に情報を表現しているところが凄かった。

実在した人物を演じるというところで、もう少し生々しく来るかと思ったら、

(おそらくあえてだろうとは思う)結構ニュートラルに演じていたなという印象。だからこそ彼の信念や感情を表す言葉そのものがストレートに入ってきた。


あとは、安田顕さんの、表情から一切の感情が無くなったお芝居も凄かった…。

顔の色が変わるくらい殴られて、首からプラカードを下げて座っているところとか…。

徐々に、徐々に、目に光が戻っていく様子がゆっくりと見られて興味深かった。


北川景子さんも素敵だった(そしてお綺麗だった)

泣いているシーンが印象的で、あんな綺麗に流れる涙があるのだな…というくらい、めちゃくちゃ画になっていた。

満州にいた時の姿から、終戦にかけて頼もしく、肝が座ったように見えるモジミさん。さらっとしたセリフの中で語られているけど、特に本土に戻り、教師に復帰するまでの間は想像を絶する苦労があったことが分かる。


二宮さんやケンティーといったキャストがこの映画を演じる事で、若い世代に(自分も含め)向けて引き継いでいけるということは意味があると思うし。

大学時代メディアの勉強をする中で戦争とメディアについても学んだけれど、戦争は同じ事象でも国によって価値観や捉え方が色々違っていて、そういう意味では戦争にまつわる作品を作って残すというのは(色々難しい面もあるけど)記録として意味があるのだろうと思う。


あと、ケンティーの坊主、結構いけてた。