映画「I AM/アイ・アム~世界を変える力」~人類の「共感」本能
映画「I AM/アイ・アム~世界を変える力」(2011年・米)は、
ジム・キャリーを見出したコメディ映画の監督トム・シャドヤックによる、
まじめなドキュメンタリータッチの作品。
原題の「I AM」は直訳すれば「私だ」「私という存在」だが、
さて、
映画ではどのような「私」が語られているのか?
トム・シャドヤックは、
趣味の自転車事故で大けがをして人生観を変える体験をしたことで、
後世に自分が作品で伝えることの意味を考えてこの映画を製作したと言う。
この映画は、
現代人が理想としている「独立心」や「競争心」は人類の理想ではない、
という観点で、
氏が関心を寄せる科学者、詩人などへの自身によるインタビューを中心に進行する。
インタビューで最初に登場する人物は、
生物学者デヴィッド・スズキ氏(日系カナダ人三世)。
スズキ氏は世界の生物学会でもっとも有名は学者の一人で、生物多様性における世界的権威。
氏は地球の生命体はすべて親類関係にあると説き、近年のヒトゲノム(人間の遺伝情報)の解析でわかった科学的な現実=地球上の全生命体は多くの共通の遺伝子を持つことを人類は受け入れる必要性を説いている。
●ヒトゲノムマップ(京都大学のサイト)
http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/genomemap/
なお、スズキ氏はブリティッシュコロンビア大学名誉教授で、カナダを代表する環境団体デヴィッド・スズキ・ファンデーションの会長。また、第二のノーベル賞と言われるライト・ライブリフッド賞、カナダで最高の栄誉であるカナダ勲章、ユネスコ・カリンガ科学普及賞、UNEPメダルなどを受賞し、20以上の名誉学位を持つ。2004年には、カナダの国民投票で「生存する最も偉大なカナダ人」に選ばれている。
1992年、リオネジャイロで開催された環境サミットで、実の娘であるセヴァン・スズキ(当時12歳)が話した6分間のスピーチは「伝説のスピーチ」と言われ書籍にもなっている。
●環境文化NGOナマケモノ倶楽部 『あなたが世界を変える日 12歳の少女が環境サミットで語った伝説のスピーチ』日本語訳
http://www.sloth.gr.jp/relation/kaiin/severn_riospeach.html
映画の中では多くの印象的な話が出てくる。
・動物の世界には民主主義があり、ある驚くべき観察によると100頭のシカの群れがいた場合はその過半数の51頭が水飲み場にそれとなく視線を動かしたときに一斉に水飲み場に向かって群れが動きだすと言う。ときには群れのリーダーは群れが動き出してはじめて気がつく場合もあるという。
・弱肉強食による自然淘汰・適者生存で代弁されるダーウィンのイメージは歪曲されている。その著書「進化論」の中では、「適者生存」は2回しか登場しないが、「愛」は90回以上も出てくる言葉で、ダーウィンは人類の特徴を「共感できる能力」だと説いている。
・人の神経細胞ミラーニューロンは「共感」を司っている。ミラーニューロンはイルカなどのほ乳類にも存在しているようだ。
・被験者の前に離れて置いたヨーグルトの菌に被験者の感情が影響を与える実験…。
・人にとって脳よりも心臓の方が重要で、「愛」「共感」などを感じる前向きな気持ちになると体調が最善な状態になる。
・多くの先住民族で見られる古代からある共通の観念として「必要以上の財産を持つことは心の病」という考えがある。
・一人の英雄ではなく一人一人の人間の問題意識が世界を変えてゆく。
世界観を変えたトム・シャドヤックは個人所有のジェット機を売り、複数購入していた邸宅も売り払って自転車通勤していると言う。
日本では明治時代まで”love”(英語)、”amour”(仏語)、”Liebe”(独語)の訳語がなかった。そこで、福沢諭吉は「愛」と訳した。
「愛」という言葉は堅苦しく、その本当の意味も曖昧にしてしまうようだ。まだ和製語として造られて100年くらいしかたってないからか、「愛」という言葉には日常的な身近な感じも生まれていない。
【参考】
”love”の訳語がなかった明治時代初期、「I love you」を小説家の二葉亭四迷は苦し紛れに「私、(あなたのためなら)死んでもいい」と迷訳したが、「私はあなたを愛する」よりも当時の読者に理解してもらえた名訳だ。
「愛」とは…と考えると、いまだにこそばゆいが、
訳語のない時代でも本来本能的に日本人は「他者への思い」「利他の心」を抱いていて、この「他者」には人間だけでなく植物や動物、山河など自然全体が含まれているような気がする。
この概念は輸入された高飛車な造語「愛」とは異なるような気がする。
地球では今、
この瞬間に熱帯雨林が1秒間に400m2以上が失われ、1分間に24人以上が餓死し、1日で数十~250くらいの生命の種が絶滅している。
この地球の、人類の悲惨な現実に対して、100人中50人以下の人々が目をそむけているからこの現実は変わらない。
しかし、
その現実に気がついて行動する人が100人中51人目に達したそのとき、世界に大きな変化が訪れる。
全員で100人程度ならば多数決は可能だが、人類70億ともなると…この多数決のカウントをどうするか?が最大の問題になる。インターネットなどの科学技術がその大役を担うことになるだろう。
ただ、
私利私欲に走って蓄財にはげむ貪欲な人々はこの正当な多数決による民主主義を阻もうと画策するだろう。今でもこのせめぎ合いが続いている。
ジム・キャリーを見出したコメディ映画の監督トム・シャドヤックによる、
まじめなドキュメンタリータッチの作品。
原題の「I AM」は直訳すれば「私だ」「私という存在」だが、
さて、
映画ではどのような「私」が語られているのか?
トム・シャドヤックは、
趣味の自転車事故で大けがをして人生観を変える体験をしたことで、
後世に自分が作品で伝えることの意味を考えてこの映画を製作したと言う。
この映画は、
現代人が理想としている「独立心」や「競争心」は人類の理想ではない、
という観点で、
氏が関心を寄せる科学者、詩人などへの自身によるインタビューを中心に進行する。
インタビューで最初に登場する人物は、
生物学者デヴィッド・スズキ氏(日系カナダ人三世)。
スズキ氏は世界の生物学会でもっとも有名は学者の一人で、生物多様性における世界的権威。
氏は地球の生命体はすべて親類関係にあると説き、近年のヒトゲノム(人間の遺伝情報)の解析でわかった科学的な現実=地球上の全生命体は多くの共通の遺伝子を持つことを人類は受け入れる必要性を説いている。
●ヒトゲノムマップ(京都大学のサイト)
http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/genomemap/
なお、スズキ氏はブリティッシュコロンビア大学名誉教授で、カナダを代表する環境団体デヴィッド・スズキ・ファンデーションの会長。また、第二のノーベル賞と言われるライト・ライブリフッド賞、カナダで最高の栄誉であるカナダ勲章、ユネスコ・カリンガ科学普及賞、UNEPメダルなどを受賞し、20以上の名誉学位を持つ。2004年には、カナダの国民投票で「生存する最も偉大なカナダ人」に選ばれている。
1992年、リオネジャイロで開催された環境サミットで、実の娘であるセヴァン・スズキ(当時12歳)が話した6分間のスピーチは「伝説のスピーチ」と言われ書籍にもなっている。
●環境文化NGOナマケモノ倶楽部 『あなたが世界を変える日 12歳の少女が環境サミットで語った伝説のスピーチ』日本語訳
http://www.sloth.gr.jp/relation/kaiin/severn_riospeach.html
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映画の中では多くの印象的な話が出てくる。
・動物の世界には民主主義があり、ある驚くべき観察によると100頭のシカの群れがいた場合はその過半数の51頭が水飲み場にそれとなく視線を動かしたときに一斉に水飲み場に向かって群れが動きだすと言う。ときには群れのリーダーは群れが動き出してはじめて気がつく場合もあるという。
・弱肉強食による自然淘汰・適者生存で代弁されるダーウィンのイメージは歪曲されている。その著書「進化論」の中では、「適者生存」は2回しか登場しないが、「愛」は90回以上も出てくる言葉で、ダーウィンは人類の特徴を「共感できる能力」だと説いている。
・人の神経細胞ミラーニューロンは「共感」を司っている。ミラーニューロンはイルカなどのほ乳類にも存在しているようだ。
・被験者の前に離れて置いたヨーグルトの菌に被験者の感情が影響を与える実験…。
・人にとって脳よりも心臓の方が重要で、「愛」「共感」などを感じる前向きな気持ちになると体調が最善な状態になる。
・多くの先住民族で見られる古代からある共通の観念として「必要以上の財産を持つことは心の病」という考えがある。
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「愛」という言葉は堅苦しく、その本当の意味も曖昧にしてしまうようだ。まだ和製語として造られて100年くらいしかたってないからか、「愛」という言葉には日常的な身近な感じも生まれていない。
【参考】
”love”の訳語がなかった明治時代初期、「I love you」を小説家の二葉亭四迷は苦し紛れに「私、(あなたのためなら)死んでもいい」と迷訳したが、「私はあなたを愛する」よりも当時の読者に理解してもらえた名訳だ。
「愛」とは…と考えると、いまだにこそばゆいが、
訳語のない時代でも本来本能的に日本人は「他者への思い」「利他の心」を抱いていて、この「他者」には人間だけでなく植物や動物、山河など自然全体が含まれているような気がする。
この概念は輸入された高飛車な造語「愛」とは異なるような気がする。
地球では今、
この瞬間に熱帯雨林が1秒間に400m2以上が失われ、1分間に24人以上が餓死し、1日で数十~250くらいの生命の種が絶滅している。
この地球の、人類の悲惨な現実に対して、100人中50人以下の人々が目をそむけているからこの現実は変わらない。
しかし、
その現実に気がついて行動する人が100人中51人目に達したそのとき、世界に大きな変化が訪れる。
全員で100人程度ならば多数決は可能だが、人類70億ともなると…この多数決のカウントをどうするか?が最大の問題になる。インターネットなどの科学技術がその大役を担うことになるだろう。
ただ、
私利私欲に走って蓄財にはげむ貪欲な人々はこの正当な多数決による民主主義を阻もうと画策するだろう。今でもこのせめぎ合いが続いている。