【第1回】に続き【第2回】をお届けします。


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 ◆ 川添 潤子(大学院政治学研究科政治思想領域 修士二年

 

(稽古見学後の質疑応答で)演出の利さんが何度も私たちに教えてくださったことがある。それは、この作品に込められた「リアリズム」である。『ミュージカル李香蘭』は、李香蘭を中心にその時代背景が色濃く再現されている。しかしそれは現実に起きた事とは思えない程にドラマチックである。物語の狂言回しである川芳子の語り口からも、観客はフィクションドラマを観ているように感じてしまうだろう。しかし一部設定を除けば、すべてこの国で、そして中国で現実に起きた出来事そのものである。浅利慶太の巧みな演出と役者陣の計り知れない努力により、観る人々は仮想的に当時の空気を吸うことができる。それはテレビドラマでは得られない体験である。


 しかし観客が当時の雰囲気をリアルに感じる理由はこれだけではない。当時を生きていない人たちばかりの俳優たちは、「語る」難しさについて話した。それは、当時の言葉遣いを初めとして、その言葉の意味とは何か知らなければならない、ということである。台詞の意味を芯から理解して口にすること、これが、浅利慶太が役者陣に求める「語り」である。初演からずっと李香蘭役を勤められている野村玲子さんは、「自分と山口淑子さんとが(演じていくなかで)重なりあっていくのを感じる」と仰っていた。それはその役とシンクロしていくまで究めている証ではないだろうか。


 この作品の上演目的は、時代のドラマチックさや空気を全てリアルな形で伝承していく事、さらには国境を越えた愛情を育んでほしいというメッセージが込められている。


ミュージカル李香蘭』は、間違いなく観る人を当時の島国「大日本帝国」と、幻の国「満州国」へ連れて行ってくれるだろう。さらには、観劇後誰もが李香蘭と同様、両国を隔てる「万里の長城」の上に立つことができるだろう。そしてきっと自分たちの「黒い髪、黒い瞳」を愛おしく思うようになるだろう。



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◆ 金城 文(大学院政治学研究科ジャーナリズムコース修士一年)

 

二つのシーンがとても印象的でした。「満州国礼賛のシーン」と「月月火水木金金のシーン」です。


両者とも、今の時代では珍しいシーンだと思いました。そのシーンだけを切り取ってみれば、「アジアを解放した大東亜戦争」「軍国主義の美化」にも思えます。

 

全編を通し見ることで、その誤解は解けます。「満州国礼賛」のシーンは、物語全体に深みを待たせます。

 

あの戦争を単純に理解しようとせず、複合的な視点で見るということの重要さ、そして面白さを感じました。



---------------------------- 以上【第2回】


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