先日の【第2回】に引き続き、早稲田大学の学生たちによる、稽古見学会の感想をお伝えいたします。

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● 呉 昊(政治学研究科ジャーナリズムコース 修士一年)
 
<前文省略>

 初めての舞台稽古、本当に貴重な経験となった。目の前に俳優たちが踊ったり、歌ったりして、迫力が半端ではないと感じた。普段観客席で見えない一人ひとりの身振りから表情まではっきり見えて、泣くほど感動してしまった。

 このミュージカルは単に李香蘭の物語ではなくて、我々若い世代が経験したことのない、遠い時代の人々の物語だった。経験したことがある浅利先生こそ、こんな作品が作れるではないか。時間に沿ってきちんと展開しつつある。李香蘭の半生を見ながら、歴史の授業で勉強したことが一つ一つ蘇ってくる。日本であまりない歴史を正視する作品でありながら、中国のような反日作品ではなくて、心から感心した。

「二つの国を愛して欲しい 私たちは兄弟 二つの国を愛して欲しい 黒い髪黒い瞳」、隣国同士がいがみ合いをしてるこういう時代だからこそ、本当に大切にしたいメッセージが込められている。

 終戦してから70年、日中両国はまだまだ摩擦が止まらない状態だが、ラストで裁判官が歌い上げる、憎しみを憎しみで返すなら争いは永遠に終わらない、未来のために徳を以て怨みに報いよう、との言葉が深く心に残った。二つの国を愛してほしいと願ったあの当時の人々の思いを無駄にしないことを今を生きる私たちはもっと考えなければと思った。

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●片野 雄太郎(文学研究科 修士一年)

 自分の直接関与しえない過去に対する責任は生じるのか、もし生じるとしたらどのようにしてその責任を果たせばいいのか。ここ数年、そんなことをよく考えます。

 終戦から70年。私たちは、自らが経験したことのない「戦争」の事実を後世に伝える、という困難なタスクに直面しています。歴史から目を背けたり、都合よく書き換えてしまう方が、よほど易しいことでしょう。その時、本当は何が起こったのかを、私たちは自分の目で捉えることができません。その音、その匂い、その痛みを、身体に刻みつけることができない。

 『ミュージカル李香蘭』に出演されている俳優の方々も同じように、戦争を経験していません。「満州国」や「漢奸」といった言葉を知らない人も少なくなかった。しかし彼らは、演出家・浅利慶太さんの「あの戦争をきちんと伝えたい」という思いに応えるべく、文献・資料に当たり、先人の声に耳を傾け、全身をなげうって演技に徹しています。そのひとつひとつの動き、表情、台詞。彼らの発する熱が形を持って、観衆に「あの戦争」の実相を提示します。私はそこに、彼ら自身の「伝えなくてはならない」という強い責任を感じました。

 日々の報道では隣国への敵対感情がむき出しにされ、戦後の日本に築かれた法治国家・民主主義の土台は次第に人治・独裁へと移行しつつあるように思えます。まるで戦中を再現しているかのような現実に対して、『ミュージカル李香蘭』は警鐘を鳴らします。そこに描かれるのは、狂気に憑かれた人間たちが引き起こす戦争のリアルな姿。そして、その騒乱に巻き込まれ、「祖国」と「母国」の間で引き裂かれる純粋無垢な一人の女性の悲痛です。

---------------------------------以上【第3回】


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