たった10分の日米首脳外交でいいのか


2010/4/14付 日経新聞 http://bit.ly/dj2bEE

鳩山由紀夫首相は12日夜、すがる思いでオバマ米大統領に話しかけたに違いない。自らが決着の期限に定めた5月末まで1カ月半となった。にもかかわらず、米軍普天間基地の移設問題の解決の道筋がいっこうに見えないからだ。

 オバマ氏と夕食会で隣り合わせた首相は、5月末までの決着を重ねて約束したうえで、大統領に協力を改めて求めた。オバマ氏がどう答えたかについては、首相は明らかにしなかった。

 通訳を介した約10分間の会話である。細かい話に立ち入る余裕はなかったはずだ。突破口になるやり取りが交わされたとは考えづらい。はっきりしているのは、首相が大統領との会談を望んだにもかかわらず、実現しなかったという事実である。

 核安全保障サミットの期間中、オバマ氏は中国をはじめ、ウクライナやカザフスタンなど多数の国々の首脳と会談している。大統領は核サミットの議長であり、分刻みの忙しさだろうが、同盟国の日米の首脳が会談できない事態は極めて深刻だ。

 オバマ政権は普天間問題をめぐって、移設先となる地元の同意を得られる案であることを事実上、受け入れの条件にしている。しかし、日本国内では移設先に取りざたされる地方自治体で反発が広がっている。鳩山政権はもっと真剣に国内の調整を急がないと相手にされない。

 普天間問題は米国以外の国との首脳外交にも影を落としている。緊張の度を増しているイラン問題をめぐっては、日米同盟の足元が揺らいだままでは、欧州諸国の首脳との緊密な連携も難しい。

 東シナ海のガス田問題を抱える中国との交渉はなおさらだ。首相は中国の胡錦濤国家主席との12日の会談で、ガス田の共同開発に関する条約締結交渉を始めるよう呼びかけた。明確な答えは得られなかった。首相は先月、エジプト紙に「日中関係が良くなれば、日米、米中関係も良くなる」と語ったが、現実が逆であることははっきりしている。

 好対照なのが米国と中国の動きである。台湾への武器売却やチベット問題で対立を深めていたが、オバマ氏と胡氏の会談を機に、イラン問題などで妥協を探るムードが出てきた。人民元の切り上げをめぐっても実のある話し合いをしたようだ。

 米中は多くの火種を抱えており、一本調子で改善に向かうとは限らない。だが、このまま日米が停滞すれば、北朝鮮問題をはじめとするアジアの懸案も米中主導で交渉が進み、日本はさらに埋没する。



「小沢民主党」に言論の自由はないのか(社説)
2010/3/21付  民主党は生方幸夫副幹事長を解任する方針を決めた。近く党役員会と常任幹事会で正式決定する。執行部の一員でありながら、党外で小沢一郎幹事長の党運営への批判を繰り返したという理由からだ。
 生方氏の言動が特に問題視されるような内容だったとは思えない。強権的にいきなり解任する手法には違和感があり、党内には反発がくすぶっている。これでは民主党に言論の自由がないと批判されても仕方があるまい。
 解任劇の発端は、生方氏が産経新聞のインタビューで「今の民主党は権限と財源をどなたか一人が握っている」などと述べ、小沢氏を批判したことだった。
 小沢氏に近い高嶋良充筆頭副幹事長は18日、生方氏に辞表の提出を求めた。生方氏は「党内には元秘書らが3人も逮捕されても何もならない方もいらっしゃる」などと反発して、辞職を拒否した。
 この後、生方氏は記者団に、政治資金規正法違反事件で元秘書ら3人が逮捕・起訴された小沢氏の責任論について「国民にもう一度説明し、納得が得られなければお辞めになるのが当たり前」と語った。
 一方、高嶋氏は18日に緊急の副幹事長会議を開いて生方氏解任を決め、小沢氏も了承した。
 生方氏は、鳩山政権発足の際に廃止された党政策調査会の復活を目指す中堅・若手有志の会の世話人を務めている。政調の廃止は小沢氏が主導して決めたものだ。党執行部は政調復活を目指す動きに神経をとがらせていた。
 鳩山由紀夫首相は生方氏の解任について「党の中では黙っていて、党の外で様々な声を上げることになれば、党内の規律がなかなか守れない」と述べ、支持する考えを示した。
 首相をはじめとして、生方氏がメディアで発言したことをとがめているが、それは筋違いだろう。政権交代してから、民主党内で自由に議論ができる場や機会がなくなったことこそが問題なのである。
 小沢氏を批判すると人事で冷遇されるという意識が強まれば、党内の議論はますます少なくなり、不満だけがうっ積していくに違いない。各議員が執行部の顔色ばかりうかがうようでは、民主主義が窒息する。
 自民党など野党は鳩山政権の現状を「小沢独裁」と批判してきた。今回の解任騒動はこうした批判を裏付けるものとなろう。内閣支持率や政党支持率はさらに低下する可能性があり、鳩山政権の政策遂行力を弱める結果にしかならない。

民主は疑惑にほおかむりか
 2010年度予算が成立した。経済の状況を考えれば、予算の年度内成立で政府は最小限の課題を果たしたことになる。だが、どこか釈然としない。「政治とカネ」を巡る疑惑が置き去りにされたためだろう。国会での説明に背を向け、けじめもつけないのが民主党の流儀のようだ。
 鳩山政権の下で政治資金に絡んだ不正が幾つも明るみに出た。民主党議員の秘書や関係者が次々に刑事責任に問われても、衆参の政治倫理審査会や参考人質疑、証人喚問などに応じた議員はいない。
 小沢一郎幹事長は自らの資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反(虚偽記入)事件で元秘書ら3人が逮捕、起訴された。その中には元秘書で現職の石川知裕衆院議員も含まれている。
 小沢氏本人は不起訴となったが、西松建設から巨額献金を受けた背景や土地購入に充てた4億円の原資など不透明な部分が多い。小沢氏は検察の捜査方針を一時強く非難していたにもかかわらず、国会で自ら説明する機会は一度もなかった。
 小沢氏の党運営を批判した生方幸夫副幹事長の解任騒動は、実権を握る幹事長に自由にモノが言えない党内の空気を象徴する出来事だった。批判を浴びて解任は撤回されたものの、受けたダメージは大きい。
 鳩山由紀夫首相は元秘書ら2人が虚偽記入などの罪で刑事責任を問われ、実母から12億円超の資金提供を受けていた事実も明るみに出た。首相は指摘されて贈与税を納めたが、野党が「巨額の脱税事件である」と追及するのは当然だ。
 さらに民主党の小林千代美衆院議員の陣営では、昨年8月の衆院選をめぐり労組幹部らが買収や不正資金提供の罪で相次いで起訴された。
 約2カ月に及ぶ予算審議の間、民主党は一連の疑惑をめぐって関係者の国会招致を求める野党の声に耳を貸さず、ゼロ回答で押し通した。数を頼みに疑惑にほおかむりするような態度は、国民の不信感を増幅するだけだ。
 民主党は自浄能力を発揮できないまま、新たな疑惑が火を噴く悪循環に陥っている。そのことが内閣や党の支持率低下に拍車をかけている。現実をそろそろ直視すべきである。

民主・生方氏、なお小沢氏を批判 言動に反発も
 民主党執行部が急きょ、解任方針を撤回した生方幸夫副幹事長は24日も小沢一郎幹事長への批判を強めた。政治資金問題について、小沢氏が国会の参考人招致や証人喚問などで説明するよう要求。権限が集中する党幹事長室の改革を小沢氏に直接、訴える考えも示した。
 記者団には「副幹事長として幹事長を支えなければならない立場だが、その場で支えられるのかどうか判断する」と表明。主張が聞き入れられない場合、副幹事長の辞任もあり得ると強調した。
 同党内には反発も広がった。生方氏がテレビ出演のため、昼の党国会対策委員会関連の会合を無断で欠席したことに批判が集中。平田健二参院国対委員長は記者会見で「彼の人間性の問題だから論評もしたくない」と不快感をあらわにした