「民主・液状化」。「閣内不一致」連発は「政権末期症状」だ。「朝令暮改」の鳩山総理は「早期退陣」せよ!

(SAFETY JAPAN 2010年 4月13日 http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20100413/221091/?P=1

内閣支持率が政権危険水域の30%割れに
 

 鳩山内閣の支持率下落に歯止めがかからない。

 テレビ朝日が(2010年)4月10~11日に実施した世論調査では内閣支持率が28.5%、日本テレビが(同)4月9~11日に行った世論調査でも同28.6%と、両調査とも政権の危険水域とされる内閣支持率30%を初めて下回った。

 その1週間前に行われた共同通信社の世論調査(4月3~4日)では内閣支持率が33%、読売新聞社の世論調査(4月2~4日)でも同33%と、いずれも30%台を維持していた。調査主体の報道機関が異なるとはいえ、たった1週間で内閣支持率は4ポイント以上も下落した。

 政党支持率で見ても、民主党の支持率はテレ朝の調査では29.5%、日テレの調査でも27.4%といずれも30%を下回り、自民党支持率の27.6%(テレ朝調査)、24.3%(日テレ調査)とかなり接近してきた。

 実際、テレ朝の調査では「今年7月の参議院選挙でどちらに勝ってほしいか」との質問に対して、「自民党を中心とする野党」と答えた人が39%、「民主党を中心とする与党」とした人が33%と、初めて与野党が逆転する形となった。

 また、テレ朝の調査では参院選の投票先についても聞いている。「どの政党の候補者に投票するか」との質問に対して、民主党が23%、自民党が24.1%と、こちらも両党の形勢が逆転した。

 同様に日テレの調査でも参院選の比例代表の投票先を聞いているが、こちらは民主党が26.4%、自民党が23.1%と、かろうじて民主党が自民党をかわした格好だ。

 鳩山内閣は、昨年(2009年)9月の発足時には、各メディアの世論調査で軒並み60~70%台の高い支持率を誇っていた。が、たった半年間で国民の期待は失望に変わった格好だ。


普天間問題で「左寄り」の人はみな憤慨している
 

 事実、読売新聞と早稲田大学が先月3月27~28日に共同で実施した世論調査によれば、民主党に「失望している」人が69%にも達している。

 鳩山内閣の支持率続落の背景には、各世論調査にも表れているように、「政治とカネ」の問題や「普天間問題」の迷走などがあるのは、ほぼ間違いないだろう。

 しかし私は、このコラムで何度も述べてきたように、その最大の原因は「政策や政治姿勢のブレ」、もっと言えば、国民への背信行為とも言える「マニフェスト違反」にあると思う。

 例えば、普天間問題。

 昨年(2009年)夏の総選挙(衆議院議員選挙)で民主党に期待した私周辺の「リベラル」というか、やや「左寄り」の人たちはみんな鳩山内閣の対応に憤りを感じている。

 「これでは沖縄の人々の心をいたずらに弄んでいるだけではないか」と。

 鳩山総理の持論は「常駐なき安保(日米同盟)」だ。昨夏の総選挙の際にも、基地移設先を「最低でも県外」と繰り返し訴えていたはずだ。

 ところが内閣発足後、移設先の候補地が二転三転。挙げ句の果てに、ここにきてどうやら「県内案」が勢いを増しているらしい。

 鳩山総理は基地問題解決に向け「命をかけて」とも言ったが、これまでの総理の言動を見ている限り、命をかけた物事がコロコロ変わる印象を受ける。

 いったい総理にはいくつ命があるのか。これも「宇宙人」ゆえの成せる業なのか。

みんなの党の支持率急伸、自民党に次ぐ勢力に
 

 昔、ある落語家がこんなことを言っていた。「10年前と同じことを言っているヤツはバカだが、昨日と違うことを言うヤツは××だ」と。

 この「××」に入る言葉は読者の想像にお任せするが、要するに、この落語家は「前日と違うことを言うような人間はとうてい信用できない」と言いたいわけだ。

 たしかに、10年前と同じことを言い続けているのは融通の利かない不器用な人間なのかもしれない。だが、見方を変えれば、シンのある「愚直」な人間とも言えるのではないか。

 少なくとも、前日と違うことを平気で口にする人間よりは何十倍もマシだ。

 現に、世論調査の政党支持率にも、そのことが如実に表れている。

 例えば、みんなの党の支持率は冒頭のテレ朝の調査では5.6%、日テレの調査でも5.5%と、自民党に次ぐ大きな勢力となっている。なぜ、みんなの党が急速に支持を伸ばしているのか。

 私自身、みんなの党の政治信条とは相容れないところが多い。デフレ脱却のための「政府紙幣の発行」を除けば、同党の政策を支持することはできない。

 それでも、みんなの党が「公務員改革」や「経済成長路線」を一貫して主張し続けている姿勢自体は評価できる。

 同様のことは社民党についても言える。

理念と主張に一貫性のある政党が支持率を伸ばす
 

日テレが先月3月12~14日に行った世論調査のように、調査によっては、参院比例選の投票先として公明党より社民党を挙げる人が多いというケースも散見される(同社4月調査では、公明党4.4%、社民党1.2%)。

 公明党が、「与党恋しさ」からか、長年連れ添った自民党を袖にして民主党にすり寄っている(ように見える)のに対し、社民党はそれこそ「十年一日」のごとく「米軍基地の国外移設」を訴え続けている。

 この両党の政治姿勢の違いが日テレの調査結果にも表れているのではないか。

 つまりは、理念やビジョンが明確で主張に一貫性のある政党や政治家が支持を伸ばし、政策や政治姿勢がぶれる政党や政治家はたちまち支持を失う、という構図が鮮明になってきたわけだ。

 そして、この傾向は、前政権の麻生内閣以来、顕著になった。

 鳩山総理はたしかに麻生氏より漢字を読めるのかもしれないが、政治家としての「根っこ」のところが麻生氏以上にグチャグチャになっている。というか、ぬかるんでいる。

 もう、鳩山総理が何を言っているのか、何を考えているのか、まるで理解できない。

 私があ然としたのは、先月3月12日の参議院予算委員会での鳩山総理の答弁である。


「民主党らしい税制が出てきた」と思ったら……
 

 自民党の舛添要一氏の質問に対して、鳩山総理はこんなふうに語ったのだ。

 「世界との比較で日本は法人税が高くて消費税が極めて低いのは事実だ。法人税率を国際的な流れにふさわしく、減税の方向に導いていくのが筋だと考えている」

 つまりは、鳩山総理は「法人税率の引き下げ」と「消費税率の引き上げ」を検討すると言明したのだ。

 この発言をそのまま受け取れば、鳩山総理は「庶民に増税して、大企業に減税する」と言っているに等しい。

 ほんの1カ月ほど前、2月19日の衆議院財務金融委員会で菅直人財務大臣が個人所得税のあり方について、「日本ではこの10年間で最高税率が下がってきた。その見直しも含めて政府税制調査会で検討したい」と述べたばかりであるのに……。

 実は、私は菅大臣の発言を聞いて、「ようやく民主党らしい税制が出てきた」とほくそえんでいたものである。

 その矢先の総理答弁であっただけに、私の受けた衝撃は計り知れない。

 鳩山総理が語った「法人税減税と消費税増税」などという税制改正は、自民党政権が志向してきた政策の方向性と全く同一ではないか。

 鳩山総理はいつから「新自由主義者」に転向したのか。


閣議決定した「税制改正大綱」に何と書いてあったか
 

 郵政改革法案を巡る閣僚間のゴタゴタと同様に、今回の総理と財務大臣の考え方の食い違いも一種の「閣内不一致」と言えるのではないか。

 先ほど、鳩山総理は政治家としての根っこのところがぬかるんでいると述べたが、もはや民主党自体が「液状化」していると言っても過言ではない。

 そもそも、昨年(2009年)12月22日に鳩山内閣が閣議決定した「平成22年度税制改正大綱 」には、法人課税についてこう書いてあった。少し長いが、引用する。

 まず、「現状と課題」について。

 「我が国の国税と地方税を合わせた法人実効税率は、国際的にみると高く、国際競争力などの観点から税率引下げの必要性が指摘されるところです。他方で、法人所得課税の負担に社会保険料事業主負担をあわせてみると、国際的にも必ずしも高い水準ではないという見方もあります。また、租税特別措置により、実質的な企業の負担には産業によってばらつきが見られます」

 そして巻末に、国税と地方税、社会保険料を合わせた法人負担の国際比較を「参考資料」という形で紹介している(調査は2006年3月)。


「税+社会保険料」では日本の法人負担は高くない
 

 例えば、「自動車製造業」の法人負担について。

 日本:「国税11.2%」+「地方税11.8%」+「社会保険料7.4%」 =計30.4%
 米国:「国税18.9%」+「地方税3.5%」 +「社会保険料4.5%」 =計26.9%
 英国:「国税14.5%」+「地方税0%」  +「社会保険料6.1%」 =計20.7%
 独国:「国税13.1%」+「地方税12.2%」+「社会保険料11.7%」 =計36.9%
 仏国:「国税19.3%」+「地方税0%」  +「社会保険料22.3%」 =計41.6%

 さらに、「情報サービス業」となると、その傾向がいっそう鮮明になる。

 日本:「国税15.8%」+「地方税9.2%」 +「社会保険料19.2%」 =計44.2%
 米国:「国税27.1%」+「地方税7.9%」 +「社会保険料11.7%」 =計46.7%
 英国:「国税23.0%」+「地方税0%」  +「社会保険料16.3%」 =計39.3%
 独国:「国税14.2%」+「地方税12.5%」+「社会保険料29.1%」 =計55.7%
 仏国:「国税12.3%」+「地方税0%」  +「社会保険料57.8%」 =計70.1%

 ご覧のように、日本の場合には税負担が他国と同程度か、やや高い水準にあるものの、社会保険料負担を加えると、必ずしも法人負担が高いとは言えない状況にあるのだ。

 しかも、独仏両国と比べれば、日本の社会保険料の法人負担はかなり見劣りしている。


自民党政権時代の税調答申にも同様の認識があった
 

 だからこそ、社会保障を最重要政策に掲げる鳩山内閣としては、「企業の社会保険料負担を重くする代わりに企業の税負担は軽くする」というのであれば、百歩譲って、まだ理解できる。

 が、鳩山総理が国会で答弁したのは、先ほどの「現状と課題」の前半部分の理屈だけではないか。

 実は、自民党政権時代の政府税制調査会の答申(2007年11月)でも、「課税ベースや社会保険料負担も考慮した企業負担については、モデル企業をベースとした試算において、我が国の企業負担は現状では国際的に見て必ずしも高い水準にはないという結果も得た」という表現で、日本の法人負担が決して高くないとの認識を示している。

 つまりは、税と社会保険料を含めた法人負担に対する鳩山総理の現状認識は、自民党政権時代よりも一層「財界寄り」になっているわけだ。

 いや、ひょっとすると、総理はその出自からして、初めから財界寄りなのかもしれない。

 昨年末の税制改正大綱では、「法人税の改革の方向性」についてこう記されている。


鳩山総理の「言葉の軽さ」は見過ごすことができない
 

 「このところ法人課税の分野では、主に租税特別措置により特定の分野や活動に限られた財源を集中することで我が国経済を後押しする手法がとられてきました。しかし、諸外国をみれば、この間に課税ベースの拡大と併せた法人税率の引下げが進んできています。そこで、我が国でも、(略)租税特別措置の抜本的な見直しなどを進め、これにより課税ベースが拡大した際には、成長戦略との整合性や企業の国際的な競争力の維持・向上、国際的な協調などを勘案しつつ、法人税率を見直していくこととします」

 結局、ここでも「税と社会保険料を合わせると、日本の法人負担は決して高くない」という前出の税制改正大綱「現状と課題」の後半部や自民党政権時代の政府税調答申の認識が欠落しているのだ。

 その意味では、鳩山総理はこの大綱の結論に沿った形で国会答弁をしたことになる。というより、それが民主党政権の税制改正に臨む当初からの姿勢なのだろう。

 であるならば、なおさら、今年(2010年)2月に共産党の志位和夫委員長が提案した「大企業への内部留保課税」に対して鳩山総理が「検討しましょう」と答えた、その言葉の軽さを見過ごすことはできない。

 総理には、税制が「国のかたち」の基本である、という認識が果たしてあるのか。


半年で「公約違反」、国民はいったい何を信じればよいのか
 

 鳩山総理のように、政権のトップがその日その日で異なることを口にしていては、とうてい「国の政(まつりごと)」がうまくいくはずがない。

 昨年(2009年)夏の総選挙の際に、民主党がマニフェストで高らかにうたった「高速道路の無料化」がいつのまにか「実質値上げ」に変わっていたり、「ガソリン税の暫定税率の廃止」も同じように「実質存続」に変わっていたり……。

 この政権はいったい何をやっているのか。

 それでも、中には「鳩山内閣は公約どおり子ども手当を実施する」と擁護する声もあろう。しかし、これについても言いたいことがある。近いうちに稿を改めて論じよう。

 とまれ、こうした民主党政権の「変質」をもって、経済人や有識者らの間では「ようやく民主党も現実路線になってきた」と評価する向きもあるが、それは違う。

 選挙の際に「マニフェストは国民との約束」と訴えていたのは、ほかならぬ民主党員だ。

 政権発足後たった半年でマニフェストを覆すようでは、国民は政党や政治家の主張のいったい何を信じればよいというのか。


「最大の罪」は国民の政治不信を増幅させたこと
 

 「政治とカネ」の問題に加え、こうした民主党政権の「マニフェスト違反」が国民の政治不信を増幅しているのだ。そして、それこそが「鳩山内閣、最大の罪」とも言えるものだ。

 事実、だからこそ、冒頭で紹介した読売新聞の4月の世論調査でも、「支持政党なし」が前回(3月調査)の36%から50%に一気に上昇しているのだ。

 それにしても、私が最近つくづく思うのは、もうそろそろ鳩山総理にはお引きいただいたほうがよいのではないか、ということだ。

 とりわけ、米国のオバマ大統領が国内の強烈な反発に遭いながらも悲願の医療保険制度改革法案を議会で通過させたことを見聞きするにつけ、一層その感を強くする。

 ほぼ同じ時期に誕生し、同じように支持率低下に悩んできた民主党政権であっても、日米間ではこうも違うものなのか。信念と決断力、実行力のある政治家とそうでない政治家とはこうも違うものなのか、と愕然とする思いで両国の政治を見つめている。

 次回は、オバマ政権の医療保険制度改革に焦点を当てながら、日本の民主党政権に欠けているものをさらに浮き彫りにしたい。



森永卓郎(もりながたくろう)
1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発総合研究所、三和総合研究所(現:UFJ総合研究所)を経て2007年4月独立。獨協大学経済学部教授。テレビ朝日「スーパーモーニング」コメンテーターのほか、テレビ、雑誌などで活躍。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。そのほかに金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。