141-参-本会議-6号 平成09年11月19日 http://bit.ly/c3Gu8G


○平野貞夫君 平成会を代表しまして、ただいまの趣旨説明に対し、質疑を行います。
 本改正案は、最近の各選挙での投票率の低下傾向を憂慮し、選挙人が投票しやすい環境を整えることなどを改正理由としております。
 我が国の国政選挙を初めとする投票率の低下傾向は、制度の技術的改善だけでは解決できるものではありません。国民の民主政治に対する意識や理解の問題、選挙の制度、執行、違反等にかかわる措置が公正に行われているかどうかという問題、なかんずく国民が現在の政治に対して信頼感を持っているかどうかという根本に突き当たる問題であります。したがって、投票率の低下傾向の原因は何か、本質は何かといった総合的観点から質問を行います。
 まず、自治大臣にお尋ねいたします。
 この改正案は、投票時間の延長、不在者投票制度の改善などにより投票率を向上させようとするものでありますが、どの程度の改善を期待しているのか、予算を必要とすることでもあり、具体的な数値をもってお答えいただきたい。なお、即日開票の普及など現行の投票・開票事務には一定の評価があります。改正案はこれらに影響が出るものと予想されます。どう対応するのか、御所見をお伺いしたいと思います。
 次に、平成七年、前回の通常選挙の際、実態としては逆転していることがわかっていました三重県選挙区と鹿児島県選挙区の定数逆転問題でございますが、平成会では早急に是正すべく各党に呼
びかけているところであります。自治大臣、こうした不公正を放置したままでは投票率の向上は望めません。御見解をお伺いしたい。この政府案を修正するという方法もございます。いかがでございましょうか。
 次に、法務大臣にお尋ねします。
 選挙違反の捜査、司法による処置が適正に行われているかどうかということも投票率の向上や低下に影響がある重要な問題であります。その意味で、拡大された連座制の適用について、捜査当局側に大きな問題があることを具体的に指摘しておきたいと思います。
 昨年の総選挙で、栃木県第四区、自民党候補の茂木町の選挙違反は、町ぐるみの買収事件として、日本テレビを初め各新聞、国会論議でも批判があった問題です。だれもが連座制の適用は必至と思っていたケースですが、検察の判断で適用されませんでした。
 一方、高知県第三区、無所属候補の西土佐村の問題で、政治的な冤罪事件の疑いがあるケースに連座制が適用され、法のもとの平等を求め、現在、最高裁判所に上告しております。
 この二つの事件を比較しますと、いかに検察官の自由心証とはいえ、余りにも公平と正義の原理に反するものであります。この二つのケースについて、法務大臣、どのような御感想をお持ちでしょうか。また、公正かっ適切な連座制の運用のため、法務省、検察当局も一層努力すべきではないかと思いますが、御所見をお伺いしたいと思います。
 さて、橋本総理、私がこの壇上で思い出しますのは、平成四年七月の参議院選挙であなたの応援をいただいたことであります。
 五年四カ月という時の流れの中で私は野党となり、総理になられたあなたを初め、お世話になった方々に対する恩義を超えて、我が国の民主政治の原点にかかわる幾つかの問題について見解をただし、苦言を申し上げることになりましたことを、政治に生きる人間の定めだと感じております。どうか御理解をいただきたいと思います。
 まず第一に、政治改革、とりわけ参議院選挙制度の抜本改革について御見解を伺います。
 投票率の低下傾向は、参議院の通常選挙において際立っております。原因は、国民の多くが参議院の存在意義に疑問を持ち、構成のあり方に不満を感じているからではないでしょうか。衆議院の選挙制度を抜本改革した際、それに対応して参議院選挙制度の抜本改革を行うことを各党が約束しましたが、放置されたままでございます。
 平成会では、選挙公約に基づき、本年六月、抜本改革案を取りまとめ、国会に提出し、継続審査案件となっております。
 主な内容は、定数を五十二人減して二百人とし、比例代表を廃止して全国を五つの広域ブロックに分け、七十人を人口に比例して配分し、直接個人を選ぶことであります。また、都道府県区は現行のままとし、百三十人を人口に比例して配分するというものであります。これにより、政党化の弊害を避けて専門的、長期的立場で国政に責任を果たす参議院に生まれ変わることをねらいとしております。なお、国会議員の定数減員は、国民的要請にこたえ、行政改革断行のためにも、まず政治みずからが身を切ろうということであります。
 橋本総理、参議院の存在意義と構成のあり方についてどのような御見解をお持ちでしょうか。また、平成会の抜本改革案についてどのような御所見をお持ちか。議員立法を活性化させるためにも、この法案の審議を促進し、成立させる必要があると思いますが、自民党総裁としての御所見をお聞かせ願いたいと思います。
 第二に、最近の投票率低下の最大の原因が国民の政治不信にあるとの観点からお尋ねします。
 総理、戦後、今日ほど日本人の多くが政治に対してどうしょうもない閉塞感を持った時代はなかったと思います。これが投票率の低下傾向をもたらしていると私は思います。
 原因の根本は、思想、信条を対立させている政党や政治家が、政権の継続だけを目的にして政治を行っていることにあります。そのため、一本釣りと称する多数派工作が公然と行われ、釣る方も釣られる方も、政治家の人間としての良心を疑わしめる出来事が日常茶飯事となっております。選挙で主権を行使した国民の基本権を侵すものであり、大義のない行動は、国民の人間としての尊厳を冒涜するものと言わざるを得ません。
 政治の理念と基本政策を対立させた政党による連立政権は、例えて言えば、馬車の前と後ろに馬をつないで走らせようとしているようなものです。これでは政治は機能しません。安全保障の確立も構造改革も動きようがないじゃありませんか。今日の不況、経済危機も、理念、政策のねじれた政治構造に原因があり、国民は先行き不安に立ちすくんでいます。この理性を失った我が国の政治の実態に投票率低下の原因があると思いますが、いかがでございましょうか。
 第三に、政治不信の原因として、政治的指導者の立場にある人たちの政治倫理に対する弛緩があることを指摘しておきたいと思います。
 自民党の三役と言われる人たち、閣僚の中でも指導的立場の人たちがこれほど多く政治資金にかかわる疑惑を持たれたことがあったでしょうか。全員あなたが任命した人たちです。これでは、幾ら投票率の低下を防止する技術的改善を行っても、国民の政治不信は解消できません。
 数多くある疑惑の中で一点だけ申し上げます。
 九月二十一日の朝日新聞が、自民党の森総務会長、加藤幹事長らが、自分の政治団体で発行する機関誌に企業広告を多数掲載し、その広告料で多額の政治資金を賄っている実態を報道しております。
 森総務会長の場合、昨年、機関誌「春風」の収入約五千九百六十万円のうち広告費が約五千八百四十万円、約九八%を占めております。加藤幹事長の場合、昨年、機関誌「雲霓」の収入約八千万のうち広告費が約六千百八十四万、七七%を占めております。広告料については規制がないためです。事実上の企業献金であり、脱法行為にほかなりません。
 機関誌で常識を超えた広告料を取り、一つの企業に何十冊も購入させるというやり方は、総会屋とどこが違うのかと国民は怒っています。この臨時国会には、総会屋に対する罰則強化の商法改正案が提出されていますが、このような政治家の姿勢を放置したままで、果たして法の正義を貫き通すことができるでしょうか。これらのケースは明らかに、橋本総理が衆議院本会議で答弁した、社会通念を超えた寄附行為であります。脱税、所得
税法違反として責任を追及すべきであると思いますが、いかがですか。
 それができないなら、政治不信を解消し、投票率の低下を防ぐためにも橋本総理、加藤幹事長と森総務会長にせめてやめるよう注意なさってはいかがですか。御所見をお聞かせください。
 第四に、橋本総理の民主政治の基本に対する考え方についてお尋ねいたします。
 総理は、十月三十日の衆議院予算委員会で、田中慶秋氏が指摘した三宝会の問題点について、重大な答弁をしております。
 三宝会は、この情報化時代に、大手の新聞社や通信社五社、全国ネットのテレビ四社、大手の出版社五社から、合わせて三十人の第一線の有名ジャーナリストをネットワークし、個人会員に新旧の内閣情報調査室長と五つの利権官庁の事務次官OBを参加させ、三十五の法人会員で構成しています。
 元首相を最高顧問に、事務局をイトマン事件で絵画取引を行った画廊に置いています。世話人の中には、情報操作のプロと言われている人物もいます。趣旨書には、相互に円滑な人間関係を築き上げ、職域を超えて足らざるところを補完して飛躍しようという意味のことが書かれています。
 橋本総理の答弁は、そういう方々が、ともに集まり、それぞれ切磋琢磨されることが悪いとは私は思いませんというものでした。
 なぜ、私がこのことにこだわるのか。それは我が国の民主政治の根幹にかかわる問題が潜んでいるからであります。確かに、投票率の低下傾向は深刻な問題です。しかし、投票率の向上は国民の政治意識の向上という質を伴うべきであります。
 特定の政治支配をねらう人たちが三宝会のような組織を利用してやわらかく情報操作を行えば、投票率の向上はもちろん、当選、落選、さらに政界や財界の動向にも大きな影響を与えることになりかねません。最近、それに疑わしい現象を感じてなりません。それが不況、経済危機と重なると何が起こるか。私たちは、昭和のある時代に報道の公正さが失われ、我が国の議会政治を崩壊させたファシズムを体験したはずです。
 総理、私が危惧しますのは、三宝会のような組織に対して民主政治の原理を崩すものと感じない人たちが大勢いるという我が国の現実でございます。また、総理大臣を経験した方がこういう組織にかかわっていること自体問題であり、この国をどうしょうとなさるのか、国家社会に対する見識を疑うものであります。橋本総理、このような観点から、三宝会についてどのような御見解をお持ちか、改めてお伺いします。
 最後に、今、私たちは日本国の崩壊か再構築かの選択を迫られております。「政治家が人間の尊厳を忘れたとき、国は滅びる。政治家である前に、人間であれ」、これは私の人生の師、前尾繁三郎先生の遺言であります。政治の目的は人間の尊厳を守ることにあると思います。今日ほど日本の政治が堕落し、政治家の人間としてのあり方が問われている時代はありません。私も日夜反省しております。
 国民の政治意識の向上も、投票率の質的向上も、不況を克服して構造改革を実現していくためにも、私たち政治家が人間として、日本人として政治に理性を回復させなければなりません。これこそ日本を再生させるかぎであることを申し上げて、質問を終わります。(拍手)

○国務大臣(橋本龍太郎君) 平野議員にお答えを申し上げます。
 まず、参議院の存在意義と構成のあり方についてのお尋ねがございました。
 申し上げるまでもなく、我が国憲法では衆議院と参議院から成ります二院制を採用し、民意をより的確に反映させ、議事の公正と慎重を期すること等により、国民の代表機関たる国会の機能が遺憾なく発揮されることを期待していると思います。このことから、参議院の選挙制度のあり方につきましては、衆議院の選挙制度との関連を念頭に置きながら、二院制の趣旨が生かされることを基本に検討がされるべきだと考えております。
 今、平成会提案の参議院議員の選挙制度の改革案についてもお尋ねをいただきましたが、さきの通常国会に平成会から参議院議員の定数削減、比例代表選挙の廃止、全国五ブロックによる大選挙区制の導入等を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案が提案されたと承知をいたしており、制度改革案を取りまとめられたその御労苦に対し敬意を表したいと思います。
 また、この審議促進についてお尋ねがございました。
 現在、自由民主党におきましても、また与党三党におきましても、幅広い視点から選挙制度改革の検討が進められている状況の中であります。今後、各党各会派におかれましてそれぞれさらに論議を深めていただき、政府としてはそれらの御論議を踏まえて適切に対処してまいりたいと考えております。
 次に、投票率の低下と連立政権という御指摘がございました。
 自由民主党、社会民主党及び新党さきがけは、昨年十月末に結んだ政策合意に基づいて、現在、三党連立のもとに全力で国政の基本問題に取り組んでおります。沖縄に係る問題、ガイドライン、さらには昨日まとめました経済対策も、それぞれオープンに真剣な議論を行ってきた結果でありますし、また各党各会派の御協力も得ながら今日までまいりました。
 私は、投票率の低下というものにはさまざまな原因があると思います。そして今、投票環境を向上させるために、投票時間の延長、不在者投票事由の緩和などを内容とするこの公選法改正案をまさに御提案申し上げ、御審議願おうとしているわけでありまして、ぜひ委員の御理解と御協力をいただきたいと願います。
 しかし、いずれにいたしましても、どうやったら国民に、特に若い方々に政治に関心を持っていただくか、これは党派会派を超えて考えていかなければならない問題だと、そのように思います。
 次に、政治団体の機関誌広告料収入についてお尋ねがございました。
 政治団体は一般的に人格のない社団等に該当し、その機関誌の発行事業につきましては、それが公益目的達成のために行われる場合には、税法所定の収益事業に該当せず、これに付随する広告料収入も含めて、法人税の課税関係は生じないことになっております。なお、政治団体が寄附を受ける行為につきましても、収益事業に該当せず、法人税の課税関係は生じないこととされております。
 最後に、三宝会についてお尋ねがございました。
 どのような見解をと言われましても、私自身メンバーでありませんし、どういう会合なのかわかりませんだけに困ってしまいますが、私は、私的な立場で各界におられる方々が広い視野での判断、また公正、客観的な考え方を得ることを目的とし、自由な意見交換をされる勉強会だと、そのように認識いたしております。
 残余の質問に関しましては、関係大臣から御答弁を申し上げます。(拍手)