「抑止力で沖縄に基地が必要」という真っ赤なウソ [普天間報道を疑え]  (日刊ゲンダイ2010/5/19)

グアムに移るのになぜ大規模な代替施設が必要なのか

日本国内の在日米軍施設の総面積は310平方キロ。その4分の3が沖縄に集中している。あまりに不公平な話だが、移転話が浮上すると、必ず出てくるのが「抑止力」なる言葉である。
沖縄に米軍基地が集中していることこそが、戦略的に重要で、台湾海峡や朝鮮半島の緊張に対する抑止力になっている、という理屈である。
軍事専門家は沖縄を「太平洋の要石」などと言う。だから、沖縄の基地は容易に動かせないと言う。大マスコミもこうした論法をうのみにして垂れ流す。最近は鳩山首相までが誰にオルグされたのか、「抑止力を学んだ」などと言い出している。
しかし、この抑止力がくせものなのだ。民主党の川内博史議員が言う。
「日米両政府が沖縄海兵隊のグアム移転に合意した『グアム協定』に何が書かれているか、ご存じでしょうか。『グアムは海兵隊の前方(最前線)での駐留に重要で』『(グアムに駐留することは)この地域における抑止力を強化するものである』と明記されているのです」
この「グアム協定」とは正式には「第三海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転の実施に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」という。ここに書かれているのは「グアム移転は地域の抑止力強化につながるので、日本はカネを出し、米国は移転に必要な措置をとる」という約束事だ。
つまり、東アジアの抑止力強化の観点から、海兵隊の沖縄からグアムへの移転が決まったのである。


だとすると、沖縄の抑止力とは何なのか。新たな大規模代替施設が必要なのか。グアム移転後、残った部隊の駐留施設やローテーションの訓練施設だけで十分ではないか。なぜ、海を埋め立て、軍港まで整備するのか。議論の前提が大きく崩れてくるのである。
驚くのは、それでは沖縄からグアムにどれだけの部隊が移動し、残るのがどれくらいの規模であるのかが皆目、わからないことだ。
「これまで日本政府は、在沖縄海兵隊1万8000人のうち、約8000人がグアムに行き、約1万人が沖縄に残ると説明してきました。しかし、沖縄県の調査では沖縄にいる海兵隊は1万2400人という数字もある。これだと、3000~4000人が残るだけです。グアムに行く8000人のうち、航空戦闘部隊は2000人弱。米国側の文書などからすると、普天間の主力ヘリ部隊2000人がごっそり移ると考えられる。だとしたら、ますます、代替施設の必要性はなくなりますが、役人が資料を提示しないので、ハッキリしないのです」(地元のマスコミ関係者)
前出の川内議員は「グアムにどの部隊が何人行って、日本にはどういう部隊が残り、どういう装備でどういう訓練をするのか。一年中いるのか一時的な滞在なのか。それを誰も知らないのです。
設計図もなしに家を建てることはできない。大は小を兼ねるという論法で広大な基地を造らされて、納税者は納得するでしょうか」
だから、見直しなのである。何もわからないまま、「5月末まで決着をつけろ」なんて、暴論の極みだ。米国につかみ金を渡すようなものである。
(取材協力・横田一)