第2回 誰が日本国家を支配するか  佐藤 優

──石川知裕代議士とマックス・ウェーバー『職業としての政治』を読む。 (魚の目 2010年5月26日)

http://bit.ly/bUk9JU


【佐藤優】
 では、実際に読んでいきましょう。
*読者の方は、『職業としての政治』マックス・ウェーバー/脇圭平 訳/岩波文庫を手元に置いていただき、指定頁に目を通したうえで、佐藤優さんの講義を読み進めてください。(編集部)
 
『職業としての政治』
7頁/諸君の希望で~8頁2行目/さっそく本題にはいろう。
 
【佐藤優】
 まず、この講演がどこで行われたかということなんです。この講演は本屋さんで行われています。実はヨーロッパにおいて、毒にドイツ語の文化圏において本屋さんというのは特別な意味を持ちます。西ドイツの時代ですね、いまもそうですが、ドイツ連邦共和国は特殊な規則を持っています。出自がドイツ人であることが証明されれば、誰であってもドイツ連邦共和国のパスポートを渡す。ですから東ドイツの人たちが西ドイツにはいると、その途端に西ドイツのパスポートを発行してもらうことができたんですね。そしてベルリンの壁が崩壊した時には、その前にハンガリー経由で大量の東ドイツ人の流出があったんです。そうやってどんどんどんどん、西ドイツにドイツ人を持ってこようとした。
 
 これが一つの流れなんですが、もうひとつ、別のドイツ人問題というのを当時、ドイツは抱えていました。それはボルガドイツ人をはじめとする旧ソ連領の問題です。帝政ロシアの時代、ロシア人貴族はサンクトペテルブルクやモスクワに住んでいて、ロシア語をしゃべれないんですね。フランス語でふだん話をしている。イギリスやフランスにしょっちゅう遊びに行って、生活をしているんですね。大不在地主なんです。では農場の面倒は誰がみるのか。ロシア人に任せると、金をくすねたりするし、マネージメントをきちんとしない。それに農民をいじめすぎるから反乱が起きたりする。そこで適宜締めて、緩めてということがうまいということで、ドイツ人を雇ったんです。
 
 そのドイツ人たちは16世紀の終わり以降、たくさんロシアにはいってくるんです。どうしてか。宗教的な理由があるんです。ドイツで宗教改革があってカトリックとプロテスタントに分かれたということは、結構有名ですね。そのあと、プロテスタントの側で、宗教改革急進派というグループが出てくるんです。再洗礼派であるとか、メノナイト、こういう人たちなんですよ。汝殺すことなかれというイエス様の山上の垂訓を守らなければならないから、国家の徴兵には参加しません。軍事行為にはいっさい従事しません。こう言い張るグループがいたんです。
 
 こいつらは絶対に許すことができないということで、プロテスタントの主流派の連中は、鳥籠にこの人たちを入れて、食べものを与えないで、木からぶら下げていたんですね。ちょうどカラスがつつけるくらいの隙間が空いた、人間ひとりやっと入ることができるくらいの籠です。すると鳥につつかれて閉じ込められた人は死んでしまうんですけど、このような見せしめにもかかわらず、宗教改革急進派の人たちは信仰を捨てないんです。
 
そこに目をつけたのがロシアでした。兵役にとらないから、農民をマネジメントするためロシアに来てください。そして16世紀から17世紀にかけてロシアのボルガ川沿岸にドイツ人が移住していったんですね。ところが第2次世界大戦が始まる前に、現在のボルゴグラード、当時のスターリングラード付近に住んでいたドイツ人を、ドイツ軍がその近辺まで来た場合は、血が騒いでナチスと一緒になるのではないかとスターリンは恐れました。それでドイツ人を強制追放するんです。カザフスタンやウズベキスタンの砂漠に。
 
 ちなみに日本ではほとんど知られていないんですが、その時期にもうひとつ、極東から強制追放された民族がいるんですね。朝鮮人です。ハバロフスクの南からウラジオストックにかけてはたくさんの朝鮮人が住んでいたんですが、スターリンは朝鮮人が日本のスパイになるかもしれないという疑惑をかけました。そしてカザフスタンやウズベキスタンに大量の朝鮮人を追放したわけです。
 
 さて、このドイツ人たちは16世紀、17世紀を中心に移住したドイツ人なんです。現在のドイツ人と違うドイツ語をしゃべるんです。そのドイツ人たちのために、ドイツ語の新聞で「ノイエス・レーベン(Neues Leben)」という新聞がソ連時代に出ているんです。タブロイド判8ページの新聞なんですが、7面と8面がなんかへんなドイツ語なんです。オランダ語に近いようなドイツ語なんです。これはドイツが統一される前の低地ドイツ語なんです。こういう通じないドイツ語をいまだにしゃべっているドイツ人たち、この人は生活様式も現在はほとんどロシア人に近くなっているんですね。
 
 この人たちがドイツに帰ってくることになったら、パスポートを与えなければならない。ところがドイツの中で大変な問題を引き起こしてしまう。全く生活習慣も違うし、宗教的な伝統も違う。だからこのドイツ人たちに極力帰らないでくれという取引をソ連政府とウラで、当時の西ドイツ政府はやっていたんです。ですから大量のお金をカザフ周辺にいれて、ドイツの文化センターをつくって、現地で合弁企業をつくって、ドイツ人が極力、旧ソ連の版図の中で生活ができるように、こんなことをやっていたんです。
 
 さて、少し横にいってしまいましたが、こういうバラバラなドイツ人がわれわれはドイツ人なんだという意識をもつようになるには、18世紀の終わりから19世紀の頭にかけてなんですが、ここで本がとても大きな役割を果たしたんです。ルターがドイツ語に聖書を翻訳して、翻訳してから初めて、それにあわせて、その文字に書かれたドイツ語に合わせて話すようになったんです。あちこちで読書会をする。それを通じてドイツ人だという意識ができる。
 
 いま、活字離れ、日本の場合もそうなんです。日本の標準語というのが東京の山の手の方言をベースに作られたといわれていますが、それは神話です。本当は別でまずは書き言葉ができているんです。それにあわせてみんな話すようになって、日本人だという意識ができてくるわけです。
 
 言語と民族意識は非常に関係しているわけです。


日本でウェーバーの影響が大きいのは、ドイツのインフレのおかげ?
 
 話をウェーバーの当時のドイツに戻しますと、社会主義の影響が非常に強くなって、インテリたちがマルクス主義に強く関心を持っている時に、どうもそれは違うんだと考える学生たちが勉強会をするんですね。そのときにウェーバーさん来てくださいといわれて、この講演をしたんですね。
 
 いまでいうと、ちょうど、この学生たちの考え方は民主党の感覚に近いと思います。マルクス・レーニン主義ではないんだけれども、新自由主義的な形で格差が拡大している、こういうのはおかしいんじゃないかと。そして伝統にもそこそこ関心を持つんだけれども、知的な世界にも関心がある。
 
 これが新カント派と結びつきます。新カント派の人たちはどういう考え方をするのかというと、科学にはふた通りある。ひとつは自然科学。物理や化学は実験ができる。従ってそこで法則をみつけていく。法則定立的な科学であると考えるんです。それに対して政治学であるとか歴史学であるとか法学は実験ができない。仮に実験ができても社会実験は繰り返しができない。だから頭の中でモデルを作って頭の中で考えてみる。思考実験をする。思考実験しかできないところにおいては個性を記述していくという形で科学を表すんだと新カント派は考えました。
 
 ちょうど、ドイツが大変なインフレでしたからね、第1次世界大戦直後で。今のお金でいうと、日本から1万円くらい持っていけば50万、60万の価値があるんです。当時日本人は国費留学では1カ月、今の日本円の感覚だったら200万円くらい遣いましたからね。すると1カ月に数千万円くらいの書籍代を持っていたわけです。だから帰国の時に、荷物用に船室を借りて本を運んでくるということをみんなやってたわけで。当時留学していた連中はみんなドイツに留学して、インフレを利用して最大限の本を買って、ただみたいな値段で家庭教師をつけたんです。そのとき主流だった発想が新カント派ですから、日本のアカデミズムは帝大を中心に新カント派の考え方がものすごく強くなったのです。
 
『職業としての政治』
8頁3行目/政治(ポリティーク)とは何か~8頁9行目/これだけを考えることにする。
 
【佐藤優】
 では政治という言葉がどこから出てきているのかということをちょっと整理します。実は政治という概念がどこから来ているかというと、ギリシャなんです。ギリシャ以外に政治という考え方はありませんでした。政治をポリスといいます。これは政治と訳しても国家と訳してもどっちでもいいです。
 
 政治と対立する概念があるんですね。それをギリシャ語ではオイコスといいます。オイキクメニエ、エコノミー、経済なんていうのはオイコスからきているんです。本来は家という意味です。さて古代ギリシャのポリスにおいて政治に従事する人はどういう人なのか。古代ギリシャには奴隷と市民がいるわけですね。市民の中には貴族と平民がいるわけです。貴族と平民がポリスで政治に従事する人たちです。女性は市民になれません。ポリスにおいて適用されるゲームのルールがあるんですね。それは何かというと、ギリシャ語で言う、ノモスなんです。カール・シュミットの『大地のノモス』という本がありますが、ノモスというのは通常、法と訳されています。ですから法というのが社会全体の中のごく一部しか覆っていないものだというのがギリシャ人の了解なんです。
 
 それに対して、オイコスにおいてのゲームのルールは、法じゃないんです。ビアというのが基幹原理になるんです。ビアとは暴力です。要するに、奴隷は所有物だから、言うことを聞かなければ、鞭打っても殺しても構わない。あともうひとつ、女性は言うことを聞かなければ、殴ってもいいわけです。それは家庭のなかにおいて適用されるゲームのルールが暴力なんです。この構造があるからドメスティックバイオレンスが出てくるというところにおいても、その根っこにおいて、ヨーロッパの連中に女性を殴ってもいいんだということが刷り込みがなされているからです。フェミニストによる知の男権性、暴力性批判は正しいのです。
 
 この基本形式のところから、政治というものが生まれてきているということなんです。このポリスのノモスの中にも最終的には強制権力という形で暴力が入ってくるんですね。マックス・ウェーバーという人は、先ほど言いましたようにトレルチを通じて神学的知識をもっていたんです。私は基礎教育がプロテスタント神学です。基礎教育で神学をやるとギリシャ語を学びます。そのギリシャ語を学ぶ中で政治の概念とはどういう事なのか、経済の概念とはどういうことなのかを叩き込まれるわけなんです。このあたりが日本の政治学や法学であまり学ぶ機会がないところです。ヨーロッパで政治学や法学を専攻する人は、基礎で必ず哲学を学びます。それは、哲学においてこういう概念を押さえることが重要だからなんですね。ですから、民法と刑法が分かれるというのも、オイコスとポリスという二項対立の図式があるからなんです。ただし、これはあっちの論理なんです。われわれ日本人にはよくわからないんです。それはどうしてかというと、皮膚感覚としてこういう規範原理が混沌としているところに日本文化の特徴があるわけですから。
 
『職業としての政治』
8頁10行目/それでは、社会学的に~10頁1行目/現代に特有な現象である。
 
【佐藤優】
 ですからこれは、良いとか悪いということではなく、国家は暴力を独占するものであって、それが一定の領域を支配するということ。これが現代の流行になっているということ。主要なゲームのルールになっている。あるいは主要な宗教になっていると言ってもいい。
 
 さて、ここで質問が出てきます。この観点から見ると日本は完全な国家でしょうか。
 
 答えは完全な国家ではありません。どうしてかというと、北方四島、竹島これは領域として我々の理解では日本領です。ところが日本の国家の実効支配がこれらの地域には及んでいません。あそこにおいては日本政府は暴力を行使することができないわけです。その意味において、日本は完全な国家ではないのです。ですから北方領土問題や竹島問題に、なぜ、政治エリートや官僚たちがあまり深く考えなくても固執しているのかというのは、これは国家の本能がそれを呼び起こしているからです。
 
 逆にロシアにしても韓国にしても(ロシアの北方四島への拘りは韓国の竹島への拘りに比べると相当低いです)国家は一定の領域を支配しなければいけないんだという近代の神話を基本にしています。ここのところをきちんと理解して、神話だから意味がないというのではなく、神話であるから、逆に、論理によって証明できない問題であるから、領土問題は難しいのです。
 
 あともうひとつ。トロツキーです。トロツキーは世界革命を提唱したのですが、世界革命の考え方をよく押さえておく必要があります。マルクス・レーニン主義は基本的には階級闘争至上史観です。「万国のプロレタリアート団結せよ」ですから、プロレタリアートには祖国がない国境がないわけですね。となると、ロシア革命というのはロシア一国にとどまったら革命はできないわけです。全世界に革命が成功して初めて、マルクス主義的な革命が成り立つ。じゃあ、ソ連という国は早すぎた革命だからつぶれる運命にあるのか。レーニンもトロツキーもそうは言いたくなかったんですね。
 
 ソ連というのは消極的な国家なんです。国家の本質は暴力なのですが、最終的にはマルクス主義者は国家をなくす、その意味ではアナーキストと一緒なんです。将来における国家の廃止についてレーニンもマルクスも、そしてスターリンも強調して言っています。ところが今、周辺の国家に囲まれている。だからわれわれのところだけ、国家がないような領域を作ったら、周辺の国家によって食われてしまう。だから、国家をなくすための国家だという論理をレーニン、トロツキー、そしてスターリンは立てるんです。他も国家に対して対抗するための暴力だから、そこにすんでいる住民には向けられない。国民には暴力を行使しない。対外的には暴力を行使する特殊な国家だと。国内的にも資本家の手先とか、外国の手先には暴力が適用される。これがプロレタリアート独裁の本質だと言うんですね。
 
 そんな理論は古い、今や意味がないというかもしれませんが、甦っているんです。再び。どこで甦っているかというと、アルカイダであります。アルカイダはアフガニスタンにタリバン政権を作りましたね。いま、モスクワで地下鉄のテロ事件がたいへんな話題になっています。これはひと言でいうと何かというと、北コーカサス地域にタリバン政権と同じようなロシアの実効支配が及ばないようなイスラーム国家を作ろうとする動きなのです。
 
 イスラーム原理主義者の論理に従いますと、アッラーの神はひとつですから、それに対応して、この地上においても単一の帝国が存在すればいいことになります。これをカリフ帝国と言います。カリフ帝国はたったひとりの独裁者カリフ(皇帝)によって支配されるべきと考えます。ところが今周辺に、アメリカであるとか日本であるとか、ドイツであるとか、いろんなイスラームではない国がある。その国家から防衛するために、過渡的にイスラーム国家という形をとらなければならないという考え方です。そうしますと国内のイスラーム同胞に対しては暴力を行使しない。しかしこのイスラームの国家を破壊する、世界イスラーム帝国をつくろうとする動きに反対する連中は徹底的に叩きつぶす。こういうドクトリンなんですね。一国社会主義的な発想が一国イスラーム主義になっています。
 
 トロツキーとレーニンとスターリンが考えていたことの差はちょっとした程度の差にしか過ぎません。内紛でそれが大きく見えるだけです。
 
 もうひとつ、このトロツキーの流れで重視しないといけないのは、アメリカのネオコン勢力なんです。アメリカのネオコン勢力の人たちというのはニューヨーク市立大学出身の人が多いです。ニューヨーク市立大学はサークルボックス別に第一ボックス、第二ボックス、こういう名まえになっているわけです。そこの第二ボックスの人たちというのが、将来ネオコンになるんです。第一ボックスはスターリン主義者です。第二ボックスはトロツキストです。アービング・クリストルとかダニエル・ベルであるとか、ラムズフェルドさんなんかのネオコンの流れを汲む人たちの源流はこのトロツキストサークルです。そしてこの人たちは世界革命を行おうとしたのを、世界共産主義革命から世界民主主義革命に展開したわけですね。力によって世界を民主主義化していくという考え方で、その方式はトロツキズムと一緒です。ですから、ネオコンの人たちの強さというのは、国家権力を中心に暴力があるんだということを正面から据えてたことなんですよ。
 
 この観点からすると、国家権力の本質が暴力であることが、石川知裕さん、皮膚感覚でだいぶわかるようになってきましたね(笑)。実は小沢一郎さんという人はそのへんのことがよくわかっているのだと思います。国家に関するリアリズムについてあえて言いますが、スターリンと小沢さんとは相通じるものがあるんですね。党の作り方の方式、レーニン、スターリンと小沢さんには相通じるものがある。ここのところは良い悪いということではなくて、組織論の観点から、暴力を持っている国家をどう制御していくか。暴力を制御することは暴力によってしかできない。政党の中で合法的な暴力をどのようにして持って、官僚たちが無意識に自然に行使している暴力に対抗していくのかという、力によって力をどう対抗させていくのかという、この論理がよくわかっている人が小沢さんなのです。



「政治を科学する」鳩山首相
 
 ちなみに鳩山さんはこういう暴力論とはまた違う、自然科学系のおもしろい人なんですよ。おそらくいまの世界の指導者の中で客観的にみた学歴において、さらに学識において鳩山さんを越える人はいないと思います。それから私があちこちで書いているので、理解が広がりはじめましたが、鳩山さんは決断の専門家です。彼は意思決定(決断)理論の研究で博士号を取っていますし、二十歳の頃から意思決定理論を徹底的に勉強しているんです。その基礎になっているのがマルコフ連鎖という考え方なんです。
 
 これは19世紀の初めから20世紀の初頭にロシアで非常に影響を持った現代確率論の開祖のひとりであるアンドレイ・マルコフの理論です。プーシキンのエフゲニー・オネーギンという詩を見ていて、子音と母音の流れ方は、その直近の言葉の配列にしか影響されないというところから関心を持って分析し、新しい確率理論を作りました。
 
 鳩山さんの研究の中で面白いのは、最高の秘書を雇うにはどうしたらいいか、あるいは、最高のパートナーをみつけるにはどうすればいいか。こういう研究が専門なんです。簡単なモデルでいうと、議員会館に千人の秘書を面接で受け付けるとする。何番目で決めたらいいか。一番目は絶対に断らなければならないんです。二番目以降にもっといい人が来るかもしれないから。断ったらその人を呼び戻せないというモデルを考えるんですね。そのとき何番目くらいで決めたらいいと思います? これは理論的に証明されているんです。
 
 368番目を基準にして、368番目までは全員断るんです。386番目と比較して、少しでもいい人を選んだ場合、もっともよい秘書が見つかる可能性が高いということがマルコフ連鎖によって証明されている。
 
 ですから、鳩山さんは5月に普天間飛行場の移設先を決断すると決めたわけですね。4月の終わり頃に何があるかということを見て、それとくらべて一番いいシナリオを選択するということと私は見ているんです。
 
 このマルコフ連鎖を使って戦争に勝った国があります。イギリスであります。マルコフ連鎖を発展させて、鳩山さんの英語で書いた論文の中にそれが多いんですが、マルコフ保全理論はどの程度批判に耐えられるかなんていう、東京工業大学にいるときに英語の難しい論文を書いています。言っていることは何かというと、ある会社で、人員、機械などを総取り替えしたい。しかし、予算の制約もあるし、いろいろなしがらみもあるから、全部を変えることはできない。するといろんな部分に分けて、仕分けして、この部分は潰そう、この部分にはもう少し、お金と人材を投入しようというかたちで、壊れた木という絵を描くんです。その中を適宜並べ替えることによって、最強の情勢を今持っているカードで作るという、その研究の専門家です。
 
 イギリスはナチスドイツとくらべると、軍事力も弱く、工業力も弱い。その状況の下で、数学者を集めて半分に分けるんですね。半分の人たちは暗号解読チームに。残りの半分の人たちはマルコフ連鎖理論を使ったかたちでの、弱いイギリスがなんとか勝つ方法を考える。たとえば、イギリスにはアルミニウムがない。鉄の量も限られている。そこで木で飛行機を作るんです。モスキートという有名な爆撃機をつくります。この飛行機を作った後で、非常な利点があることがわかりました。木製なのでドイツ軍のレーダーに映りにくいんです。ですから夜間攻撃をすると、ほとんどドイツのレーダーに引っ掛からず、被害を受けずに帰ってくることができたんです。それ以外にも、戦闘機で空中戦をするとパイロットの消耗率が高いですよね。そこでどうしたか。ポーランドとかチェコとか、なくなってしまった国がありますよね。そんな国からの亡命者を受け入れる。家族を引き受ける代わりに最前線でナチスドイツと戦うのは君たちだというかたちで、イギリス人の消耗を抑え、ポーランド人、チェコ人を戦いの先兵に立たせました。
 

変化を計算に入れて決断。

 ですから鳩山さんは普天間問題についても意思決定理論を踏まえた戦略をもっていると私は見ています。鳩山さん自身は2005年に同志社大学で行った講演で、私はどうして政治家になったか、それは父親の影響がある。私の弟は子どもの頃から政治家になりたいと言っていた。ちなみに、弟とは仲が良いんですと。私は政治家になるつもりはないと思って、理科系に進んだ。アメリカで数学の研究をして日本に帰ってきたときに、お父さんの鳩山威一郎さんからこんな無礼なことを言われたそうです。お前数学なんかやってるけど、何か役に立つのか? そしたら鳩山さんはむきになって、数学がなければ新幹線も動かない。そうなのかなあとお父さんは言われた。


 お父さんは東大を銀時計組、すなわちトップで卒業した大蔵官僚でした。お父さんは鳩山由紀夫氏に何を言ったか。青函トンネルを造ったときに、その予算付けをした私が大蔵の課長だったという話をしました。青函トンネルは単線で造ればよかった。複線にして地下で交差させる必要はなかった。そのために5年から10年完成時期が遅れた。合理的に考えれば、単線で造っていれば、もっと北海道経済を豊かにすることができたし、お金も使わずにすんだ。


 そのあと、鳩山由起夫さんの解釈ですね。日本の政治はまったく科学的ではない。少なくとも数学的ではない。非合理なことをやるから、腹芸であるとか、根回しとかが中心になって国家を弱くしている。それを正すために政治を志すことにした。鳩山総理は自民党に入って、そこにはコンピュータがあっていろいろなデータが蓄積されているのかと思ったら、そんなものは全くなかった。そこで新しい政治を作らなければならないと思った。その政治の作り方について、私の理論はこうだと、講演の中で言っています。


 まず目的関数を定めます。目的関数の中で制約要因に何があるか、それについて考えます。制約要因というのはひとつひとつの項なんです。その項は関数体ですから、大きくなったり小さくなったりします。すなわち微分法です。ですから、自民党政治の特徴は、足して二で割るということです。四則演算です。これに対して鳩山さんは、dx/dyであるとか、∂x/∂yであるとか、微分とか偏微分を使って変化を入れるわけです。


 普天間問題においても鳩山さんのマルコフ連鎖理論が使われていると見ているんですね。なぜかというと、常識的に考えると、アメリカは圧倒的に強い、日本は弱い。その状況の下で、足して2で割ったらいいんだと。鳩山さんとしては沖縄県外(移設)ということを言ってしまった。そして沖縄の人々の期待値も高まっている。他方日米合意もある。日米合意というのは普天間の返還ということだ。足して2で割ると、辺野古の沖合くらいで大丈夫じゃないか。これが自民党的な発想ですよ。


 ところが鳩山さんは違うんです。鳩山さんは目的関数をつけているんです。目的関数は何かというと、日米同盟の極大化です。それに対する制約条件は何か。たとえば、自民党とアメリカが結んだ内容は2006年の世界地図に基づいているんです。すなわちネオコンが勢力を持っていて、台湾海峡で有事が起こる可能性が相当程度ある。また北朝鮮で有事が発生する可能性がある。この発想に基づいているんですね。この前提というものを、今月(五月号)の『文藝春秋』や『中央公論』の有識者の論考においても、(『文藝春秋』に掲載された)岡本行夫さんの論考を除いて、すべて2006年の世界地図を前提に四則演算でものを考えているんです。変化が入っていないんです。ネオコンは退潮した。台湾に馬英九政権が誕生した。米朝国交正常化交渉が恐らく水面下で相当動いている。この状況がある。この変化を有識者が理解していない。


沖縄県民の感情と日米安保。

 それから皆さん、普天間にいる海兵隊って、調べたらわかりますが、沖縄にいるのは2カ月くらいですよ。それ以外どこにいると思いますか。モンゴルかオーストラリアなんです。なぜか。テロとの戦いに備えているからです。砂漠がないと演習ができないんですよ。こういう与件の変化ですね。


 それから沖縄の住民世論がどうなるかということですよね。沖縄においてはシンボルをめぐる闘争になっています。理性は通用しません。みなさんの喜納昌吉(沖縄県出身、民主党、参議院議員、比例代表)先生がおられますね。喜納先生の言っておられることわかりますかと、北沢防衛大臣に尋ねたことがあります。全く何を言っているかわからない。太田昌秀さんにも聞いたんですね、喜納先生の言っていることがわかりますかと。全く何を言っているかわからない。ただ、その後太田さんと私の間では、ふたりとも沖縄の関係者ですからね。沖縄にはユタという口寄せみたいな人がいるんです。喜納さんは男のユタですからね。と私が言ったら、太田さんは確かにそうだ。なんとなく沖縄の人たちが考えている感覚というものを口寄せみたいなかたちで、情動言語で話すんです。喜納さんの言っていることは本質から外れないんです。ところがそれを解釈できる人がいないと何を言っているかまったく分からない状態になってしまうんですね。


 私は日米安保を絶対に堅持すべきだと考えます。

私は力の論理の信奉者であります。それであるが故に、いま、県内という決定をしたら絶対にダメだと主張しているです。ここで沖縄県内移設を強行すると嘉手納基地や那覇港も含めて、米軍の基地がすべて、住民の敵意に囲まれた基地になってしまう。沖縄の人たちは基地とどうやって共存すればいいかわかっているんです。沖縄の人たちに下駄を預けてどういうふうにするか、クールダウンしたほうがいい。おそらくこの変数も鳩山さんの中に入っている。


 それからもうひとつ、変数に入っているのは、石川さんも巻き込まれた、小沢さんがどうなるのかという検察の動き、これも制約条件です。こういうものがどう変化するか、鳩山さんは頭の中で計算しているんですね。

 それからあともうひとつ、日本の新聞記者たちが非常に弱くなっている。なぜかというと、その目線が官僚と一緒だからです。官僚と同質的な人が新聞記者になっているからです。だから、普天間問題で日米関係が本当に崩れると思っているんです。鳩山さんは崩れないと思っています。どうしてかというと、アメリカに行って、アメリカで博士号取って、アメリカ人とディベートした経験から鳩山さんはアメリカ人の内在的論理を知っているからです。小沢さんも崩れないと思っています。それはアメリカとの付き合いが長いからです。それから小沢さんがデモクラシー、民主主義の意味をよくわかっているからです。


鳩山・オバマ会談10分間の意味

 今回、4月13日の鳩山さんとオバマ大統領との会談で、10分しか会えずになんの成果も得られなかったと朝日新聞から産経新聞までみんな揶揄する記事を書いていますね。しかし、もう一回、外交の世界のことをよく考えてほしいんです。あれは単なるディナーじゃないですね。ワーキングディナーです。ワーキングディナーというのは外交の世界では仕事です。食べない人もたくさんいるんですよ。すでに別のところで食べてきて。そこでいろいろな交渉をします。公式の記録係も通訳もつきます。正式の交渉です。そのマルチ(多国間)交渉の場で、アメリカの大統領が、10分間、日本とのことだけをやりますから、皆さん入ってこないでくださいと意思表示したということは、アメリカの外交で恐らく初めてのことだと思います。それだけ日本との関係を重視しているわけですよ。


 あともうひとつ。10分あればお互いの中で相当なやりとりができます。通訳を入れても5分残っています。ひとりの持ち時間は2分半です。政治の世界では2分半あれば、何が最重要事項かを伝えることができます。

 日本の報道で過小評価されているのは、鳩山さんの切ったカードです。いまアメリカの政権にとって死活的に重要なのはイランです。イランに対して追加的な制裁を加えるということです。イランは核兵器の開発を本気でやっています。大量破壊兵器開発についてイランは北朝鮮と提携しています。イランに対する制裁を常にブロックしているのが日本なんですね。自民党政権時代の親アラブ、親イラン政策の残滓なんです。利権構造と結びついている政治家もいる。また日本の外務省はアラブスクールというのがあります。日本の外務省の研修生の8割はシリアで研修しています。PLO、パレスチナへのシンパシーが異常に強いです。残り2割もエジプトです。諸外国では、いまアラビア語の研修をイスラエルでやる国も少なくありません。日本の外務省は、西側世界では異常なほどイスラエルに対して冷たいんです。それが反射してイランに対してシンパシーを持つ形になる。対イラン外交で対米自主性を発揮できることが日本外交の売りだという刷り込みがあるんです。


 ところが4月13日の会談で、鳩山さんが、日本はイランへの追加制裁に合意するという約束を与えた。私はこれは鳩山総理の重要な政治決断だと見ています。外務官僚は必死になって巻き返そうとしています。ですからできるだけこの問題に焦点が当たらないようにしています。気がついているのは朝日新聞だけです。しかし朝日新聞もわずか10分間の中でアメリカの取りたいものを取られてしまった。イランについて言質を取られたという扱いなんです。

【鈴木宗男・新党大地代表が会場へ/鈴木代議士挨拶】

 みなさんこんにちは。今日本で一番忙しい作家と言えば佐藤優さんです。渡辺淳一さんクラスでも月400枚くらいだそうですよ。多い人でも5,600枚でしょうね。佐藤さんは今、1200~1300枚書いているんですからね、身体のことが心配です。

 とにかく佐藤さんが国策捜査という言葉を世の中に知らしめた、その結果、世の中の流れが変わったと思います。まさにペンの力、佐藤さんの能力を発揮さされたと思いますね。外交官としてもまれな人で、私はこの人くらいの胆力を持った外交官があと10人くらいいれば、日本の歴史は変わったし、領土問題は佐藤さんひとりで動かすことができたと思っています。


 佐藤さんに申し訳ないのは、私と近かったが故にパージされてしまった。申し訳なく思っていますね。ただ私は佐藤さんと出会えたこと、最高の財産です。佐藤さんは外務省の幹部から、お前が鈴木を叩け。そうすればお前はセーフだと。そこまで誘われたんです。悪魔の囁きですね。それでも佐藤さんは、ふざけるなと。おまえたち、あれだけ鈴木先生に世話になって、よくも人間的でない話が言えるものだと。そしたら翌々日逮捕なんですから。ひどい話なんですね。私は、あるいは佐藤さんもそうなんですけど、正直に生きてきましたし、これからも生きていきますし、また外務省のためにも正しいことをしっかり国民に伝えて、やる気のないものや国民に嘘やごまかしをしたものは、それなりの責任を取ってもらう、これが正しい外交ではないかと思っています。これからもその方向に向かって、私は与えられた立場で努力していきたいなと思っております。


 石川代議士も佐藤さんのアドバイスを受けてとても参考になったと思います。小沢幹事長ももちろんであります。私はよく小沢幹事長を擁護しているというふうにとらえられますが、擁護じゃないんです。民主主義を守るために私の経験だとか、思いを伝えているんです。よく私と小沢さんがしゃべっているところがあると、テレビなどで使われるんですね。この前も、古館さんの報道ステーションを見ていたら、この二人が映っていますと、三千人分の迫力がありますね、なんて余計なことを言っているんですね。どうせなら300万人分くらいのことを言ってくれればいいんですがね。まあそれでもそれだけの存在感を示していられることはいいと思うんです。


 うちの女房なんか言うんです。「お父さん、あまり小沢さんのそばによってはいけませんよ、印象悪いですから」って「バカたれっ」って私は女房をたしなめるんですが。私は小沢さんは正直にものを言っている。やましいことはしていない。法に触れることはしていない。ゼネコンから不正な金はもらっていない。この三点は正しかったですから。小沢さんに対して説明責任が足らないと言う方が間違っていると思うんですね。私は小沢さんには自信を持ちなさいと言いながら、私の知っているメディア関係者にも何が事実だったか、これだけはみなさんはっきりしてくれと。検察側主張、水谷から金をもらった。とくに石川さんがお前水谷から5千万円もらっただろうと。そればかり10日間責められたという話。実際はなかったんですから。それだけでもテレビ報道、新聞報道はなんだったのか、逆にお尋ねしたいくらいですよ。我々の経験を生かしながら、石川代議士をしっかり守っていかなければいけないと。それがまた私の使命だと思いながらやっていきますので、どうぞみなさんね、石川代議士を宜しくお願いしますし、また小沢幹事長に対する見方を正しく正直な判断をしていただきたいなと心からお願いをする次第です。


 とにかく、佐藤さん、死ぬまでの仲間だという思いを持ちながら、これからも国益の観点から佐藤さんなりの私なりの発信をしていきたいなと思っております。ありがとうございました。


【佐藤優】
 私は先ほどのマルコフ連鎖理論が正しいと思うのは、鳩山さんにそれがあるというのは、鈴木さんとの関係からそう思ったんです。2回くらい前の選挙で鈴木さんは、鳩山さんを追い落とすために岩倉さんを立てて、あそこまで迫ってきた。昔のことを気にして根に持つ性格の人だったら、よくもやりやがったな。誰と一緒になっても鈴木とだけはやらないということになるんですが、そうじゃなく、宇宙人的に割り切れるのはどういうことなのかというのは、理論的な裏付けがないとできないんです。

 直近における新党大地の力はどういうものであるか。関数体としての新党大地が一回限りでぽしゃってしまうのか、伸びてゆくのかという関数を立てているんですね。その冷徹な計算と人間的な心情とその両方が合わさっていると思うんです。


 ですから小沢・鳩山関係というのは、僕なんか外側の人間ですからね、突き放して見ているんですが、お互いに違うから、相重なる部分が多いんですね。

 ただ私は小沢さんにも鳩山さんにもすごい批判があるんです。どうしてかというと、これだけの権力をもっているでしょ、それなのに権力を十分に使っていないからです。今回、ウェーバーをなぜ読書会のテキストに選んだのかというと、みんなで権力について学んで、権力は行使しなければだめだ。必要なときに。必要なときに権力を行使しないでいると、せっかく国民の信任をこれだけ得たにもかかわらず、実質的には少数派であるような政治家たちにいいように使われてしまう。民主党が反省しなければならないところは、人がよすぎるところ、優しすぎるところです。このへんをもっと変えて、怖い民主党にならなければならない。それが私は、国民のためになると強く信じています。


鳩山首相の思惑と、アメリが得た情報の乖離。


 さっきの鳩山さんの話に戻しますが、私が心配しているのはアメリカの大使館ですね、東京のアメリカ大使館というのはいろんな部門がありますから、普通の外交官じゃないような人たちがたくさんいます。

 鳩山さんが考えていることとはかなり乖離した情報が在日米国大使館を通じてオバマさんに上がっているのではないかと私は見ています。それは何か。沖縄の基地問題というのは最終的にはいままでも、沖縄に負担させるという形で処理されてきましたから、鳩山総理もギリギリのところではそう決断しますよ。ただ、自民党政権と同じ形にはならないですから、そこは何らかの色をつけないとならないですね。これくらいの情報がオバマさんのところに上がっている危険性があると私は見ています。


 さて、日米首脳会談に話を戻します。今回の2分半の鳩山さんの持ち時間で何を言ったか、鳩山さんは口を割らない。そこで私の推定なんですけれども、日本側がすぐにイランの問題で一番アメリカがほしがっているカードを出したということは、日本の側も相当なことを言っていると思います。オバマさんの側も相当なことを言っていると私は見ているんです。そこのポイントは何か。オバマさんが恐らくそこで初めて、沖縄県外だという意向を相当強く鳩山総理は持っているんだということを知ったのだと思います。そうするとそこからアメリカ側の戦略も組み立て直しが始まります。


 5月中に普天間飛行場の移設先が決まらなくても天が落ちてくるわけではありません。重要なのは敵意に囲まれた基地を作らないことなんです。現状で5月末の解決を強行することは安保機能にとってマイナスです。なぜ、このへんのことをマスコミは報道しないのか。今回のディナーが普通のディナーではなく、ワーキングディナーであることを伝えないのか。これはひとえに外務官僚のサボタージュです。外務官僚はなんとしても辺野古の沿岸か沖合に決まってほしいんですよ。そうじゃないと今まで自分たちが決めたことが全否定されるでしょ。そうなったら、ゼロからやり直さなければならない。面倒くさいんですよ。


 異例な形でワーキングディナー、そこで10分間の時間が取れた。日本との関係を大切にしたいとオバマが思っているということは、外交のプロだから外務官僚は当然わかっているはずですよ。ところが言わないんですよ。それからイランについて鳩山総理がこれだけのカードを切った。アメリカはそれを会見で発表しているわけですから。日本に感謝しているから発表しているんですね。日本側からどうして出てこないんですか。私は非常に不思議だと思います。どうもそこで外務官僚がサボタージュしていると思えてならないのです。


官僚の不作為の検証を。

 鈴木宗男さんが来られたついでに言いますと、キルギス情勢で日本は相当なことができるんです。日本のODAで一時期は、国家予算の相当部分がまかなわれていました。キルギスは今、内戦直前の状態になっているわけですよ。キルギス情勢に関して、「ロシアの声」というホームページをクリックしてください。旧モスクワ放送のホームページです。日本語版が充実しています。キルギスで何が起きているか書いてありますし、北方領土問題に必要なロシアのシグナルは全部そこに書いてあります。


 キルギスで内戦が起きて、キルギス南部が混乱すると、アルカイダ、タリバンとつながった拠点ができて、先ほどお話しした、一国イスラム主義の拠点ができてしまうんです。世界イスラム革命の拠点ができるんです。

 日本人はそこで被害者(1999年にキルギスタンで日本人鉱山技師4人と通訳が武装組織に誘拐された事件)が出ているんです。ちなみにあのときの裏話も鈴木さんよく知っていますが、日本は身代金で300万ドル(3億円)出している。ところが身代金を出したがために、交渉が頓挫してもっと取れるとテロリストたちが思った。日本人の人質解放が遅れたんですね。一人殺されそうになったんですよ。しかもその時の金がゲリラに渡ってないんです。キルギス政府内部で山分けしたらしいんですね。鈴木宗男さんのところに300万ドル持っていきますと言って、領事移住部長が了承を得ているんです。私もその当時、鈴木さんから実情を聞いています。どうもそのときの予算の一部が外務官僚の飲み食いに使われているんですね。外務省の連中が現地に対策本部を作って。


 この問題は共同通信がスクープし、北海道新聞は一面に載せたんですが、全国紙は共同の後追いをしたくないということで使わなかったんですが、こういうスキャンダル山ほど隠れているんです。そういうのをひとつひとつ、丁寧に解き明かして、テロリストをサポートするようなことは二度としないという「しつけ」を外務官僚に対して行わなくてはなりません。自民党政権時代に官僚たち何やりましたかということを、民主党がきれいに整理すれば、そこのところから相当な教訓が得られるわけですよ。

 そもそも外務官僚は「キルギスは中央アジアのスイスだ」と言っていたじゃないですか。散々お金投入したじゃないですか。アカーエフ前大統領はとんでもない独裁者だということになって、ロシアに亡命したじゃないですか。その辺の日本政府の見立ては正しかったのか。国民の税金を投入したのは正しかったのか。こういうふうなことも検証課題にすべきです。


 現在も日本外務省がキルギスに人脈があるのは確かだから、今この状況で外務副大臣か政務官が現地に行くという形にして日本が何らかのメッセージを発して、安定のために貢献する。そしてアフガニスタンに対して、キルギスやタジクを通じて協力の態勢を作れば、それがロシアに対するカードにもなって、アメリカに対するカードにもなるんですよ。いまあるものを組み替えるだけなんです。これが権力が使いこなせていないという私の批判になるんですね。

(3回目につづく。この勉強会は、2010年4月15日 衆議院第1議員会館で行われました)