村木元局長事件は歴史に残る冤罪 (日刊ゲンダイ2010/5/28)

大阪地検、前代未聞の「求刑」放棄も浮上

検察史上に残る冤罪事件に発展しそうだ。厚労省元局長の村木厚子被告(54)をめぐる郵便不正事件――。大阪地裁は、検察の“唯一”の証拠だった供述調書の証拠採用を却下した。これで村木被告の無罪は決定的だ。検察は「求刑」すら断念せざるを得ない最悪の状況に追い詰められた。逮捕、起訴しながら求刑できないとなれば、特捜部長のクビだけでは済まない。
「取調官の誘導があったとみられる」――。26日の大阪地裁の法廷には、捜査手法を批判する裁判長の声が響いた。
「検事が、自分の意に沿う供述が得られるまで調書を取らなかったことや、捜査を指揮した主任検事がOKする内容でなければ調書が作られなかったことを裁判所は問題視しました。要するに最初に筋書きありきの『作られた事件』だったと認定したのです。結審前に『無罪確実』という前代未聞の展開に大阪地検には激震が走っています」(大阪地検担当記者)
名城大教授で弁護士の郷原信郎氏はこう言う。
「『核』となる証拠を失った検察は犯罪を立証できず、普通に考えれば論告も求刑もできなくなる。最悪の場合、求刑を放棄する可能性もあり得ます」
大阪地裁の判断は、特捜部の捜査手法そのものを否定したも同然だ。
「特捜部の捜査手法は、あらかじめストーリーを作り、それに沿った“証拠”を当てはめ、容疑者をがんじがらめにする。裁判所も検察の調書を信用する傾向が強かった。その裁判所が今回、証拠採用を却下した。大阪地検の捜査手法がいかにズサンだったかということ。検察の捜査能力が著しく低下している表れです」(元大阪高検公安部長の三井環氏) 筋書きありきで捜査を進め、関係者をギュウギュウに締め上げるやり方は、小沢事件を捜査した東京地検特捜部も同じだ。
「大阪地裁の決定にブルっているのが、西松事件の大久保被告、小沢事件の石川知裕被告の公判を控えている東京地検特捜部です。両被告は全面否認だし、大久保被告の場合は、検察側証人の法廷証言が覆るなど、大阪のケースと展開が同じだからです。仮に西松事件、小沢事件の公判で、大阪と同じようにデタラメな捜査手法が明らかになれば、国民から『特捜部解体』論も噴出するでしょう」(司法ジャーナリスト)
検察の暴走が次々に明らかになり始めている。