首相退陣、肝いり法案が頓挫 郵政改革は見通し立たず

(asahi.com 2010年6月3日5時36分) http://bit.ly/9Lh6k4


 鳩山由紀夫首相の退陣により、16日までの今国会中の法案審議が困難になった。混乱の原因をつくった与党は採決の強行もしづらく、与党が「参院選への成果に」と成立を急いでいた郵政改革法案は見通しが立たず、政府提出法案(閣法)の多くが廃案や継続審議となる見通しだ。

 新首相による衆参両院本会議での所信表明演説と各党の代表質問には、順調に進んでも来週いっぱいかかる。会期を延長しなければ法案審議に残されるのは再来週の3日間だけ。成立までこぎ着けられそうなのは、すでに一定時間の審議を終え、野党も採決に応じる法案に限られそうだ。

 影響は郵政改革法案に限らない。温室効果ガス排出量削減の中期目標を記した地球温暖化対策基本法案、官邸主導人事を目指す国家公務員法改正案は廃案となる見通しだ。いずれも衆院での採決強行を経て参院に送付済みだが、参院で採決できなければ、今国会では参院選が控えているため、慣例で廃案となる。

 一方、衆院で審議中の法案は、手続きをへて継続審議となる。製造業派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案、経済・財政政策の司令塔となる国家戦略局を設ける政治主導確立法案、国が自治体の仕事を縛る「義務づけ」を見直す地域主権改革推進法案(参院先議)などがこれにあたる。

 議員立法では、選挙運動でのインターネット利用を解禁する公職選挙法改正案は、参院選公示予定の24日までの周知期間をふまえると4日までに成立が必要だが、間に合いそうにない。旧ソ連による抑留者に特別給付金を支給する法案については、会期末の駆け込み成立へ向け与野党の調整が続きそうだ。


 ■派遣法改正案は継続審議へ

 労働者派遣法改正案は社民、国民新両党が今国会での成立を強く要求し、社民党は連立離脱後も法案成立への協力を確認していた。継続審議にはなりそうだが、参院選の結果によっては連立相手の組み替えも考えられ、参院選後の国会でどうなるかは不透明だ。

法案は、社民党や国民新党の反対に配慮して厚生労働省案に盛り込まれた「事前面接解禁」を削除して閣議決定。法案処理を急ぐために、参議院で先に審議することで自民党と合意した。しかし、合意が覆って先に衆議院に提出され、審議入りがずれ込んでいた。

 内容を巡る対立も解けていない。自民党は、製造業派遣や登録型派遣を原則禁止することで、十数万人規模の失業者が発生する可能性を指摘。「規制が強化されるのに対策が示されない」「多様な働き方を奪う」などとして反対の姿勢を鮮明にしていた。これに対し、長妻昭厚労相は、事業主が派遣の正社員化や直接雇用への転換を図ることで失業者発生を防げると主張。国として支援に取り組む姿勢を強調していた。

 一方、派遣労働者を支援する労働組合などからは、製造業派遣でも登録型派遣でもそれぞれ例外が認められることについて、例外の定義があいまいで抜け道になりかねないことを懸念する指摘も。さらに厳しい規制を望む声も上がっていた。


 ■亀井氏牽制「今国会で」

 郵政改革法案の取り扱いを巡り、原口一博総務相は2日午後、記者団に「何としても通して頂きたい」と述べた。全国郵便局長会の柘植芳文会長も「どんなことになろうとも、今国会での成立を期待している」と話す。だが、民主党の参院幹部は「会期延長なしなら100%廃案だ」と言い切る。

 法案は衆院をわずか1日の委員会審議で強行採決して参院に送付されたが、参院総務委ではこれから放送法改正案の審議に入る予定。郵政法案の審議入りのメドは立っていない。また、政権を離脱した社民党が欠席すれば定足数を満たさず、委員会すら開けない。

法案は、日本郵政グループを5社から3社に再編し、政府が株式の一定割合を保有して関与を続けることを明記した。全国の郵便局ネットワークの維持費用をまかなうために、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額などを拡大することになり、小泉政権の民営化路線の転換をめざした。

 もっとも、連立を組む国民新党の意向を最大限反映し、日本郵政の肥大化と官業回帰につながりかねない内容になったことで、違和感を持つ民主党議員は少なくない。3月に限度額の引き上げを決めた時も、民主党代表選に立候補する菅直人財務相や、仙谷由人国家戦略相は公然と反対した。金融機関も「民業圧迫だ」と反発を強め、欧州や米国は世界貿易機関(WTO)への提訴をちらつかせる。

 参院選後、改めて法案を提出し直す事態になれば、連立与党の組み合わせ次第で内容が大きく修正される可能性がある。党勢を拡大するみんなの党は、選挙公約に「郵政民営化の基本的骨格の維持」を掲げ、ゆうちょ・かんぽ資金の拡大には否定的だ。

 あるメガバンク幹部は2日、法案が廃案になる可能性が強まったことに「うれしい」と喜びを隠さなかった。金融業界からは「郵政改革の是非について議論を深める時間が与えられた」との声も出ており、仕切り直しになれば、見直し論が勢いを増すことも考えられる。

 民営化見直しが党是の国民新党は危機感を強める。郵政改革相の亀井静香代表は2日の記者会見で「今国会で成立させないといけない。新政権がびしっと対応するのは明らかだ」と牽制(けんせい)。新政権での政策協議で早速火種になりそうだ。