遺言のようだった鳩山辞任のあいさつ

(日刊ゲンダイ2010/6/3)
鳩山首相が辞意を表明した両院議員総会の挨拶は、延々20分間にも及んだ。集まった民主党議員に語りかけるような演説で、途中、何度も会場は拍手に包まれた。ま、辞める首相への“はなむけ”ということもあるが、この演説はある意味、歴史に残るかもしれない。
多くの期待を担って誕生した鳩山政権。それが8カ月で終わってしまう。早い話、理想が空回りしたのである。それが演説には、よく出ていた。
「米国に依存し続ける安全保障をこれから50年、100年、続けていいとは思いません」
「5年、10年たてば、鳩山の言っていたのはこういうことだったのかと必ず分かってもらえる時が来ると確信している」
まるで遺言状のようだった。
鳩山首相の挨拶について、政治家の言葉を分析している立命館大教授(社会言語学)の東照二氏はこう言う。
「政治家はビジョンを語り、国民に伝えることが重要なのです。それなのに、鳩山首相は辞任の理由として『国民が聞く耳を持たなくなった』ことを挙げて、私の不徳と表現しました。不徳ではなく、伝える能力の問題だと思います」
作家の麻生千晶氏は、鳩山首相に同情的だ。
「鳩山さんは、『日本は変わらなきゃいけない』という理念と理想を持ってきた。しかし、現実との乖離(かいり)があって、理想を実現化するブレーンがいなかったのです」
理想を語り、友愛で政治が動けば苦労はない。自らの能力不足に加え、選んだ女房役や閣僚も無能だったことが不幸だった。