民主党代表選 菅291票 菅内閣で国は大丈夫か  (日刊ゲンダイ2010/6/4)

党人事も「小沢はずし」なら禍根

午前11時から投票が始まった民主党の代表選は、順当な結果で終わった。衆参所属議員423人のうち、291人が菅直人副総理・財務相(63)に投票。対抗馬の樽床伸二環境委員長(50)は129票の獲得にとどまった。これで菅新首相が正式にスタート。国会の首班指名を経て、夕方から組閣の手順だ。反「菅票」が129票だったことを踏まえ、幹事長人事がだれになるかが次の焦点になっている。
「接戦になる」という見方もあった代表選だが、フタを開けたら、予想外の票差だった。
「昨夜までは小沢グループがまとまって樽床候補に投票するという情報が流れたので、170票近く獲得するとみられていた。しかし、小沢幹事長が決定的な対立、党の分裂イメージを避けたいということで、小沢グループは自主投票に方針を切り替えた。これで菅氏の大勝は動かなくなったのです」(民主党関係者)
今回の代表選は、新首相を決める選挙でもあるが、最大の焦点は「民主党がひとつになること」。そうでないと小鳩体制に反発してバラケた参院民主党で法案が通らなくなる。小沢幹事長はそこを重視したわけだ。
ところが、菅副総理を支持した前原、仙谷、枝野、岡田、野田といった大臣、副大臣は「小沢はずし」を強調。菅副総理にも「小沢さんはしばらく静かにしていただいた方がいい」などと言わせた。
樽床票を最小限に抑えることで、小沢幹事長の影響力を消し、新幹事長など党人事も牛耳ろうという思惑がミエミエだ。実際に幹事長ポストには岡田、仙谷といった名前が飛び交った。
だが、本当にそんな人事をやったら、小沢幹事長から、「それなら参院選もご勝手に」とソッポを向かれるのがオチ。それで小沢抜きで参院選を戦えるのか。仕切れるのか。


参院選で負けたら、鳩山首相、小沢幹事長のダブル辞任もパーになってしまう。そこをじっくり考えた方がいい。

◇出馬演説で「政調会復活」
投票前に行った2人の出馬演説は対照的だった。初めに演説を行った樽床候補のスピーチは、選挙区の老夫婦の貧しい生活、全盲の祖父のことなど感情に訴えるものだった。対する菅候補は、自分の経歴はサラッと語っただけ。
樽床候補は「民主党議員423人がひとつになることが大事だ」「皆がバラバラでは危機を乗り越えられない」「好き嫌いはどうでもいい」と、党内が「親小沢」VS.「反小沢」に分裂すべきではないと訴えた。しかし、菅候補は小沢幹事長を挑発。「みなが参加する民主党にするために政調会を復活させたい」と、小沢幹事長が廃止した「政調会」の復活を約束した。
◇会場満杯!報道陣入りきれず
代表選挙は衆議院別館5階の講堂で行われた。マスコミ受け付け開始の午前10時を待たずに、数百人の報道陣でごった返し、現場は騒然。野党時代と違って、事実上、新首相を決める選挙なのだから当然だが、民主党にとっては初めてのこと。仕切りのまずさが目立った。 政治部だけでなく、社会部や地方紙、専門紙などの記者も詰めかけ、報道陣が通常の5~10倍の数に膨れ上がったため、カメラが先に入室すると、記者が入る余裕がなくなってしまったのだ。
並んで順番を待っていた記者たちからは「どうなってんだ」「中に入らなきゃ記事が書けない」「取材して欲しくないのか」と怒号が飛び交い、殺気立った中での新代表誕生となった。


実力は前原、枝野クラスより上といわれる樽床議員の素性と人望

代表選で一躍注目を集めることになった樽床伸二議員とはどんな政治家なのか。一般には無名、こんなに脚光を浴びたのも初めてのことである。
当選5回で、地盤は寝屋川市、大東市などの大阪12区。
阪大経済学部、松下政経塾出身。政経塾では神奈川県の松沢成文知事と同期だ。細川護煕首相を慕い、日本新党候補として33歳で初当選――というと坊ちゃんエリート街道まっしぐらに見えるが、そうではなく、かなりの苦労人だ。父親は紳士服の仕立て職人。祖父は盲目のマッサージ師。子供の頃は、自転車で祖父を送り迎えしていたという。
親しい記者が語る。
「だから、民主党議員には珍しく、頭でっかちでなく、たくまましい政治家です。政経塾の出身者からは兄貴分的な存在として頼りにされている。陽気な関西弁で熱血漢だから、仲間が次々と集まり、今回も推薦人20人はもちろん、すぐに衆参40人以上の支持をとりつけました」
枝野大臣や野田副大臣だって苦労する推薦人20人集めを、無名なのにアッサリとやってのけるのだから、たいしたものだ。
「党内抗争は意味がないと、渡部恒三が束ねる“7奉行”から抜けたことで、“樽床は親小沢議員”とレッテルを張るメディアが多いが、それは違う。樽床の本音は、もう鳩山・小沢・菅でいがみ合う時代じゃないでしょうということ。おまけに次の世代の岡田、前原、枝野たちに対しても、鳩山首相を助ける仕事をしなかったじゃないかと不満をもっている。いいポストを与えれば、前原、枝野クラスは軽く飛び越える力を持っていますよ」(政界関係者)