田原総一朗×上杉隆「私が体験した『政治とカネ』のすべて」Vol.1


民主党政権も明かせなかった「政界とメディア」最大のタブーに挑戦する

(現代ビジネス 2010年06月04日) http://bit.ly/921AfM

上杉:今、さっきも菅(直人)さんと樽床(伸二)さんの会見にいってきました。

田原:(Twitterに)樽床さんに靴を投げたいなんて書いてましたね。なんでなんですか?

上杉:あ、靴をですか?(笑)

 それは要するに、基本的に認識がまったく甘かったんですよ。僕も意外だったんですが。樽床さんは、ある意味、若手の保守のアニキ分として期待の星ですよね?

 松下政経塾出身のわりには、落選経験もあって、いわば地べたはいつくばったという感じの、いわゆるドブ板も知ってる感じです。

 若手の民主党議員もついて行く人が多い。ぼくも期待をして会見に行って質問したんですけど、鳩山政権、民主党がかかげたマニュフェストの中身をまったく理解していない。

田原:なんで菅さんと樽床さんの会見だったんですか? 

上杉:今日までに立候補を表明した人だけ。

田原:樽床さんは立候補を表明したってことね。

上杉:はい、推薦人集めたと。まだ出してはいないんですけどね。

田原:それでふたりは会見したわけね。

上杉:明日(6月4日)の午前9時までに他に出るかどうかというのはわからないので、不公平感があるかなという感じはするんですが、現時点で推薦人を集めた人だけ会見をした。

田原:マニュフェストを理解してないってどういうことなんですか?

上杉:民主党の173項目のマニュフェストもそうですけど、小沢代表時代の公約、5つの柱、その基本部分・・・たとえば具体的に質問したのは、国民の知る権利、情報公開、開かれた政治を作る、というのが民主党の柱なんですよ。その部分で官房機密費、記者会見のオープン化、情報公開制度は鳩山政権では中途半端になっている。

 樽床さんが仮に政権を取られた場合、それをきちんと、鳩山首相の意向、民主党の公約を守ってやるんですか、と聞いたら、「それについてはいろんな意見があるので、考えてみたい。私はまだ官邸に入ってないのでそのことは知らない」と言ったんです。

田原:マニュフェスト知らない?

上杉:私が質問したあと、民主党会見はオープンですから、フリーランスのJANJANの田中龍作さんという方が、また同じ質問かぶせたんですね。

 これまた「わからない」と。その後、やはりフリーランスの畠山(理仁)さんがもう1回かぶせたんですね。

「これは民主党の公約です。ずっと約束してたのにどうしてそういうことを言うんですか? 方針だけでも示すべきじゃないか」と言ったら、「いろんな方のいろんな意見があるので、様子を見ます」と。それでは今の鳩山政権より後退なんです。ご自身の政策もない、というか自分の党の公約も読まれてないのか、と。

 そういう意味で基本的に立候補するんだったら、それくらいせめて用意してると思っていたから、期待がドンと落ちた。

田原:なんのために立候補したんですか? 何をするんだと言ってましたか?

上杉:マックス・ウェーバーの言葉を引いて。

田原:マックス・ウェーバー!?

上杉:政治というのは情熱で、岩盤に穴をあけるのにトンカチや何かを使った地道にやる作業だと。民主党の若返り、というのと、あとはっきりしないんですが、あたらしい形のシステムというか、意識のもとやりたいと。「世代交代」という言い方をしてましたね。

 今の鳩山、小沢の両氏と、呼び捨てにしながら言ってましたけど、そのやり方ではない民主党を、クリーンな党を見せるんだという言い方をしていました。そのへんは抽象的でわかりにくかったです。田原さんご存じだと思いますが、樽床さんの弁舌は非常に見事なんで、通る声だったんですが、質疑応答の中身となると、不安がよぎる。

 特に沖縄に関しては、合意文書を「踏襲する」という言い方をしながらも、鳩山さんの両院議員総会の昨日の会見の話を、「思いを大切にする」と言ったんです。

田原:思いね。

上杉:ええ、鳩山さんの昨日の会見は事実上「常時駐留なき安保」に戻ってるわけですよね? だからそれも聞いてないのかな。心配だな。

田原:普天間の問題は、樽床さんはどうすると言ってるんですか?

上杉:今言ったように、普天間問題に関しては、鳩山さんが昨日言った思いを大切にすると。あれは、50年先とか言ってましたけど、独立した防衛ですよね、自主防衛というか。

田原:具体的にたとえば、普天間を日米共同声明では辺野古に移すと言いきってるわけですね。ところが沖縄の了解得てないわけだから沖縄には移りませんね。この部分、樽床さんは?

上杉:だから、その部分の認識すらなかったのかなと。最後に、沖縄の地元紙の記者が質問したんですよ。それに対してあいまいな答えだったんですね。だからその記者は繰り返し聞いたんです。でも結局納得できる答えが得られず、そこで会見打ち切りとなったんです。

田原:靴を投げようとしたのは・・・

上杉:ちょうどそのときです。

田原:投げなかったんですね?

上杉:投げなかったです(笑)

田原:なんで投げなかったの?

上杉:今日の靴、ちょっと脱ぎづらくて。

田原:ああそう(笑)。

上杉:それをTwitterでつぶやいたら、「今日はまだ早い、これから勉強して明日変わるかもしれないじゃないか」と。


記者クラブを怒らせた首相のインタビュー

田原:ところで、最近、「週刊ポスト」で書いてますが、なんで「週刊現代」じゃなくて、「週刊ポスト」でばかり書いているの?

上杉:「週刊現代」は今ここにいる瀬尾さん(現・現代ビジネス編集長)がね、私のこと追い出したんですよ。

田原:追い出した? そうなの?

瀬尾:いえいえ。三顧の礼をもって・・・(笑)

田原:三顧の礼を尽くして追い出したんだね(笑)

上杉:加藤晴之さんという当時の週刊現代編集長にも、追い出されて。

田原:なんで?

上杉:私のこと嫌いだからじゃないですか(笑)。

田原:最近はテレビも上杉さん出さないね。

上杉:だめですね。

田原:なんでですか?

上杉:こちらの理由は端的に、明確に自分でも意識してるんです。2年前くらいから記者クラブ問題というのを言いだしたんですよ。当時、地上波でレギュラーいくつか持っていて。

田原:開放しろと。

上杉:ええ、オープンにしろと。別に記者クラブつぶせとは、1回も言ったことない。

田原:でもオープンにするということは、記者クラブをつぶすということですよ。

上杉:そうですか。

田原:うん、彼らは特別の権限だと思ってるんだから。

上杉:たぶん、記者クラブについては田原さんが最も古く戦った。

田原:いやいや。

上杉:宮澤(喜一)さんでしたっけ? 小渕(恵三)さんでしたっけ? 田原さんがサンプロで電話で結んじゃったの。

田原:あれ、小渕さん。正月に、小渕さんに携帯電話したら出ちゃったわけ。「今サンプロの本番中なんですが、正月だから何か国民にあいさつしませんか」と言ったら、あいさつしちゃったの。

上杉:それでだめなんですか?

田原:それでね、大騒ぎになっちゃった。テレビ朝日を記者クラブから追放するということで大騒ぎになった。

上杉:なんの理由で追放するんですか?

田原:記者クラブは、あれは開放じゃなくて、閉じるほうですから。いっぱい閉じる条件があって、例えば総理大臣に聞くのは順番があるんですね。例えばNHKがやる、日本テレビがやる、またNHK。今度TBSで、またNHKがやると。その順番はずして、突然小渕さんが電話に出てくるっていうのは、要するに記者クラブの違反であると。

上杉:え、でも、小渕さんは田原さんの番組に出る、田原さんと話をすると言ったわけですよね? 総理が。なんで総理がいいって言ってるのに。

田原:総理には文句言えないんでしょうね。だからテレビ朝日に文句を言ったんです。

上杉:本末転倒というか。

田原:だからね、記者クラブというのはある意味では、例えば各省に、あるいは官邸に、権利をとったんですね。権利をとったら今度は守ることになっちゃったんですよ。連合と一緒なんですよ。ぼくは連合という組織は、日本で一番悪い存在だと思ってる。なぜかというと、つまり正社員を守るんですよね。

 連合は、正社員を守るために、派遣労働者とか、非正社員とか(しわ寄せが)出てくるわけね。これと同じように、記者クラブも記者クラブの会員だけを守ろうとしてるの。会員以外はいかに排除するかっていうのが記者クラブでしょうね。


記者クラブのアパルトヘイト

上杉:さきほども樽床さんに質問した内容もそうなんですけど、国民の「知る権利」、情報公開の立場から考えたら、世界中で普通にジャーナリズムがやっているのは、ときの権力者、為政者の言葉を国民に伝えるために聞きたい、と。

 これ普通ですよね? 田原さんが小渕さんに話をしてくれと言ったら、結果的に国民は田原さんの番組を通して小渕さんの言葉を知るんだから・・・。

田原:記者クラブの特権を踏みにじったということになるんですよ。

上杉:特権、記者クラブって、だって。

田原:特権階級なんですよ。

上杉:でもめざすところは記者ですよね、記者クラブっていうんだから。

田原:うん、記者。

上杉:だったら国民に情報を提供するという・・・

田原:それは記者クラブに入っている人から国民に提供すると。記者クラブに入ってない田原や上杉は、そんなもん人間じゃないと。

上杉:アパルトヘイトですね。

田原:アパルトヘイト。一種の。だけど、今日の樽床さんへの質問の話、みんなフリーの記者ですね? 新聞記者は質問しないですか?

上杉:一番最初がフジテレビの和田圭さん、2番目が僕で、3番目が朝日新聞だったと思いますね。

田原:なるほど。

上杉:ばーっと手を挙げるんですけど。はっきり言っていつも、フリー化された会見の傾向なんですけど、岡田(克也)外務大臣、亀井(静香)金融大臣、亀井さんはフリーだけにしてますけれど、原口(一博)総務大臣もそうですし、あと小沢(一郎)幹事長のときもそうでしたけど、だいたい手を挙げるのってフリーなんですよ。

田原:なんでですか? どうして新聞記者とかテレビの記者は手を挙げないんですか?

上杉:はっきり言って、質問力がないからですね。

田原:質問力ない人を会見によこしてるわけ? 新聞やテレビは。

上杉:何十年も記者クラブ型の質問をされてきたと思うんですよ。事前に幹事社が集めて、こうしましょう、政局がらみでも。そうすると事前に用意した質問なんですよね。例えば、今日、あるテレビ局が世論調査をしたところ、支持率が十何%に低下しました。どう受け止めますかと質問するんです。それって質問するほうが頭使わないんですよ。

 フリーはなんで何回も質問するかというと、さっき言ったように、チェーンクエスチョンと言って、僕が知る権利、情報公開を質問する、樽床さんの答えが不満足だとなった瞬間に、別に打合せも何もしてないんですけど、不満足だと思ったら、次に田中龍作さんが質問するんです。

 そこでまだ不満足だと思ったら畠山さんが質問するんです。他にも手は挙げてます。

田原:なるほど、連携プレーしてるわけだ。

上杉:そうですね、自然に。


Twitterが怖くて質問できない記者

田原:ところが新聞社やテレビ局は連携プレーをしてない。

上杉:してないどころか、これは傾向として見られたんですけど、例えば「日本テレビです。普天間問題をどう思われますか?」と聞くわけです。カメラ回ると。次、「TBSの誰々です。普天間の問題・・・」って同じ質問するわけですね。

 どうしてかというと夕方のニュースで自分の社のアナウンサーとか記者が質問した絵を使いたいがために、繰り返し聞くんです。

田原:ああ、国民なんてどうでもいいんだ。

上杉:自分の番組のためなんですよ。新聞記者は比較的ないんですけど、質問者を(紙面に)書かないからでしょう。要するにメンツなんですよね。

 それだと、「あ、この人ごまかしたな、じゃあこうやってかぶせてやろう」という訓練がたぶんできなくなる。傾向として、今そういう質問するとTwitterとかUstleamで、記者は晒されてる時代ですから、匿名性の時代と違って攻撃されるんですよ。「この記者はなんてくだらない質問をするんだ」と、ニコニコ動画なんかで。

 そうすると手を挙げなくなっちゃうんですよ。だから、繰り返し繰り返しフリーばっかり当たっちゃうんです。

田原:手挙げないの?

上杉:人数は少ないのに、なぜ多く当たるかというと、みんな挙げてるからです。

田原:新聞記者やテレビの記者は、手を挙げないのに、なんのために来てるんですか? 挙げないってことは何もしゃべんないってことでしょう?

上杉:まあ、前のほうにいる番記者は挙げるんですよ。それは政局的な、先ほど山岡(賢次)さんと会ったけどどうなんですか、とか、国民の生活とあまり関係ない、いわゆる政局の質問をするんです。それ以外は何を質問していいか、わからないのか、基本的に手を挙げないんです。

田原:Twitterなんかが怖いから挙げないと。

上杉:へんな質問できないし、かといって・・・

田原:勉強もしてない?

上杉:勉強もしてないから、難しい。ホントは難しくないんですけどね。普通に疑問に思ったことを聞けばいいだけの話なんです。逆に、そんな単純な質問したら恥ずかしいって思うのかな。そういうわけで質問の度合いが少ないんです。

田原:つまり新聞記者やテレビの記者はだまってるわけ?

上杉:一部ですけど、毎回質問する記者っていうのはかたまっていくんです。ほとんど意味のない、ただ単に観戦しに来てる記者はむしろ記者会見なんて出ないで、入りたいフリーとかネットとか雑誌とか、海外メディアの記者にパスを譲ってくれたらいい。そしたら国民の知る権利からしても、いろんな質問するから・・・。


日本のメディアには質問力がない

田原:僕はね、非常に不思議に思うのは、例えば総理大臣の番記者っていますね? ほとんど新人のような、若手の記者ですね。

上杉:松田喬和さん(毎日新聞)は違いますね。

田原:毎日新聞だけはベテランが来てる。だからね、総理大臣に鋭い質問できないよね。あれはやっぱり、総理大臣に鋭い質問してはいけないと記者クラブで決まってるのかな。

上杉:訓練の場として使うからじゃないですか。でも一国の総理に対して失礼ですよね。海外の、僕は前「ニューヨークタイムス」にいたんですけど、やっぱりホワイトハウスの大統領に質問する記者って、ほんと長年やっていて。

 ヘレン・トーマスじゃないですけど、彼女のように、クリントンがごまかしたら、「ジョン・F・ケネディのころはそんなことは言わなかった」と。そんなことを言える、その蓄積と、知識と、それまでの見識を総動員して彼女は質問しますよね。

 すると、権力側だって緊張感をもって答える。お互いに磨かれて、国民が見て、「うちの国はこういう問題があるのか」と、「この人はこういう政治家だ」と。見て政治教育になって、メディア・リテラシーになって、民主主義が育つ。日本はそれを放棄してきたわけです。

 メディアが質問力があれだけ弱いと、総理を含めて政治家も、質問に対して耐性がない。

田原:いい加減でいいんだ。

上杉:今回のように批判が来ると耐性がないのでもうダメなんです。本当だったら田原さんみたいなベテランジャーナリストが、総理という最高権力者に質問する機会が1週間に1回でも会見であったら、それは総理にとってもプラスなわけですよね。

田原:それはだけどね、やっぱりね、困ると思う。

上杉:総理がですか?

田原:いやいや新聞記者、あるいはテレビの記者たちが。だって何も言えなくなっちゃうじゃない。

上杉:でも、田原さんが質問することのほうが国民からしたらいいじゃないですか。

田原:いや、彼らには国民は関係ないよ。例えばテレビ局の自分の局の記者が質問して答えたのを流すわけでしょ? 僕が質問したのを放送できないじゃない。

上杉:でもけっこう使ってますよね? 例えば小沢さんが、去年の3月3日に、大久保(隆規)さん、公設秘書の逮捕がありましたよね? 4日の会見で、僕も当然ながらオープンになってますから行ったんです。

 そのとき質問したのが、「政治資金管理団体、西松建設の任意団体から入ったときに小沢幹事長は、少なくとも事務所はそれをチェックしなかったんですか?」と。僕も秘書経験があるのですが、普通収支報告書を書くときに名前を書くんですよ、献金先の団体の。書いたときに誰から来たかわかる。

 小沢さんは「善意の献金者についてはノーチェックだ」と言ったんですよ。あ、それ失言だなと思って、仮に外国人や暴力団関係者から献金されたら違法献金ですよねと質問しようとしたら、小沢さんもやっぱりわかっていて、「仮にそれが違法、脱法にあたるんだとしたらお返しします」と言ったんです。

 次の日、新聞朝刊一面全部それでしたね。僕の質問、と書かないけど。

田原:そういうことやるからね、だから上杉さん嫌われるんだわ。

上杉:いえ、いえ(笑)。

田原:なんで上杉の質問なんだと、うちの記者の質問じゃないんだと。彼らは非常に悔しい思いをしながらのっけてるんですよ。


官房機密費はメディア側の問題だ

上杉:ぼくは構造的な問題だと思うんですよ。あれ書いてるの社会部じゃないですか、社会部は法律上の違法性とか、取材もしてるわけですけど、政治部は永田町で政局ばかり取材してる。記者会見には政治部しかいないんですよ。何人かに「なんで社会部いないんですか、今日こそ追い詰めるチャンスじゃないですか」と聞いたんですよ。

 でもいないんですよ。セクショナリズムで部を超えられない。同じ社なのに。政治資金規正法、公職選挙法とか、政治部は基本的に取材してないのでわかんないんですよ。違法性の部分は彼らは知らない。

 その証拠に終わった後に、僕は会見場で8社ぶらさがれたんです。1コ1コ、解説したんです、今の質問を。当時記者クラブも、向こうのほうが嫌ってなかったから。

田原:まだ嫌われてなかった(笑)。

上杉:解説して、なかには地上波(テレビ)で解説しながら結んだんです。それほどわかってなかったんです。それはみんなで情報を共有すればいいんです。いろんな人が入って、いろんな質問をすればそういう結果になって、いいわけですよね?

田原:でもね、今上杉さんは新聞記者を批判してるけど、いいことじゃないですか、上杉さんにとっては質問するチャンスがあって。新聞記者がバンバン質問したら困っちゃうじゃない、出番なくなっちゃって(笑)

上杉:今記者会見で質問できるのは、民主党の会見と岡田外務大臣と、原口総務大臣と、亀井金融大臣だけなんですよ。

田原:あ、そうなんですか? 総理大臣は?

上杉:総理大臣は1年に1,2回しか開かないので。今回も開かなかったですね。官房長官はウソついて1回も開いてない。

田原:ああ、そうですか。開かれた政治じゃないですね。

上杉:だからこそ、今日あえて樽床さんに質問したんですね。民主党の公約なんだから、そろそろ政権交代して10ヵ月経つので約束を守っていただければと。記者会見のオープン化、そして官房機密費ですよ。

 私個人としては官房機密費はあったほうがいいと思ってるんです。ただアメリカみたいに30年したら公開する、50年したら公開するとなったら抑止力になるんですよね。もらうほうも。たとえ100年先でも、これもらったら、100年後に自分の名誉が傷付けられるんだと思ったらもらわない可能性も高くなる。

 そういう意味では、今までのように記録が残らないというようなかたちじゃなくて、正当に国益とか、国民の利益のために使えばいいという感覚なんですけど。

田原:僕はね、機密費については、必要だと思ってるんですよ。それは何かと言うと、情報提供料ですよ。あるいはスパイですよね。そういう情報提供料としてはあるんでしょうね。ところが、政治家が外遊するときの餞別、勉強会、それから新聞記者、あるいは評論家へのお金になってる、これは問題です。

上杉:僕も正直、配る側は問題ないと思うんですよ。秘書だろうが、政党職員だろうが、海外の人間だろうが、記者、メディア関係者だろうが、配る政治側に問題があるんじゃない。受け取るマスコミ人に最大の問題があるんじゃないかとずっと言ってるんです。

田原:そこがね、僕も実際にそういう体験を何度もしてるんですが、ひたすら怖いんですよ。

上杉:怖い? やっと本題に入りました(笑)。


名刺がわりに100万円を出した田中角栄

田原:最初カネを提示されたのは田中角栄さんです。目白へ取材に行った。取材が終わった、すると「ちょっと田原君待ってろ」と。大きな金庫があるんですよ。それを開けて封筒を持ってきて、田中角栄って判が押してあるんですよ。「名刺がわり」だと。

上杉:判っていうのは?

田原:名前の下に押してあるわけ。封筒の中に、中身見なかったからわからないですが、100万円くらいだと思う。厚さから見て。

上杉:当時100万円って言ったらすごいですね。

田原:いや50万円かな(笑)、わかんないけど。たぶん100万だと思うけど。これ名刺代わりだと。「田原さん受け取ってくれ、受け取れ」と。怖いですよ。

上杉:名刺代わりってすごいですね。本人ですか?

田原:本人です、もちろん。ひたすら怖い。当時田中さんは自民党のドンだし、ぜんぶ仕切ってる。これを断ったら自民党、まあ田中派の取材はできない。ケンカになると。当時僕は40そこそこだったと思いますね。どうしようか、断ったらケンカになっちゃう。ケンカになったら取材できない。どうしようかと。

 もちろん受け取るわけにはいかない。悩みまして。時間にしたら5分もないと思いますが。で、非常に悩んでそこは実は受け取ったの。返す度胸なかった。そこで付き返す度胸なかったんですよ、ケンカになりますから。受け取って、すぐそのまま麹町にある田中事務所に行きました。

上杉:砂防会館?

田原:そうです。そこで秘書に、それを返したいと。どんな名目でもいいから、僕は受け取らないと、返しました。「なんでこんなもん返すんだ」と言うからね、「いやいやカネは必要なところには要ると思うけど、僕は必要じゃない」と。「こんなカネを受け取ったら田中さんに変な借りができたような気になって具合悪い、だから返す」と。いろいろ言ったけど受け取ってくれました。

上杉:田原さん、そういう経験、何度かあるんですか?

田原:はい。

上杉:私もかつて鳩山邦夫さんの事務所にいたんです。鳩山邦夫さんは、最初は田中さんの秘書でした。当時同僚の秘書は中村喜四郎さんとかです。憶測でモノを言ってはいけないけれど、田原さんが返したお金を、田中さんに戻ってない可能性もあるますよ。

田原:それはわからないけど。

上杉:だから誤解というか、田原さんの名前がいろいろ出てるわけですよ。実はほんとはもらってないのに、もらったことにされちゃうって話があるんですよ。秘書にしたら、帳尻合わせるためには、もらったことにしちゃえばいい。

田原:それ、あるんですよ。実はある政治家に地元で講演頼まれて行ったんですよ。帰りに秘書がお金を渡すんです。僕は受け取れないよ、と受け取らなかった。受け取らなかったら、その政治家に秘書は言わなきゃいけない。当然、政治家から電話がかかってくると思ってた。「いやあ、ああいうカネ受け取ってくれないの困るよ」とかね。かかってこないんですよ。

 そこで、僕はその政治家に電話しました。「実は悪いけど、この間カネ返したんだけど」と言ったら、「えーっ」と。言ってないわけ。

上杉:要するに抜いたわけですね。

田原:まあね。そのときにね、そういうことがあるんだなと思いました。

上杉:僕も秘書経験あるので、僕はそういうことはやってませんけど、当然ながら。要するに抜く人はいるんですよ。秘書の世界も記者の世界も、健全な人もいれば、不健全な人もいっぱいいるわけですね。


「小僧の使いじゃないんだぜ」

田原:もうひとつ言うとね、中曽根(康弘)さんのときですよ。

上杉:後藤田(正晴)さんですか?

田原:後藤田さんじゃなく、秘書です。秘書の人が僕に持ってきた。たぶん100万だったと思う。それでね「田中角栄さんに返したんだから受け取れないよ」と。田中さんに返したのはとっても便利で、僕にとっては。「田中さんに返したのに中曽根から受け取るわけにいかないよ」と。

上杉:田中角栄さんにすら返した、という。たぶんこの対談を見てる人は、僕ぐらいの世代かそれより下・・・。

田原:あ、わかんない?

上杉:わかんないんですよ。要するに、いまの時代に官房機密費を排除するのは当たり前だと思うんですが、当時は・・・。

田原:当たり前、普通。

上杉:当時は怖いですよね。田原さん、おっしゃるように。やっぱり田中角栄に歯向かった瞬間に、どういうことをされるかわかんない時代なんです。

田原:もうアウトですからね。

上杉:だからこそ、今情報がけっこうあるから、そういうことが抑止力として。極端な話、命狙われたり、そういうことが平気な時代というのは、別に田原さんをフォローするわけじゃないんですけど、ほんとうにそうだったんですよね。

田原:そのときに、「田中さんからも受け取らなかったんで、受け取るわけにいかない」と言ったときに、そしたらね、その秘書さんがね、「小僧の使いじゃないんだぜ」と。

上杉:本末転倒ですね(笑)。

田原:「小僧の使いじゃないんだぜ」と、すごまれて、まずいと思って受け取った。実は、中曽根さんが一番親しい人がいまして、テレビ朝日の専務だった三浦甲子二さんという人。僕は三浦さんのところに持って行って、「三浦さん、悪いけどこれ返してよ」と。すると三浦さんがその場で秘書に電話してくれて、「田原のバカが、カネは要らないからネギくれと言ってる」と。ネギくれなんて言ってないですよ(笑)。


以降 vol.2 へ(近日公開予定)。
(この対談は6月3日に行いました)