菅直人新政権は「政界再編準備内閣」になる


新首相誕生でも参院過半数割れは不可避 (現代ビスネス2010年06月04日) http://bit.ly/cD6Xpm


 本稿執筆段階(3日午後)ですべての立候補者は確定していないが、菅直人副総理兼財務相の当選は確実だ。3日のコラム(鳩山首相が最後に仕掛けた「小沢一郎へのクーデター」)でも触れたので繰り返さないが、要は小沢一郎幹事長にとって菅はもっとも無難な選択という点が鍵を握っている。

 菅代表が決まったとして、次の焦点は組閣人事である。

 その前に亀井静香代表が率いる国民新党が新しい菅民主党とどんな連立合意を結ぶかについても注意を払う必要がある。

 これまでの連立合意は鳩山由紀夫代表と亀井、福島瑞穂社民党党首の間で結ばれたもので、手順としては亀井と菅の間で結び直すのが自然であるからだ。

 亀井は、この再合意手続きを国民新党の存在感を示す絶好のチャンスととらえているだろう。いまや社民党は連立を離脱した。そのおかげで国民新党の重要性は飛躍的に高まった。

 つまり国民新党のお値段は昨年9月の三党連立合意のときよりも、ぐんとつり上げることが可能になったのだ(こう書くと、上品な亀井は気分が良くないだろうが)。

 中でも、郵政民営化の見直しが亀井の悲願である。国民新党にとっては、7月の参院選で郵政票が死活的に重要になる。鳩山政権で縦横無尽にふるまってきた亀井のことだ。新内閣でも重要閣僚で処遇するのは当然として、郵政改革見直し法案の取り扱いを含めて、亀井は菅にかなり大胆な要求をするのではないか。

 菅と亀井は、ゆうちょ銀行の預金限度額引き上げをめぐってテレビで生番組の最中に「言った言わない」の言い争いした過去がある。亀井はここぞとばかり攻め込んで、派手な立ち回りを演じるかもしれない。メディアを意識した得意の「けんか戦術」である。

 だが、そんな話は枝葉末節にすぎない。

 ここでの本題は「菅政権」がどういう性格の政権になるのか、である。

 まず現状をおさえておこう。政局を分析する基本は国会勢力図が出発点になる。

 参議院は定数242(欠員1)に対して、与党の「民主党・新風緑風会・国民新・日本」の会派が122。議長と欠員を除いて、過半数をちょうど1議席上回っている状態である。衆議院は定数480(欠員0)に対して「民主党・無所属クラブ」が310、国民新党が3。与党2党合計で313である。

連立を離脱した社民党は参院が「社会民主党・護憲連合」の会派で5、衆院は「社会民主党・市民連合」で7を数えるが、いまとなっては与党は社民党をあてにできない。

 7月の参院選後も民主党と国民新党の与党(国民新党が連立を離脱しなければ、の話だが)は過半数を維持できるだろうか。私はきわめて難しいと思う。多くの人々が民主党の政権公約(マニフェスト)違反に幻滅し、一枚看板だった脱官僚依存についても期待通りの成果が出なかったことを見抜いてしまった。

 米軍の普天間飛行場移設問題の迷走はひどかったが、その根本的な原因が民主党政権の未熟さにあることを直感的に感じ取っている。表看板の掛け替えで民主党への支持が急回復するとは思えない。

 すると「菅政権」は参院選後、衆院で過半数を維持しているが参院では過半数割れという「ねじれ状態」に直面する。菅内閣が編成する2011年度予算案は衆院を通過すれば、参院で可決されなくても、30日が経過すれば自然成立する(憲法60条)。だが、予算関連法案はそうはいかない。

 参院で可決されなければ、基本的には衆院で3分の2の多数をもって再議決しなければ成立しない。あるいは両院協議会を開いて協議し、与野党が法案を修正したうえ可決しなければならない(憲法59条)。

 予算関連法案の中には通常、税制改正法案や特例公債法案が含まれる。とくに重要なのは特例公債法案だ。いまや赤字国債の発行は避けられないが、財政法で禁じられた赤字国債を発行するには、その年度限りの例外扱いとするために特例公債法案の成立が不可欠なのだ。

 特例公債法案が成立しなければ、予算案が成立しても実際には支出できない。

 ところが、先に見たように衆院の与党議席は合計313にすぎず、3分の2である320にとどかない。つまり菅内閣は参院で過半数割れの事態に直面して法案を成立させられないうえ、衆院でも再議決できないのだ。「真性ねじれ状態」と言ってもいい。

 こうなると残された手はなにか。

 憲法の定めにしたがえば、来年の通常国会で両院協議会を開いて予算関連法案を修正することになる。事実上の予算組み替えである。

 そんなことはあらかじめ分かっているので、現実の政治では参院で過半数を確保するために連立組み替えを目指すか、衆院で3分の2を確保するため野党議員を引き抜くか、その両方か、という選択肢になる。

 つまり菅政権は現実問題として、連立組み替えが避けられない。

 これが基本シナリオである。


連立組み替えか、解散総選挙か

 連立組み替えにはいくつものパターンが考えられる。

たとえば公明党だ。公明党は参院で21、衆院でも21議席をもっている。衆院で考えると、公明党の21が加われば、民主党と国民新党の連立政権は334議席に達して、3分の2を満たす。参院でも公明党の非改選議席である10を加えると、与党が過半数を維持する可能性が高くなる。政策の近さから考えても、公明党は最優先ターゲットになるだろう。

 台風の目になりつつある「みんなの党」はどうか。

 渡辺喜美代表は「我々はアジェンダ(政策課題)政党」と繰り返してきた。ということは政策次第では連立入りする可能性もゼロではない。ただ、現実には民主党政権が公務員制度改革や郵政改革問題でこれまでの路線を大胆に修正するとは思えないので、連立に加わる可能性は少ない。

 平沼武夫の「たちあがれ日本」や舛添要一の「新党改革」など他の新党との連立や無所属議員の一本釣りによって多数を形成する選択肢もある。ただ支持率の動きなどをみるかぎり、そうした選択肢では情勢を大きく打開するには至らないだろう。

 現状の国会勢力図を前提にしない選択肢もある。衆院解散・総選挙である。そうなれば、各党の合従連衡はさらに激しくなるだろう。

 つまり菅政権は連立組み替えから解散・総選挙に至るまで、さまざまなパターンがあるとはいえ、いずれにせよ「政界再編」が避けられない。

 菅内閣は、ひと言で言えば「再編準備内閣」である。

 鳩山内閣は8ヵ月の短命に終わった。菅の再編準備内閣はもっと短くなる可能性がある。

 菅と財務省、小沢の関係を含めて、以上のような分析の基本構図を近著「官邸敗北」(講談社)で詳述した。詳しくはそちらをご一読いただきたい。


長谷川 幸洋 (文中敬称略)