なぜこの時期に秘書逮捕なのか

民主=小沢、自民=二階で痛み分け?


(週刊金曜 2009/3/13)  http://bit.ly/bBSwQr


「なぜ、総選挙が取りざたされているこの時期なのか」。民主党・小沢一郎代表の公設第一秘書逮捕を目の当たりにし、私は疑念が払拭できない。「選挙妨害と指摘される捜査はしない」のが東京地検特捜部の不文律。「国策捜査」との批判が起こるのを承知で、逮捕に踏み切った背景には何があるのか。私は六年前のある事件の際に聞いた検察幹部の言葉に、そのヒントを見いだしている。
 二〇〇三年七月三一日夕方。特捜部長の岩村修二氏(当時)は、記者団に政治資金規正法違反事件を立件する意味を語り始めた。特捜部はこの日、元埼玉県知事の政治資金収支報告書に約一億一六〇〇万円を記載しなかった同法違反で、会計責任者の長女を起訴していた。「収支報告書は企業で言えば決算。報告書をごまかすのは粉飾決算と同じだ」。約二〇畳の特捜部長室に、普段は口数が少ない岩村氏の声が響く。岩村氏は持論を述べ、最後に「規正法違反は形式犯ではない」と信念を見せた。
 直前の同年三月。岩村氏率いる特捜部は、自民党の坂井隆憲衆院議員(当時)を一億六八〇〇万円の同法違反(虚偽記載)で起訴していた。検察内外からは「形式犯でバッジを外させるのか」「これで罪を問えば、国会議員が誰もいなくなってしまう」といった批判が相次いだ。規正法違反の連続立件は、刑法(贈収賄など)での逮捕こそが美学、との主流派の思想と対峙していた。岩村氏の異例の解説は、こうした声への反論でもあった。
 〇八年七月、その岩村氏が東京地検検事正に就任した。私はこのことが、今回の強制捜査につながったと感じている。
 西松建設事件の捜査は二月中旬まで、明らかに終息の様相を見せていた。特捜部には直告一、二班と財政経済班の計三班があるが、捜査にかかわっていたのは一部だけで、体制は同時捜査のキヤノン工事脱税事件より小規模だった。選挙前は政界に切り込まないという原則に従った布陣だった。しかし、二月下旬になって状況が急変する。
 特捜部は、聴取した西松建設関係者から、小沢代表側も政治団体を使った迂回献金の実体を知っていたとの供述を得た。さらに、政治団体を迂回させたのは、規正法で定められた企業献金の上限を超えて寄付するためだったことも明らかになった。
 上層部には強制捜査に反対する声があった。しかし岩村氏は、自民党にも切り込み痛み分けを演出することを示唆し、選挙への影響を最小限にとどめると説明したとみられる。〇三年の七〇〇万円の献金処理の時効が三月三一日に迫っていたこともあり、反対派は押し切られた。
 自民党側のターゲットは二階俊博経済産業相だ。小沢代表と同様、会計責任者を立件してバランスを図る模様だ。小沢代表、二階経産相については聴取の上、「関与は低い」とされる可能性が高い。現段階では贈収賄事件などへの道筋は見えておらず、規正法違反だけで終わることも想定される。そうなった時、岩村氏の信念は国民に理解されるのか。
 ある検察OBは言う。「時代が変わったと言えばそれまでだが、今、政局を混乱させることが国益になるのか。贈収賄に発展しないなら、捜査は特捜部の自己満足だ」と。