参院選の争点は景気回復 巨額バラマキの景気対策が必要なのに

(日刊ゲンダイ2010/6/18)

菅財政は財政再建、消費税増税を掲げ、大マスコミや旧体制勢力の罠にはまってしまっている

◆政権交代の意味を失って、旧自民党政権の小沢路線への回帰かとまで言われ始めた、小沢なき民主党菅政権に失望する選挙民
7月11日の参院選に向けて各党、一斉に走り出している。参院選の争点は、もちろん景気だ。菅内閣で景気が回復するのかどうか。国民生活は良くなるのかどうか。
有権者が50年間つづいた自民党政権にノーを突きつけ、民主党に政権を与えたのも、民主党なら自民党がぶっ壊した日本経済を立て直してくれると期待したからだ。ところが、景気の回復は、怪しくなりはじめている。もともと「経済オンチ」と評判だった菅首相が、景気を悪化させる政策を次々に打ち出したのだ。
きのう(17日)民主党が発表したマニフェストには仰天だ。民主党の目玉政策だった「子ども手当」の満額支給を正式に断念。もっともらしく「財政再建」を掲げ、「消費税増税」を訴えている。
せっかく景気が上向きはじめたのに、ここでケチケチの緊縮財政に逆戻りし、消費税をアップさせたら不況が悪化するのは目に見えている。
「菅首相は『増税しても、使い道を間違わなければ景気はよくなる』と主張しているが、増税が景気にプラスに働くとは思えない。97年、橋本内閣が消費税をアップさせた時も、景気をドン底にたたき落としています」(神奈川大名誉教授・清水嘉治氏=経済学)
日本経済はのるかそるかの瀬戸際にある。わざわざ「消費税増税」を打ち出して景気を冷やすなんて狂気の沙汰だ。
たとえ、消費税アップの実施は数年先でも、増税が控えていると分かれば、国民は将来に備えて財布のヒモを締める。GDPの6割を占める個人消費を冷え込ませ、景気を悪化させるのは明らかだ。


◆菅首相は財務省の代弁者
これから参院選を戦おうというのに、日本経済に打撃を与える政策を掲げるなんて、民主党はなにを考えているのか。
それもこれも、菅首相が財務省に取り込まれたからだ。「経済成長のためには、消費税増税による財政再建が不可欠」という主張は、財務官僚の考え方そのままである。
「財務大臣だった菅首相は、国会で『乗数効果』の意味を問われて答えられないなど、経済に弱いことをさらけ出した。G7財務相会議に出席した時は、各国財務相の専門知識が高いことに驚いたといいます。自分の無知を知り、自信を失った菅首相は、少しずつ財務官僚を頼るようになり、ついに取り込まれてしまった。最後は財務省の代弁者になっていた。財務官僚は景気が良くなろうが、悪くなろうが関係ない。増税で使えるカネが増えればいい。でも、菅首相は財務省にだまされていることにまったく気づいていません」(霞が関関係者)
これまで民主党は「消費税アップ」を否定していたはずだ。必要な財源は、ムダを削減し、一般会計と特別会計を合わせた207兆円の国家予算を見直すことで捻出すると公約していた。なのに、官僚の“聖域”である特別会計に指一本触れないまま、消費税をアップするなんて冗談じゃない。民主党を信じて一票を投じた国民への裏切りだ。

◆財政出動し、デフレから脱却せよ
このまま財務省のシナリオに乗っていたら、日本経済は沈没してしまう。菅内閣がやろうとしていることは、なにからなにまでアベコベだ。
景気を回復させるには、むしろ巨額のバラマキ、財政出動に踏み切るしかない。いつまでたってもデフレ不況から脱出できないのは、30兆円ともされる「需給ギャップ」が埋まらないからだ。民間に力がないのだから、政府がカネを使い、需給ギャップを埋めるしかない。
世界経済を牽引している中国だって、政府が50兆円の財政出動を行っている。
日本に財源がないわけじゃない。菅首相と同じように財務省に洗脳された大マスコミは、二言目には「日本の財政赤字は危機的だ」と声高に叫んでいるが、大嘘もいいところだ。日本の国債の95%は国内で消化されている。しかも、米国債を大量に持つ、世界有数の債権国だ。少なくとも、あと4~5年は赤字国債を大量に発行する体力がある。
デフレ不況から脱出するためにも、いまこそ大胆な景気対策を実行すべきだ。景気が良くなって税収が増えれば、財政再建も可能になるというものだ。
筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)はこう言う。「大手メディアは、民主党が昨年の衆院選で掲げた政策を『バラマキだ』と批判しているが、ピント外れです。たしかに、自民党政権時代の公共事業のように、特定の土建業者だけが潤うバラマキは問題がある。途中でカネが消え、隅々まで届かないからです。しかし、民主党が掲げた『子ども手当』や『高校無償化』は、直接国民に届く。国民の懐が豊かになれば消費が活発になり、景気にもプラスです。なぜ、民主党は子ども手当の満額支給を断念したのか。非常に残念です」
昨年夏の総選挙で「国民生活が第一」と訴えた民主党のキャッチフレーズは、なんだったのか。


◆小沢一郎が去り民主党は変節
なぜ、民主党が政権を奪取できたのか、菅首相はもう一度、冷静に考えるべきだ。
政策の目玉だった「子ども手当」を捨て去り、財務省の口車に乗って「消費税増税」を訴えているようでは、どうしようもない。これでは、自民党政権となにも変わらない。
とうとう、自民党の谷垣禎一総裁に「民主党の政策はわれわれのカーボンコピーのようだ。だんだん、自民党にすり寄ってきた」とバカにされる始末だ。
「国民生活が第一」を掲げた小沢一郎が駆逐されてから、民主党はすっかり変わってしまった。もし、「たった8カ月でマニフェストを変えるべきじゃない」「国民との約束違反になる」と言いつづけていた小沢一郎が実権を握っていたら、歯を食いしばってでも、財務省の抵抗をはねつけ、特別会計に手を突っ込み、財源を捻出していただろう。
新聞の投稿欄には、菅内閣に対して「民主党ならではの理想は一体、どこへ行ってしまったのか」「歴史的な変革を期待したのに、そんな意気込みは全く姿を消してしまった」といった失望の声があふれはじめている。
支持率が「V字回復」した民主党議員は、「消費税を掲げても参院選は勝てる」と楽観しているらしいが、あまり国民を甘く見ない方がいい。