鳩山前首相:小沢前幹事長と意思疎通欠いた

(毎日新聞 2010年6月19日 0時37分)  http://bit.ly/aBbFpp


 戦後初めて、選挙による本格的な政権交代で誕生した鳩山内閣は、わずか9カ月足らずで退陣に至った。鳩山由紀夫前首相に、政権崩壊に至った要因や、小沢一郎前民主党幹事長との関係などを聞いた。

 ◆政権崩壊の要因

 --本格政権と期待されながら短命に終わった最大の要因は。

 いわゆる政治資金問題だ。「クリーンな政治をつくらないと国民の声が聞こえない」と自民党を飛び出し、さきがけ、民主党を作ってきた。その私の身に政治とカネの問題が起きるなんて、予想もしていなかった。党代表を引き受けた直後に起きた問題だから、選挙に勝てば首相になるべき存在であることは分かっていた。すぐに小沢さんとも相談し「ここまできて、私に続いてまた代わるなんてことになったら党がもたんぞ」と、2人でなったわけです。首相指名は大変ありがたい思いで受けたが、代表の時に悩んだことは事実だ。

 ◆小鳩関係

 --小沢さんとツートップの関係は。

 まさに分業体制で、政策は政権側が、党務、選挙に関しては小沢さんに任せますと。基本的には揺らいでいない。ただ、政権運営に対して「本当に大丈夫か」という思いを、幹事長が持った時期はあったかもしれない。例えば米軍普天間飛行場の移設問題も、「任せたよ」という言葉しか発しないが、「本当にそれでうまくいくのかね」という思いを持たれていた可能性はある。週に2、3回でも幹事長が官邸に訪れて、「君、このことはどう考えているんだ」というような会話があってしかるべきだった。本当は幹事長と代表が極秘で会うなんてこと自体がおかしいでしょ。私はオープンで週に何度でも会う関係を作りたかったけど、なかなかそういう形にならなかった。(会談が)極秘という形になるのは、やはり不自然だなと思った。

 --枝野幸男さんを行政刷新担当相に登用したが。

 内閣発足時から(枝野氏を登用するのが)適当ではないかと思ったが、あまりにもそういう布陣を取ると、じゃあ小沢幹事長にはどう映るのかと、私の方から配慮し、しばらくは登用しなかった部分はある。

 ◆菅人事について

 --菅直人首相の人事は、かなり脱小沢と言われている。

 菅さんにとってみれば、自分が一番使いやすく信頼している人たちを登用した。私の場合は全体を眺めながら、配慮しながら布陣を敷いた。菅さんの方が大胆だなと思う。

 --菅さんへのアドバイスは。

 私は「情」の人だが、ぶら下がりで情を発揮すると、いかんのです。質問に対して自分なりの言葉を付け加えると、ぶれたと必ず書かれる。ある意味で冷たく、常に聞かれても同じ答弁を繰り返せば、記事にもならないし安定しているということになる。菅さんはそれができる人だと思う。

 ◆参院選

 --参院選の勝敗ラインは。

 国民の期待感がよみがえってきている状況だから、3年前の選挙でいただいた議席(60)は、果たしていくことができる数字ではないか。選挙に勝てば、菅政権の下で安定政権を進めるべきだという声が当然出てくる。

 ◆北方領土

 --やり残したことで日露関係を挙げていたが、北方領土問題は。

 四島一括返還を言葉どおりに受け止めて、四島を同時に返せと要求すれば永久に戻らない。未来永劫(えいごう)戻らないような交渉ではなくて、四島の主権は主張しながら、柔軟な形の返還方式を提案することが望まれるんじゃないか。6、9、11月と3回、ロシアのメドベージェフ大統領と会談し一歩ずつ進めるという話になって、9月の交渉が一つの大きなチャンスだと思っていた。鳩山一郎の時代は、平和条約を結んだら2島返してやるよ、という話だったが、それでは2島で終わってしまう。それではダメだ。2島になるか、3島になるか、あるいは別のやり方があるか……。2島、あるいは3島が返ってきた時、領海が動くわけだから、ロシアの船の通行の問題をどう解決するかといった実務的なところを、いろいろと水面下で議論してきた。極東の開発などに日本の投資などを進めて「ウインウイン」(共に勝つ関係)を作ることで、ロシアにもメリットがあることを大きく見せていくことも大事だ。いろんな提案でロシアの固い主張を少しずつ動かしていくことができたんじゃないかなあ。

 ◆東アジア共同体・日米関係

 --自ら提案された東アジア共同体構想と、米軍普天間飛行場の移設問題の見通しは。

 米国なしに東アジア共同体も考えられない。最初、米国には誤解があったかもしれないが、今は誤解は解けてきていると思う。普天間は、昨日もルース駐日米大使と電話で話した。日米同盟を重視し身を引いた鳩山に対し、オバマ大統領は非常にありがたく思っていると伝えてくれた。ありがたいことだ。

 ◆消費税

 --菅首相が消費税率の10%への引き上げに言及した。

 実際に上げるか上げないかという判断は、総選挙の争点として議論され、国民がよしと判断したら上げるべきだ。何%にするかも含めて国民に信を問うべきだ。