今更「自民に投票」は時代おくれだ

(日刊ゲンダイ2010/6/29)

自民1人区優勢という暗い事実

7月11日の投票日まで2週間。参院選の行方はまったく分からなくなってきた。勝敗を決する「1人区」が、予想外の展開になっているからだ。当初、29ある1人区は、民主党と自民党は互角とみられていた。ところが、自民党が圧勝する可能性が出てきたからだ。
民主党と自民党の支持率は、読売新聞によると37%と17%。民主党に対する国民の期待は高く、自民党の倍以上。支持率を反映して、比例区は民主20議席前後、自民12議席前後と予測されている。ところが、1人区だけはまったく違う情勢になっているのだ。
民主党は香川と沖縄を除く27の選挙区に公認候補を立てている。現時点で民主党が優勢なのは岩手、山梨、滋賀などわずか5つ。対する自民党は群馬、富山、石川など9つの選挙区を固めている。残る13選挙区で激しく争っているが、民主党がリードしているのは、そのうち三重や徳島など5つしかない。このままでは最悪、民主党は1人区で10議席しか取れそうにない。
「民主党は、比例区は過去最高の20議席前後、18ある複数区も心配された共倒れもなく18以上と順調に議席を伸ばしそうです。しかし、1人区は伸び悩んでいる。半分とれるかどうか。もし1人区で10勝17敗などと大敗すれば、どんなに比例を伸ばしても、トータルで50議席程度に落ち込んでしまいます」(政治ジャーナリスト・鎌倉三次氏)

◇自民の厚い地盤を切り崩せない
民主党が苦戦を強いられている1人区は、もともと自民党の牙城だった地域だ。3年前の参院選は、選挙のプロである小沢一郎が先頭に立って戦ったことで23勝6敗と圧勝したが、すっかり昔に戻ってしまっている。
「地方である1人区は、いまだに自民党が議会で圧倒的多数を握っている地域が大半です。民主党はまともに組織もつくれない。
小沢一郎が『川上作戦』と称して、山間部を回り、こまめに票固めをしたのも、自民党の厚い地盤を少しでも崩そうとしたからです。3年前の参院選や昨年夏の衆院選は、そんな保守的な有権者が『これ以上、自民党には任せられない』『一度、民主党にやらせてみよう』と立ち上がり、民主党を勝たせ、政権交代を実現させた。しかし、もともと地縁、血縁が強い地域だけに、義理人情にほだされたのか、今回は自民党に一票入れようか、という空気が広がっている。民主党が思わぬ苦戦を強いられているのは、そのためです」(政治評論家・山口朝雄氏)
小沢一郎が第一線を離れたことも響いている。小沢に代わって実権を握った枝野幹事長が、小沢流の「川上作戦」を否定し、浮動票を稼ごうと都市部ばかりテコ入れしているためだ。ますます地方の有権者が離れているという。
このままでは、民主党が単独過半数の60議席を得るなど夢のまた夢。菅首相が勝敗ラインに掲げた改選議席の54も難しい状況だ。

◇死んだはずのゾンビが息を吹き返す
しかし、1人区の有権者は、いまさら自民党に一票を投じてどうするのか。時代遅れもいいところだ。自民党が1人区で圧勝し、民主党が参院で過半数を失えば、死んだはずの自民党は息を吹き返す。この国と国民生活をぶっ壊した自民党を復活させるなんて狂気の沙汰だ。
戦後50年、自民党政権がつづいたことで、この国はどうなったか。世界第2位の経済大国だというのに、多くの国民が失業に怯え、老後を心配し、豊かさを実感できないでいる。年間3万人が自殺する先進国は日本くらいのものだ。
借金が800兆円という天文学的な数字まで膨らんだのも、自民党が自分たちの利権を拡大するために日本中にムダな公共事業をバラまいたからだ。この狭い国土に空港が90もあるのが象徴である。地元に空港やダムを造るたびに、息のかかった土建業者が潤い、自民党議員は見返りとして「票」と「カネ」を受け取ってきた。国民の税金は食いモノにされてきた。もし、800兆円という巨額のカネが国民のために直接使われていたら、どれほど暮らしが良くなっていたことか。
50年間「政・官・財」で癒着してきた自民党の体質は簡単には変わらない。義理や人情にだまされ、自民党を復活させたら、また税金を私物化されるだけだ。


◇有権者は古い政治に決別せよ!
有権者は、もう一度、政権交代の意味を考えるべきだ。なぜ、昨年夏の総選挙で民主党に一票を入れたのか。自民党に任せていたら生活は良くならないと痛感したからではないのか。新しい政治を期待したのだろう。
なのに、ここで「自民支持」に回帰したら、なんのために政権交代を実現させたのか分からなくなる。
この夏の参院選は、政権交代を完成させる総仕上げのようなものだ。衆、参ともに民主党に過半数を与え、政権を安定させることで、やっと「国民生活が第一」の政治が動き出す。
「国政では民主党が政権を取っているのに、地方議会は自民党が握っているように、日本の政治は『新しい勢力』と『古い勢力』がせめぎ合いをしている状況です。とくに、1人区はしがらみもあり、旧勢力が生き残っている。ちょうど江戸幕府から明治政府に時代が転換した頃のようなもの。神風連の乱、秋月の乱、萩の乱……と、まだまだ、地方の反乱が収まらない。しかし、政権交代を完全なものにするためには、旧勢力は一掃した方がいい。古い勢力が生き残ったままでは、官僚や財界が自民党の復権を考えて半身になるなど、新しい政治が前に進まないからです。
昨年の政権交代をどう考えるのか、有権者は賢い判断を下すべきです」(九大名誉教授・斎藤文男氏=憲法)
有権者が古い政治と決別し、自民党にトドメを刺せば、日本の政治は大きく動き出すだろう。逆に民主党が参院で過半数を失えば、「国民生活が第一」の政治は10カ月で頓挫してしまう。7月11日の参院選は重大な意味を持つと考えるべきだ。