お粗末すぎる 増税論議  ドクターZは知っている


(現代ビジネス 2010年07月06日)  http://bit.ly/aXA2XD

 昨年の政権交代直後は、菅氏も消費税増税は4年間行わないという民主党の方針に賛成だったはずだ。それが今年、財務相に就任するや、様変わり。鳩山総理(当時)に、「来年からでも消費税を上げるべきだ。そのほうが選挙も勝てるし、景気も良くなる」と進言していたという。

 この豹変の背後には、財務省の執拗な洗脳とともに、一人の学者の存在があるという。その人の名は、小野善康大阪大教授。菅総理と同じ東工大卒で、10年来の知り合いだ。菅総理が銀座の行きつけの飲み屋で小野教授を絶賛しているという話は有名で、財務省内でもしばしば「小野理論」を説いているという。2月26日付で内閣府参与にも就任している。

 その「小野理論」というのが、「増税すれば景気が良くなる」というもの。先週号の「特別版」でも説明したが、これは官僚が全知全能であるという前提条件の下でのみ成り立つ理論で、大学院生などがロジックの練習をするときに使う題材だ。

 賢い官僚が愚かな国民からカネを巻き上げ、賢く運用するから景気が良くなるという論理で、官僚が全知全能であるという前提が荒唐無稽だから、導かれる結果も、必然的に非現実的なものになる。

 菅総理と小野教授をともによく知る人によれば、小野教授は論理より弁が立ちすぎるタイプで、菅総理はちょっと際どい能弁家が大好きらしい。困ったものだ。

 この小野理論は、消費税増税を目論む財務省にとって本当に都合がいい。結論が素晴らしいし、何より官僚は国民より優秀という前提が彼らの自尊心を満足させる。もちろん菅総理に対しては、政治主導で立派なご判断です、とお世辞も忘れない。

 かくして増税洗脳作戦は功を奏し、菅総理は財務省の掌の上で踊り、予定通りに増税プランを参院選挙の公約に打ち出してくれた。財務省にとって菅総理は使い捨ての駒だから、選挙に負けて退陣しても、また次の総理で再チャレンジすればいいと考えている。

 自民党も情けない。総裁は、財務相時代に強烈な洗脳を受け、消費税増税を言いさえすれば、逃げない責任感ある政治家だと錯覚している谷垣禎一氏。

 谷垣総裁は内閣不信任案提出時期を誤り、鳩山・小沢ダブル辞任を許して、菅政権に塩を送るという大失態を犯した。しかもそれに懲りずに、消費税10%を選挙公約に盛り込んで、菅総理にまんまと利用されてしまった。

 谷垣総裁はまだ財務省の洗脳から目が覚めていない。自民党のマニフェストには名目4%成長と書かれているが、その場合、自然増収で財政再建ができるから、増税の必要はまるでないのだ。

 財務相の時に小泉純一郎総理から、「埋蔵金発掘や歳出削減を徹底的に行い、国民から『あとは増税でお願いします』という声が出てくるまで増税などダメだ」と怒られたことをすっかり忘れている。埋蔵金はもうないという財務官僚の言い分を信じて、そのたびに「またありました」と恥をかかされたことも、遠い記憶の彼方だ。

 民主も自民も、増税議論のレベルが低すぎる。