東京第一検察審査会の小沢一郎「不起訴不当」議決についての感想

(上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場 2010年07月16日12:43 )  http://bit.ly/dpCgpB


(1)小沢一郎民主党前幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる政治資金規正法違反事件で、2007年分の政治資金収支報告書への虚偽記入容疑に関して、東京地検特捜部は、今年2月上旬に、小沢氏を不起訴処分にしていた。


(2)これについては、告発人が検察審査会に審査申立てをしていたようで、東京第一検察審査会は、昨日(7月15日)「不起訴不当」の議決をした。

私はマスコミ3社から電話取材を受けた。


2010/07/15 19:09 【共同通信】
東京第1検察審査会の議決要旨 
 小沢一郎民主党前幹事長が代表の資金管理団体「陸山会」の2007年分の収支報告書をめぐる虚偽記入事件で、小沢氏を「不起訴不当」とした東京第1検察審査会の議決の要旨は次の通り。

 【判断】
 陸山会会計責任者の元公設秘書大久保隆規被告は、報告書への具体的な記載は元私設秘書の衆院議員石川知裕被告、元私設秘書池田光智被告らが行い、小沢氏の関与や認識の有無は自分には分からないと供述。虚偽記載が発覚すれば小沢氏の政治生命が絶たれることもあり得、秘書らが勝手に処理したとは考えられず、信用できない。
 石川被告は04年分報告書の不記載を小沢氏に報告して了承を得たと述べ、供述の信用性は高い。検察官は党代表選の時期が土地の資産計上を繰り延べた理由にはならないとして、動機に関する石川被告の供述に疑念を呈するが、(小沢氏が陸山会に貸し付けた)4億円の原資を隠そうと考え、表に出ることを少しでも遅くしようと考えるのは不自然でない。
 検察官は小沢氏がどこまで石川被告の説明を理解していたか定かではないと述べるが、上下関係を考えれば、小沢氏が理解していることを確かめながら報告して了承を求めるはず。小沢氏の返答もそれが前提と考えられる。池田被告も4億円の不記載を報告、小沢氏が了解したと供述。石川被告と立場は全く同じだ。
 小沢氏は報告書提出前に、石川、池田両被告から原案の説明を受けたことを否定するが、両被告が「小沢先生の決裁を得た」と言う以上、池田被告らがある程度詳しく内容を説明していることが十分推認できる。
 銀行からの4億円借り入れの際に、小沢氏は融資申込書や約束手形に自ら署名している。年間450万円の金利負担を伴う合理性のない借り入れの目的は、石川被告供述のように原資隠ぺい以外にあり得ない。何の説明も受けることなく求められるままに署名したというのも不自然。あえて経済的合理性を欠く行為を行っている点で、小沢氏も同じ動機を共有した根拠にはなり得る。
 水谷建設が小沢氏事務所に資金提供をしたとの同社関係者の供述は具体的で、本人しか知り得ない事情も含まれ、信ぴょう性はかなり高い。一見すると虚偽記載とは結び付かないが、4億円の原資を隠ぺいする必要性があったことの根拠に十分なり得る。小沢氏が動機を共有している裏付けになる事情だ。
 小沢氏は07年2月、土地購入を記者会見で釈明し、5月には現金で4億円の返済を受けた。事務所費についてマスコミが取り上げて釈明の記者会見が行われた直後のタイミングで、事務所費とほぼ近い4億円の処理に、無関心でいられるとは考えられない。報告書の記載内容に重大な関心を抱かざるを得ないことを示し、「秘書に任せていた」との弁解が一層不自然になることは明らかだ。

 【結論】
 検察官が嫌疑不十分の理由として挙げるのは、上下関係からみて秘書が独断でなし得ると考えられない事柄や、小沢氏の置かれた客観的状況と整合しない無関心を示す事柄。このまま不問に付せば「秘書に任せていた」と言えば済むのかという不満が残り、司法手続きへの信頼を損なう。

(1)水谷建設からの資金提供について、否認する石川被告の取り調べを含むさらなる追及

(2)小沢氏らから行動を記録しているはずの手帳やメモの提出を求め、事実関係の裏付けを取る

(3)わずか3回だけで調書の内容も追及不足との印象を免れない小沢氏にあらためて詳細な取り調べを行う―の各点の再検討、再捜査を経ない限り、不起訴処分の支持は到底不可能だ。

 【付言】
 審査でつくづく感じたのは、政治資金規正法は政治家に都合のよい、抜け道が多くあるということ。「公開された内容を知らなかった」などと言って責任を免れることを許さない制度を構築すべきだ。例えば報告書提出の際、宣誓書に代表者の署名、押印を必要的記載事項とする規定への改正だ。そうすれば本件のような共謀の有無が問題となる事案は少なくなるはずだ。本件の再検討、再捜査が行われて公開の場で事実関係が論じられることが同法をより実効的なものに発展させていく一助になると確信する。
(共同通信社の無料のインターネット版では、私のコメントを紹介した記事は配信されていないが、電話取材を受け、コメントした。)



(東京新聞)2010年7月16日 07時13分
『小沢氏の不起訴不当』 07年虚偽記入容疑

 小沢一郎民主党前幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる政治資金規正法違反事件で、二〇〇七年分の政治資金収支報告書への虚偽記入容疑に関して小沢氏を不起訴とした東京地検特捜部の処分について、東京第一検察審査会は十五日、再捜査を求める「不起訴不当」の議決を公表した。特捜部はあらためて刑事処分を決める。
 議決は参院選投開票前の八日付で、「秘書が独断でなしうるとは考えられない。不問に付せば司法手続きへの信頼を損なう」と指摘し、小沢氏らの再聴取を求めた。
 小沢氏は〇四、〇五年分の同容疑と、〇七年分に分けて告発されていた。特捜部もそれぞれで小沢氏を嫌疑不十分で不起訴と処分。申し立てを受けて〇四、〇五年分を審査した東京第五検察審査会は四月に「起訴相当」と議決しており、二つの審査会で判断が分かれた。
 特捜部は〇四、〇五年分について再捜査の結果、既に二度の不起訴処分としている。第五検察審査会は二回目の審査手続きに入っており、再び起訴相当と議決されると強制起訴されるが、〇七年分については議決が不起訴不当にとどまったため、特捜部が再び不起訴としても再審査は行われない。
 告発容疑は、陸山会が〇四年十月、小沢氏から借りた四億円で東京都世田谷区の土地を購入した際、〇五年に購入したように収支報告書に記入。〇七年五月に返済した借入金四億円を収支報告書に記入しなかったなどとされる。
 今回の議決は、〇四年の虚偽記入について小沢氏に報告して了承を得た、とする元秘書の衆院議員石川知裕被告(37)の供述について「信用性は相当高い」と指摘。〇七年に「小沢先生に返済した四億円は収支報告書に載せません」と報告し、小沢氏が「分かった」と答えた、とする元秘書池田光智被告(32)の供述も明らかにした。
 小沢事務所に資金提供したという水谷建設関係者の供述も「信ぴょう性はかなり高い。原資を隠ぺいする必要があった根拠になりうる」と指摘した。
 その上で、小沢氏や石川被告の再聴取を求め、「再捜査を経ない限り不起訴処分は支持できない」と結論付けた。


東京新聞の記者の取材に答えた私のコメント

 四月末の東京第五検察審査会の「起訴相当」議決の理由づけは感情的で理性に欠け、事実認定も極めて荒っぽかった。小沢一郎氏を共謀共同正犯に問えるとして援用された判例も、おそらく暴力団組長と組員の関係のものであり、国会議員には使えそうにないものだったと思われる。
 それに比べて、東京第一検察審査会の「不起訴不当」議決は、被疑事実が少し異なるものの、結論だけではなく理由付けも、冷静な市民感覚が現れている。証拠関係の検討も比較的丁寧で、一般市民であれば当然抱く疑問や指摘もされている。
 すでに検察の捜査は尽くされた感が否めないが、議決が具体的に捜査内容を指摘して「再捜査」を求めている以上、東京地検は厳正な捜査を行うべきだ。
 議決は政治資金規正法の目的を的確に理解し、欠陥も正確に認識して、政治団体の代表者(政治家)の法的責任を追及しやすくなるような法改正を求めている点も画期的で、高く評価できる。国会議員・政党は真摯に応え、抜本改正すべきだ。


毎日新聞 2010年7月16日 東京朝刊
陸山会事件:小沢氏「不起訴不当」 「厳正な再捜査を」 識者指摘、検察側は慎重発言

 「市民」は再び、小沢一郎・民主党前幹事長を不起訴とした検察の捜査に疑問を投げ掛けた。陸山会の政治資金規正法違反事件で、東京第1検察審査会が15日公表した「不起訴不当」議決は、小沢氏について「更なる追及が必要」と指摘した。検察側は議決を冷静に受け止め、結論は変えない見通しだが、有識者からは議決を評価する声が出た。
 東京地検の大鶴基成次席検事は同日、毎週木曜日の定例会見の場で「議決の内容を十分に検討し適切に対処したい」とするコメントを発表した。再捜査については「まだ捜査を行う必要があるか検討する」と慎重な発言に終始した。
 東京地検特捜部は小沢氏を過去3回聴取している。第1審査会は「秘書に任せていた」との小沢氏の供述に関し、「元秘書が独断ではできない」と捜査の不十分さを指摘したが、検察当局には「物証もなく、これ以上追及しても新しい話は出ない」との見方が強い。
 ある検察幹部は「議決の指摘を尊重し、批判に耐えうる捜査をする」と話したが、別の幹部は「既に3回も聴取をしており、今の調書で審査会の指摘に答えられないか考えるべきだ」と語る。
 一方、元特捜検事の高井康行弁護士は「(4月に『起訴相当』とした)第5審査会の議決書と比べ、証拠と論理に従って再捜査すべき内容を明示している点は評価したい」と話す。上脇博之・神戸学院大大学院教授(憲法学)は「市民感覚に基づき丁寧に判断している。捜査は尽くされている感もあるが、検察は指摘を真摯(しんし)に受け止め、厳正な再捜査をする必要がある」と語った。【三木幸治、山本将克】

 ◇審査員4人以上が「起訴相当」不賛成
 第1審査会はA4判6枚の議決要旨を公表したが、関係者によると、実際の議決書は十数枚あったという。
 審査会事務局によると、第1審査会は男性4人、女性7人で構成され、平均年齢49・81歳。4月に全員一致で起訴相当と議決した第5審査会は男性7人、女性4人で、同34・27歳。不起訴不当は11人中6人以上の賛成で議決されるが、起訴相当は8人以上の賛成が必要で、今回は4人以上が起訴相当に賛成しなかったことになる。



(3)小沢一郎民主党前幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる政治資金規正法違反事件のうち、2004年分と2005年分の政治資金収支報告書への虚偽記入容疑に関する東京第5検察審査会の「起訴相当」議決に対しては、私は、余りにも感情的なもんだったので辛口のコメントをしておいた。
その議決で援用されている判例も、暴力団組長のものであるのではないか、と批判しておいた。

これに比べ、この度の東京第1検察審査会の「起訴相当」議決は、その理由付けにおいても冷静な市民感覚に基づいていると思われ、結論を含め評価できる。
同審査会は小沢氏を有罪にするには証拠が足りないと判断したのだろう。

このような大きな違いが出たのは、補助審査員(弁護士)の補助のあり方の違いが影響したようにも思えるが、私は、残念ながら、それを断定する情報をもっていない。


(4)捜査は十分尽くされているようにも思うが、審査会が捜査内容まで指し示して再捜査を求めている以上、東京地検特捜部は、厳正な捜査をすべきだろう。、


(5)東京第一審査会が、現行の政治資金規正法の欠陥を指摘して、法律改正の必要性も付記している。
鳩山由紀夫氏の事件でも同様の付記がなされていた。

現与党の民主党や国民新党は言うまでもなく、欠陥を放置してきた前与党の自民党や公明党も、この付記を尊重し、政治資金規正法の抜本的改正を実現すべきである。


(6)2004年分と2005年分については、今月中に、東京第5検察審査会が2度目の議決をするのではないかと予想されていたが、8月以降にずれ込んだようだ。

1回目の「起訴相当」議決については、マスコミが審査会の全員一致であったと報じられたため、新しい審査員に予断を与えてしまっていたので、今月中に議決がなされることについては危惧の念を抱いていた。
しかし、議決が8月以降にずれ込んだとなると、東京第5検察審査会の審査員は、1回目の委員とは全員異なることになる。
また、今回、東京第一検察審査会が「起訴相当」ではなく「不起訴不当」と議決したことで、8月以降の東京第5検察審査会は、予断を排除して審査に臨める環境ができたことになる。


(7)小沢一郎氏は、国会議員である以上、刑事(法的)責任の有無とは別に、当然、事件つき政治的責任があるし、主権者国民に対し説明する責任がある。
この責任は今でもなくなっていない。
これまで国会外で十分説明してこなかったし、非常識なコメントをしていた以上、主権者国民の政治不信を払拭し信頼を回復するために、国会で説明しなければならない。