絶望となった景気の回復 「国民生活が第一」は大嘘だった

(日刊ゲンダイ2010/7/22)

経済オンチの菅内閣が来年もまた緊縮財政予算方針という亡命政治

ヨーロッパ危機、アメリカの景気後退のいま必要なのは国による巨額な財政出動というのに貧乏神のような経済無策政権によって深刻な大不況はこれからずっと続きそう
いったい菅首相は、いつになったら目を覚ますのか。副総理時代は国会で居眠りし、野党に突き上げられていたが、総理になってもうつらうつらでは困りもの。早く顔を洗ってシャキッとしてもらいたい。
それができないなら、一日も早く首相を辞めるべきである。
民主党は「国民の生活が第一」を掲げて政権を奪取した。ところが菅首相は、国民の暮らしと真摯に向き合おうとせず、盛んに財務省の意見を取り入れている。民意なんて二の次三の次。かつて「成績が良かっただけの大バカだ」とさげすんだはずの霞が関の連中に、いいように使われている格好だ。
20日に明らかになった概算要求基準の骨子からも、財務省に踊らされている菅首相の姿が透けて見える。菅首相は、国債費を除いた来年度予算の歳出を今年度と同レベルの71兆円以下とする方針だ。1・3兆円といわれる社会保障費の自然増分は、各省庁の予算を一律1割程度削減して穴埋めする考えという。これで寝ぼけていないのなら深刻だ。
大マスコミは、「歳出71兆円イバラの道」(読売新聞21日付)、「歳出抑制の道筋見えぬ」(毎日新聞21日付)などと、予算が削れるかどうかを心配している。右を向いても左を向いても、財務省に毒された連中ばかりだが、まともな国民はダマされてはダメだ。このタイミングで緊縮予算なら、国家財政の前に日本経済がメタメタになる。国民の暮らしはパンクだ。

◇「71兆円」の歳出枠にとらわれるナンセンス

明大教授の高木勝氏(現代経済)が言う。
「景気の現状とこれからを考えれば、大した意味を持たない71兆円という数字にとらわれるのはナンセンス。ムダの削減は当然としても、使うべきところに使わなければ、景気を見殺しにすることになります。日本では、いまだにデフレが経済の足を引っ張り、株価は年初来安値に迫るほど低迷している。そのくせ為替相場では、円がドルに対してもユーロに対しても上昇しているから、輸出産業は四苦八苦です。中でも自動車や家電は、エコポイントなどの政策効果も切れるため、急ブレーキがかかるでしょう。それでも海外で需要があればいいのですが、欧州は危機的状況で、米国経済も再び下降線をたどり始めているからアテにならない。そんなときに国まで財布の紐を締めれば、景気はガタガタです」
菅首相の伸子夫人は「あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの」というタイトルの本を出したそうだが、残念ながら夫がもたらしたのは悪い変化だけだ。政権は参院で過半数を失い、政治主導の旗印だった国家戦略局の構想は頓挫した。揚げ句に財務省が復権である。
国民新党の亀井静香代表はきのう(21日)、「景気をちゃんとして経済を成長させていくことが先決だ。それにふさわしい予算編成をすべきだ」と積極財政の必要性を主張した。こんな真っ当な意見が、閣内はもちろん党内からも聞こえてこないとは情けない。

◇財務省よ御用学者、大マスコミが脅す財政危機

だいたい、日本の財政危機なんて財務省と御用学者、彼らに洗脳されたマスコミが煽っているだけである。国の長期債務残高が862兆円というのは間違いないが、国は資産も持っている。「差し引きすれば債務は200兆~300兆円」(証券エコノミスト)というのが通り相場だ。“巨額債務で国家が潰れる”“日本もギリシャになる”というのは、下品な脅し文句に過ぎない。
「日本の財政が危ないというのは大ウソです。危機だピンチだと騒いでいるのは日本だけ。国際的には何も心配されていません。実際にG7で日本の財政が懸念材料として本気で取り上げられたことなど一度もないのです」(エコノミスト・菊池英博氏)

それでも菅首相は財政再建論者の言い分をうのみにして歳出削減に走り出している。これでは貧乏神のような“経済無策政権”になるのもムリはない。
エコノミストの紺谷典子氏が言う。
「菅首相は財政悪化の原因を分析し、まともな経済政策を打ち出すべきです。政府の予算編成が厳しくなっている元凶は税収不足にあります。かつては60兆円あった税収が、いまや37兆円。この惨状をどうにかして変えなければ、財政は再建できません。家庭でも、お父さんの稼ぎが減っているのなら、どうやって世帯全体の収入を増やすかを考えるはず。それをやらずに、もっぱら医療費や食費といった必要な経費を削る家はありません。いま必要な政策は景気対策と成長戦略です。それによって企業が儲かり、所得も増えれば、消費が活発になり、税収も回復する。その結果、財政は健全化していくのです。財政再建の前に経済再建、経済再建の前に生活再建です。国民を困らせることばかりやろうとしている菅首相は、ピントが大きくずれています」

◇小沢辞任なければ民主政権への期待は続いた

菅首相が「71兆円枠」に固執すれば、民主党の目玉公約が犠牲になる。71兆円から、満額支給される社会保障費と地方交付税を除くと26兆円しかない。その上、公務員の人件費など義務的経費13兆円も動かせないとなると、残りは13兆円程度。このうち、成長分野の重点投資にも1兆円近くを割り当てようとしているから、子ども手当、高速道路の無料化、農家の戸別所得補償制度の拡充といった「国民の生活が第一」の政策が実現される可能性はなくなってしまうのだ。
「子ども手当は現行の月額1万3000円すら減額になる恐れもあります。これでは何のための政権交代だったのか、となりますよ。民主党の理念や政策に共感して票を投じた国民はガックリでしょう」(高木勝氏=前出)
やっぱり菅首相では力不足だ。このまま舵取りを任せていれば、景気は低迷し、暮らしはボロボロになる。大マスコミと一緒になって小沢前幹事長を辞任に追い込んだ国民は、財務省の暴走を抑える切り札も、公約実現を推進する政治力も失った。
民主党政権への希望や期待は自分たちで放棄したのだ。大不況に苦しめられるのも自業自得である。