「成長戦略」と「景気対策」が日本をダメにする

(日刊ゲンダイ2010/7/27)


政府はきょう(27日)、来年度予算の概算要求基準案を閣議決定する。目玉は成長戦略向けの「特別枠」だ。1兆円超の血税を成長戦略につぎ込むという。
これで暮らしへの不安が解消されるのなら大歓迎だが、専門筋の評価は違う。乏しい財源が、またドブに捨てられると危惧されているのだ。「1995年以降、日本の成長は止まっているのです。それでも経済成長を目指す政策を続ければ、かえって国民生活は低下して財政は悪化する。老人が霜降りステーキを食べても、いまさら筋肉がついたり身長が伸びたりするわけではありません。胃もたれやコレステロール値の上昇といった副作用の方が気になります。政治家はキャッチフレーズのように成長を掲げますが、暮らしを豊かにする答えはそこにありません」
こう言うのは、「成熟日本への進路」(筑摩書房)の著者で経営コンサルタントの波頭亮(写真)氏だ。戦略系コンサルティングの第一人者で、明快で斬新なビジョンを提起するソシオエコノミストとしても活躍している。与野党問わず政治家にもファンは多い。
波頭氏が言う。
「1人当たりGDPを見ると、日本の現状が分かります。95年まで日本は世界のトップクラスでした。そこからは下降の一途。米国、ドイツ、フランス、英国といった日本に比肩しうる国々は1・5倍から2倍に増やしたものの、日本は実質でも1%程度しか伸びていません。ドルベースでの絶対額では約1割も低下しています。経済学の基本的な方程式では、経済成長率は労働力と資本ストック(貯蓄率)と技術水準の改善度合いで決まるとされています。日本は人口が急激に減り、貯蓄率は2~3%と先進国中最低レベル。技術の改善といっても、例えば90年代の米国経済におけるIT技術の寄与度は0・1%程度でした。テクノロジーでは追いつかない。日本の成長は理論的に不可能なのです」それでも政治は、成長戦略という名の景気対策で大盤振る舞いをする。“老人に霜降り”だ。

◆失業者に直接カネを渡すのが合理的
「景気対策といえば土木建設系の公共事業になりますが、東名の横に第2東名をつくったり、輸送ニーズがない僻地に高速をつくったりしても、産業効率は改善されません。95年以降、緊急経済対策として226兆円ものカネが投下されましたが、景気は良くなっていません。ムダなところに投資して、なけなしの財源を浪費したのです。雇用対策が必要というのなら、直接、失業者にカネを渡す方が合理的。鉄鋼やセメントなど余計なものに使わなくて済むので、税金を節約できます」
政権交代しても政策が同じでは、国民はやりきれない。