菅政権「予算編成」の命運を握るのは公明党か、それとも財務省か


5兆円の歳入不足は必至 長谷川幸洋「ニュースの深層」

(現代ビジネス 2010年07月30日)  http://bit.ly/ba9mwV

 菅直人内閣が2011年度予算の概算要求基準を決めた。

 自民党政権時代の名残りを嫌ったのか、今回の基準はわざわざ「概算要求組み替え基準」と名前を変えたうえ「~総予算の組み替えで元気な日本を復活させる~」と副題まで付けた。

 重要とはいえ、あくまで予算編成の手続きを決めた政府部内の文書にすぎないのに、副題を添えるのは異例だ。それだけ国民の目を意識している表れだろう。

 だが肝心の中身を見ると、財務省主導が色濃くにじんでいる。

 そもそも概算要求基準を決める前から、財務省はしっかり予算編成の外堀を埋めていた。

 参院選前の6月22日に菅政権は国債費を除く歳出の大枠を約71兆円以下、国債発行額を約44兆円以下に抑える方針を閣議決定しているのだ。

 実は、これで8割方が決まったようなものだった。

 歳出の大枠と国債発行額を決めれば、税収は操作の余地があまりないので、残るは埋蔵金など税外収入をどれだけかき集めるかで予算の骨格が固まってしまう。

 埋蔵金の活用は事実上、財務省の胸先三寸にかかる。つまり、予算編成は最初から財務省の手のひらに乗ったも同然だった。

 今回の概算要求基準はこの閣議決定を踏襲したうえで、各省の要求額は10年度予算比1割減とし、その削減分を財源にして、1兆円を相当程度超える額の特別枠創設を決めたにすぎない。

 特別枠は民主党が求めた2兆円から圧縮したが、1割減の要求額は財務省がつくった原案そのままだ。民主党が本来、もっとも重視すべき「組み替え」については、冒頭のような表題に掲げただけで事実上、なにも決まっていない。

 つまり、枠組みづくりの段階で民主党の色合いはほとんど出なかった。

 では、この後、民主党は自分の色を出せるのか。それも難しい。なぜなら、民主党が自分本来のカラーを出そうとすればするほど、自民党はじめ野党が離反していくからだ。

 特別枠の使途について、概算要求基準ではマニフェスト政策の実現、デフレ脱却・経済成長、雇用拡大、人材育成、国民生活の安定・安全に資する事業を挙げている。

 加えて、高校の実質無償化や農業の戸別所得補償、高速道路の無料化といったマニフェスト政策にかかる経費は1割減の対象外とした。

 野党はまさに、こうした政策を「ばらまき」と批判して、見直しを迫っている。マニフェストを存分に盛り込んだ予算をつくれば、野党は最終的に来年の通常国会で税制改正や特例公債発行、さらに制度改革に伴なう予算関連法案を否決する可能性がある。

ただし、参院で19議席を握る公明党が賛成すれば、政府案は可決する。キャスティングボートを握っているのは公明党である。

 こうしたマニフェスト政策にかかる財源を、菅政権は予算組み替えで生み出そうとしている。だが、仮に歳出側で組み替えに成功したとしても、そもそも歳入側で財源のめどが立っていない。



■歳入不足5兆円をどうするか


 先の閣議決定に提出された内閣府の参考試算によれば、国債発行額を44兆円に抑えると、多少の税収増を見込んだとしても、5兆円近い歳入不足が生じてしまう。この5兆円の穴をどう埋めるかが、まず最初のハードルなのだ。

 マニフェスト政策を盛り込めるかどうかは、その次だ。カネがなければ始まらない。これは国の財政でも家計でも同じである。

 参院選敗北後も従来のマニフェストにこだわり続ける菅政権は、見たくない現実から目をそむけて、夢の世界に生きているようだ。

 頼みとする財務省もこのまま進むと、どこかで政権の揺さぶりに出る可能性がある。

 というのは、概算要求基準で聖域扱いされた社会保障費や地方交付税でも、もともと財務省は「大胆に斬り込むべし」という立場であるからだ。

 生活保護費一つとっても、都道府県別にみると、合理的に説明できない支給水準の濃淡がある。ある県は手厚く支給されているのに、別の県では見劣りがする。

 財務省は「制度の運用実態を細かく見ていけば、社会保障費も全体として削減余地がある」とみている。地方交付税についても同様だ。

 内閣が閣議決定した以上、財務省は表向きは政権の方針に従っていくだろう。だが、舞台裏でどう動くかはわからない。

 たとえば消費税引き上げで一致する野党に働きかけて、民主党との妥協を狙っていく展開もあるのではないか。財務省が大連立の仲介役を担うのだ。

 予算編成スタートから、永田町・霞が関は「一寸先は闇」の状態に突入した。