秋に菅政権は行き詰まる 首相続投を望んでも絶対無理

(日刊ゲンダイ2010/7/30)

「民主党と野党は国会で政策協議をしろ」と、さかんに大マスコミは煽っているが、そんなことは絶対に実現しない


さんざん小沢一郎を叩き鳩山由紀夫を退陣させ菅首相を批判して民主党を参院選で大敗させた後、「ねじれ国会」の混乱が目に見えているのに与野党協調を求める虫がよすぎる現実無視の論調の裏側


結局、民主党の両院議員総会は大きな番狂わせもなく、菅首相と執行部の9月までの続投が了承された。「参院選大敗の責任をとれ」の批判の声が相次いだものの、ケジメをつけるでもなく、きょうからの8日間の臨時国会に向けた“ガス抜きの場”に終わった。
菅首相と執行部が居座りを強気で押し切ったウラに、世論調査の数字があるのは間違いない。
「菅首相は辞任する必要はない」が朝日新聞の世論調査で73%、毎日新聞では80%にのぼった。他の調査でも似た結果だ。この数字が菅首相の支えになっている。続投批判の声が高まらない理由もここにある。
だが、菅首相は気まぐれ世論などアテにしても、続投は絶望的だ。そもそも、最近の世論調査なんてハチャメチャも甚だしい。とても信頼をおけるものじゃない。

8割近くの人が菅首相を続投させたいのなら、なぜ先日の参院選で民主党に投票しなかったのか、勝たせなかったのか。矛盾はそれだけじゃない。早くやって欲しい政策は決まって年金・社会福祉や景気対策だが、「ねじれ国会」で政治スピードは半減し、大半の法案は成立しない。それなのに有権者は「ねじれ国会」を選んだ。まだある。どの世論調査でも、小沢一郎のカネの問題にこだわり、「復権すべきでない」が85%もある。しかし、民主党政策の多くは小沢が4年前の代表時代から打ち出してきたものだ。政治主導、国会改革、国民生活優先の政策もそうだ。それなのに小沢を否定して、民主党政権は否定しないのだから、ワケが分からない。

だが、世論をこうも政治無知の支離滅裂にしている元凶は、言うまでもなく大マスコミ報道だ。「世論はメディアの報道に振り回されます。参院選で民主党が敗れたと同時に、メディアが一斉に菅首相の責任問題を大騒ぎしていたら、“辞めろ”が多数になっていたでしょう。メディアは菅首相の後継者を想定していなかったから、退陣を迫らなかった。コロコロ総理のクビをすげ替えると海外の笑いものになるといった見方も多かった。そんな報道に影響されて、8割が“菅首相の続投支持”という数字が出てきたわけです」(政治評論家・山口朝雄氏)
世論調査の数字なんて大マスコミの報道いかんで、どうにでもつくれる。菅首相が世論の続投支持を心の支えにしても、何の保証もないのだ。

◇野党にとって民主党つぶしの最大のチャンスが臨時国会

とりあえず議員総会の責任問題を乗り切った菅首相は、9月の代表選でも再選できるかもしれない。小沢が代表選に出る気がないからだ。しかし、せいぜい先が読めるのはそこまでだ。11月からの秋の臨時国会が始まればすぐに行き詰まる。「ねじれ国会」はそんな生易しいものではない。
「過半数に10議席以上足りない菅民主党は、参院の17の常任委員会のうち、16の委員会で野党に多数を握られる。おまけに本会議の日程を決める議院運営委員長のポストも自民党に譲らざるを得なくなっています。早い話、野党が菅政権を潰す気でまとまれば、参院はピクとも動かず、法案は一つも成立しないということですよ」(民主党関係者)
だから、連立組み替えや政策ごとの部分連合が焦点になっているが、まとまるわけがない。ある野党議員が言った。
「来年度の本予算審議に入ってしまうと、反対しづらい場面が出てくる。風向きがまた変わることもある。菅政権を解散に追い込むには、間髪入れずやるのがいい。秋の臨時国会が勝負です。小沢抜きの菅政権はモロいし、戦いやすい。野党は、自民も公明もみんなの党も解散・総選挙で失うものがない。必ず議席は増えるし、政党助成金も増える。もう目標は早期解散で決まっているのだから、民主党と手を組む野党なんていませんよ」
自民党の川崎国対委員長は、「みんなの党、公明党と協調したい」「衆院解散に追い込んで衆院第1党に戻るかが最大課題だ」と強調していた。
野党が本気でまとまれば強い。かつて民主党も、小沢の号令の下、野党多数の参院を舞台に自公政権を立ち往生させ、安倍、福田内閣を総辞職に追い込んだものだ。今度は、菅内閣が同じことをされるのである。


◇許しがたい大マスコミの悪意に利用されるだけの軽薄な世論

6月にスタートした菅政権は、小沢排除以外に何の仕事もしていない。官僚に丸め込まれ、マニフェストも次々と骨抜きにされている。だが、こんな政治停滞が秋まで続き、その後にくるのは解散か総辞職かの政変だ。総選挙になったら、ますます政界は大混乱に陥り、景気対策も国民生活優先も吹っ飛んでしまう。
それだけに、参院選で民主党を大敗に追い込んだツケは大きいのだが、元凶の大マスコミは何と言っているか。どの大新聞も社説などで「民主党と野党は国会で政策協議しろ」「対決より協調だ」と煽っているからお笑いだ。自分らで小沢を叩き、鳩山内閣を退陣に追い込み、さらには菅首相の消費税発言で民主党を大敗させておきながら、あり得ない「政策協議」の空論をブッて涼しい顔をしている。まったくデタラメだ。
ジャーナリズム研究の第一人者である立正大元教授の桂敬一氏は、最近の「政治とメディア」について、こう語る。
「参院選で民主党が負けたのは菅首相の唐突な消費税発言が原因ですが、問題は、メディアが首相発言を増幅して報道し、世論を振り回したことです。鳩山首相退陣で普天間移設問題が振り出しの日米合意に戻った。それの是非を参院選の争点にしたくないから、メディアは消費税をことさら一大争点にしたのです。その菅首相は、メディアの言うことを聞かない小沢氏を排除している。安保問題ではアメリカを大事にしようとしている。消費税問題でも菅首相は使えるから、メディアは支えようということなのです」
こうした大マスコミの悪意と政治的打算が「参院選大敗なれど菅続投はオーケー」の裏に隠されているのだ。軽薄な世論を操り、官僚と結託して民主党政権運営の主導権を握ろうとする大マスコミ。政治空白によって国民経済が弱ることより、自分たちの権力復活しか考えていないのだから罪深い。国民はここを冷静に押さえておかないと、「世論」という形で大マスコミに利用され、振り回されるだけなのだ。