◎「日本一新運動」の原点―6

日本一新の会・代表 平野 貞夫


参議院選挙における民主党惨敗の原因が「菅首相の唐突な消費税発言にある」とは、本人も含め日本の有識者多数の見方である。
しかし、ちょっとどころか大いに違うというのが私の意見である。正確にいえば、菅首相は税制度すなはち、国政の根幹ともいうべき税金の本質について、まったく無知であることが、あのような無様な発言を繰り返したのだと私は思う。

(税金―税制度の本質)

英国の政治・経済・社会学者で、ウォルター・バジョット(1827~1877)は、名著『イギリスの国家構造』で、「その国の政治構造・政治思想・政治運営を規制し、特徴付けるのは税制度である」という趣旨のことを述べている。そもそも議会の成立史は税金の取られ方(歳入)と、使われ方(歳出)について、市民の意見を生かすことから始まった。戦後の日本では2回にわたり大きな税制改革が行われている。初めは占領中の「シャウプ勧告」にもとづくもので、昭和25年の税制改革であり、国税・地方税を通じ、税制全体を直接税を中心とする税体系をつくったが、通称「シャウプ税制」とも呼ばれ、この税体系が戦後の経済復興の源となった。次は昭和六十三年の消費税制度の導入である。直接税と間接税の適切なバランスをとるとともに、社会構造の変化に対応させるものであったが、消費税の導入は、わが国の財政史だけでなく、国会史に残る紛糾と混乱をともなって成立したことは記憶に新しい。 


(消費税制度導入の苦悩を知るべし)
昭和45年3月、福田赳夫大蔵大臣が「直接税負担を軽減し、財政需要に応ずるという二つの面から間接税を増税したい」と発言、これから戦後の消費税論争は始まった。次に昭和54年10月の衆議院選挙で大平首相が公約として提起したが失敗し、翌年には、現職総理という身分のまま死亡するという悲劇まで起こっ
ている。
しばしの時を経た昭和61年、中曽根首相が「大型間接税は導入しない」と衆参同日選挙で約束したにも拘わらず、両院で勝利するや否や、「売上税制度を導入する」と発言し国を挙げての大
騒ぎとなる。狙いは自民党総裁任期を一年延期した後、さらに政権を続けるとする個人的思惑にあった。
強引に売上税関係法案を成立させようとする中曾根内閣に対して、自民党竹下幹事長は野党の対応を利用し、原衆議院議長の斡旋で与野党間の「税制改革協議会」を設けた。ポスト中曾根を引き継いだ竹下首相が、翌63年12月に「消費税関連法」を苦難の上成立させた。
売上税廃棄、消費税制度成立にいたる二年間のドラマを、私は衆議院事務局の現場責任者としての克明な記録を、「日記」として残しているが、今年10月千倉書房から出版の予定である。
政治家、官僚、マスコミなどがどんな動きをしたのか。当時関わった政治家で現在も活躍しているのは、小沢一郎・野田毅・与謝野馨の3人のみである。いうなれば、税制改革の難しさを人肌で認識しているのは数百人もいる国会議員のなかで3人だけということだ。
税制の抜本改革で絶対に留意しておかなければならないことが二つある。一つは、絶対に政権の恣意的な意志、例えば政敵の排除とか、長期政権のため利用してはならないことだ。今回の菅首相には「小沢の政策的排除」が明確であったことに説明はいるまい。
もう一つは、抜本改革の歴史的必然性を具体的に説明することだ。消費税のときは「占領税制からの改革」と「消費社会への対応」であった。菅首相が提起した「財政赤字対策」というのなら、赤字となった原因の情報開示と、責任の明確化が絶対に必要であることはいうまでもなく、理念のみならず、手続き論としてもそ
の体をなしていない。

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◎政治資金規正法のからくりと、それが招いた検察審査会の暴走

日本一新の会・染谷 正圀


政治資金規正法第25条1項3号は、政治資金収支報告書に虚偽の記載をした会計責任者を処罰するとしているものの、記載の誤りのうちどのようなもの虚偽記載とするかを規定していない。つまりこの条文は、刑罰を規定しながらも、犯罪となる要件を定めていない点において典型的な白地刑法であると言うだけに止まらず、犯罪の規定を委任する成文法規をも持たない罪刑法定主義の原則にも反するものであることを指摘しておく必要がある。すなわち、政治資金収支報告書の虚偽記載とは、それを疑った捜査機関が捕まえて調べただけでは判然とせず、裁判によらなければ犯罪である否かそのものが定まらない仕組みになっているの
である。すなわち、捜査機関に対しては、記載上の形式的誤りを以て虚偽記載としての公判請求を許すものの、当該虚偽記載が処罰に値するか否かの判断以前に、その訴追の是非そのものが、裁判所の判断に委ねられているのである。
そして、このとんでもない構造を隠蔽しているのが、検察による起訴独占主義なのである。
そこから、いわゆる陸山会の政治資金問題は、会計責任者である石川氏らの起訴によって、これが犯罪に当たるのか否かそのものを含めた全てが東京地方裁判所の所掌の下に置かれたのであって、これこそが、The JOURNALで世直し人氏が解明した、なすべからざる起訴の背景なのである。
そして、当該事案は、すでに東京地裁の管轄下に置かれ、検察審査会法第2条の「1」が規定する「検察官の公訴を提起しない処分の当否に関する事項」とする検察審査会の権限外の問題、検察審査会が関与する余地がない問題となっているのである。
そこから、水谷建設側の証言の信憑性は高いから、陸山会側を厳しく取り調べた上で起訴し、公判廷で事実関係を明かにすべし、とする東京第一検察審査会の論理は、このとんでもない法構造をそのまま追認したものに過ぎないものなのであって、その意味するところは、東京第一検察審査会が関与する余地がないことの別の表現なのである。
一方、百歩譲って、法第25条2項によって、虚偽記載に関する会計責任者の監督責任を問える、との強弁の余地はあるにしても、そのことから逆に、法第25条1項3号違反を問われることなどあるはずもない陸山会代表者の小沢一郎氏を、会計責任者の犯罪である虚偽記載に係る「共謀共同正犯」で起訴すべしと主張する東京第五検察審査会は、この暴論を「善良な市民としての感覚」で覆い隠す詐術を弄しているのである。
さらに、さすがに第五検審の共謀共同正犯説の無謀さに気づいたのか、第一検審は、虚偽記載に関して代表者を訴追できるようにすることで、「政治家自身が責任免れることを許さない制度を構築すべきである」「そうすれば、本件のような会計責任者、同補助者と代表者との共謀の有無について問題となるような事案は少なくなるはずである」などと、法の一層の改悪を「提言」するという、自らに与えられた検察審査会法第二条「2」が規定する
「検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項」とする権限とは無縁の政治発言によって「公訴権の実行に関して民意を反映させてその適正を図る」とする検察審査会法の立法の趣旨を蹂躙しているのである。


白地刑法=一定の刑罰だけを法律で規定し、罪となる行為の具体的内容は他の法令に譲っている刑罰法規。空白刑法。白地刑罰法規。空白刑罰法規。(デジタル大辞泉)


参考資料(拔萃)
政治資金規正法(昭和23年729日法律第194号)
第25条 次の各号の一に該当する者は、五年以下の禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
1 第12条又は第17条の規定に違反して報告書又はこれに併せて提出すべき書面の提出をしなかつた者
1の2 第19条の14の規定に違反して、政治資金監査報告書の提出をしなかつた者
2 第12条、第17条、第18条第4項又は第19条の5の規定に違反して第12条第1項若しくは第17条第1項の報告書又はこれに併せて提出すべき書面に記載すべき事項の記載をしなかつた者
3 第13条第1項若しくは第17条第1項の報告書又はこれに併せて提出すべき書面に虚偽の記入をした者
2 前項の場合(第17条の規定に係る違反の場合を除く。)において、政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたときは、50万円以下の罰金に処する。


検察審査会法(昭和23年7月12日法律147号)
第1条 公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るため、政令で定める地方裁判所及び地方裁判所支部の所在地に検察審査会を置く。
第2条 検察審査会は、左の事項を掌る。
1  検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項。

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