生気も覇気も迫力もない菅首相 民主党は分裂か解散総選挙が必要 (日刊ゲンダイ2010/8/2)


そんな精神状態で難問山積の国の政権の座にしがみつくのは正常な判断力もない証拠だ

政権交代への国民の期待に背き脱小沢とか舞い上がって何も実行する力がなく官僚に操作される旧政権政治へと逆行した菅政権にこれまでの民主党支持者もあきれ見限った
先週末に行われた菅首相の記者会見を見て、その覇気のなさにギョッとした有権者も多かったのではないか。
民意を失った首相の顔はこうなるのか。安倍元首相を彷彿させたものだ。
目はどんよりしていて、話の中身も新味なし。そんな中、菅が力を込めたのが「解散・総選挙はまったく考えていない」というひと言だ。


質問者は、国会運営が行き詰まったらどうするのか、と問うた。総理は消費税引き上げの際には解散し、国民の信を問うと言いましたよね。だったら、国会が膠(こう)着(ちやく)したら、どうするのか。自身の進退をかけて、解散することはないのか。こんな質問に対し、菅は「ない」と明言したのである。
その理由として、菅は「野党と合意できる部分が必ずある」と力んだ。
要するに、解散権を盾に信念を貫くのではなく、野党と妥協するということだ。とにかく、政権維持が大前提。野党には土下座でも何でもして、政権にしがみつくということである。
変われば変わるものではないか。野党時代の民主党は、参院で惨敗した自民党に対し、「直近の民意は民主党にある」「ただちに衆院を解散して信を問え」と迫ったものだ。
それなのに、政権に就いた途端に、権力亡者に豹変する。

菅は会見で98年の金融危機の際、小渕政権が民主党が提案した金融再生法案を丸のみしてくれたことを引き合いに出した。当時は菅代表。与野党が国難に際して協力した過去を挙げ、「今も国難だから……」と野党の理解を求めたのだが、なんだかもう“死に体内閣”ではないか。
菅が言う国難とは「長引く不況」「財政赤字」「社会保障不安」のことらしいが、そんなものは今に始まったことではない。それに対する具体的な処方箋、ビジョンを示しているわけでもない。それどころか、消費税に懲りた菅は「消費税は代表選で約束しない」と言い出した。封印、先送りを決めたのである。
だったら、何を協力して欲しいのか。



◇ただ権力いしがみつきたいだけなのか


今が国難であるというなら、それを乗り越える国家的戦略を示して欲しいものだ。それが政治の使命ではないか。そこに政治生命をかけ、野党の理解を求める。協力を得られなければ民意を問う。それくらいの覚悟と迫力がなければ、国を動かせない。
それが菅にはないのである。ただ野党の協力を求め、解散からも逃げ回っている情けなさ。周囲によると「完全に自信を失い、落ち込んでいる」という。そんなのが政権にしがみついている。恐ろしい話だ。


◇自民党政権よりもひどい官僚丸投げの迷走政治


おそらく、マトモな判断力すらない菅政権は今後、野党の協力を得るためには何でもやる。「国民の生活が第一」のマニフェストも簡単に引っ込め、財務官僚の言いなりで予算を組む。
それがもう見えたのが概算要求基準だ。政策的経費を各省一律カットし、ひねり出した財源の使い道は政策コンテストで決めるという。一見、政治主導っぽく見えるが全然違う。財務省出身の慶大准教授・小幡績氏はこう言った。
「こうしたシーリングは大平内閣くらいからの古典的な手法です。ただ、民主党政権がこうやって財源をひねり出し、やりたいことがあるのであれば、意味がある。シーリングをかけるのであれば7兆円くらい削って、衆院選のマニフェストを実行すればいいと思う。政策コンテストとか言っているけど、一律で予算を削った後、どうするのか。メリハリの利いた予算を組めなければ意味がない」

菅の場合、マニフェストの実行にこだわるどころか、最初にマニフェストの見直し、放棄がある。財政優先だからである。まず予算カットありきで、財源が浮いたら、改めて使い道を考える。こういう順番だ。
政治主導とは、最初に「これをやりたい」と宣言し、そのために不退転の決意で予算をひねり出すことだ。菅がやろうとしていることはアベコベで、しかも、政策コンテストをやるのは官僚だ。これじゃあ、古い自民党政権がやっていた復活折衝みたいなものだ。歴代自民党政権だって、橋本政権以降は官邸主導で予算編成の目玉を考えたものだ。
菅がやっていることは、20年くらい前の政治手法なのである。


◇素人集団の民主党に政権担当はムリか

政権交代の一丁目一番地、政治主導が骨抜きになれば、あとは推して知るべしだ。国家戦略局は断念し、情報公開も風前だ。菅が会見嫌いなのである。これじゃあ、昨年の政権交代は何だったのか。くしくも小沢が予言していたように、しょせん、素人集団の民主党には政権運営は無理だったか。政治主導どころか、政治不在、官僚丸投げ政治の大復活だ。民主党に期待していたジャーナリストの高野孟氏にも聞いてみた。
「菅首相を見ていると自信喪失の顔つきに見える。鳩山前首相も菅首相も未熟な部分が目に付くし、不穏当な言動も多い。結局、民主党政権はまだ試運転期間なんですよ。それなのに、反小沢だとか、やっている場合なのか。小沢氏だってすすんで協力すべきなのです。民主党政権がやろうとしていることは中央集権打破であり、日米安保の見直しです。5年、10年かかる大改革ですよ。メディアも性急な結論を求め過ぎるし、当人たちも大きな変革を担っていることを自覚して欲しい」
高野氏は菅に「こうなったら居直れ」と言う。さもないと、本当にズルズルだめになる。そういうことだ。

◇こうなったら荒治療か解散か退陣か

実際、菅が今のような情けない政治を続けていたら、民意は離れるし、党内も四分五裂になっていく。
高野氏が言うように求められているのは党内の結束と小沢の剛腕なのである。それなのに、執行部が小沢排除を続ければ、グループの分裂は避けられないが、今の民主党にはそれくらいの荒療治が必要かもしれない。
法大教授の五十嵐仁氏(政治学)は「菅首相は解散・総選挙を打つべきだ」と言う。
「どういう国会運営をやるにしても、直近の民意はどこにあるのか、という議論になる。民主党は負けたのですから、何も言えない。まして、菅さんはかつて、同じ理屈で自民党を攻めていたわけですからね。こうなると、部分連合をやるにしても、丸のみの連続で、何もできない政権になってしまう。いつか行き詰まり、解散・総選挙を迫られる。だとすれば、菅政権は思い切って解散し、総選挙に勝って、主導権を握れるようにすべきです。もちろん、今の菅政権の命綱は衆院の数ですから、おいそれと解散はできない。党内は大混乱になる。

菅首相もジレンマでしょう。しかし、何もしなければ、追いつめられる。それは間違いないのです」