菅首相はなぜ円安誘導しないのか  (日刊ゲンダイ 2010/8/2)


財源のいらない最大の景気浮揚策


財源がなくとも、景気浮揚策は打てる。今が、その絶好のタイミング。菅首相は動くべきときだ。
先週後半から企業の10年4―6月期決算の発表がスタートし、31日までに上場144社が営業損益で黒字転換したことが分かった。ソニーやパナソニックなど輸出企業を中心に約70社は通期の上方修正に踏み切っている。日本全体に景気回復の薄日が差し込み始めたのだ。
「沈滞ムードから脱するためにも、この機会を逃してはならない。放っておくと景気へのマイナス要因がまた噴出してしまうからです」(市場関係者)という声が相次いでいる。
◇このままだと円高進行、株安でせっかくに決算上方修正も幻で終わる
米景気失速による円高進行や、元切り上げで中国経済が低迷する恐れ、さらにエコカー減税やエコポイント終了に伴う買い控えなど、今年後半には警戒すべき悪材料は多いのだ。財源に悩む菅首相は何をすべきなのか。
「円安誘導すればいいのです。米国やユーロ各国の要人は自国通貨安を容認する発言を繰り返しています。日本だけがジッとしていては、円高はますます進行しますから黙っていてはダメです。菅首相の円安容認発言で、1円や2円は円安に振れるでしょう。日銀の白川総裁がこれに同調すれば、世界市場に与える影響は大きい。日本は超円高を受け入れないという強い姿勢を見せればいいのです」(第一生命経済研究所・嶌峰義清主席エコノミスト)


菅首相は今年1月、財務大臣に就任した際に「経済界では(1ドル)90円台半ばが適切との見方が多い」と発言し、物議を醸しはしたものの円安方向に振れ、結果オーライだった。
「日本では為替に関する発言がタブー視されていますが、決してそんなことはありません。言うべきことはきちんと発言したほうがいいのです」(嶌峰義清氏)
言うはタダ、口先介入に財源は必要ない。それで円安が定着すれば輸出企業の業績は盤石になり、株価も上向く。景気対策に10兆円使っても平均株価を2000円押し上げるのは難しいが、円安へ5円、10円振れるだけで株価は数千円上昇する。日本経済復活の近道なのだ。菅首相が掲げる「強い経済」実現も見えてくる。最大の景気浮揚策なのだから恐れることは何もない。NY市場で一時1ドル=85円台をつけたのは、口先介入の絶好のタイミングなのだ。それもできない無能なら、9月の代表選はいよいよ絶望的だ。