普天間極秘交渉の知られざる“内幕”  (日刊ゲンダイ 2010/8/3)

元移設候補・馬毛島オーナー独占告白


内閣が変わっても、普天間問題は迷走続き。きのうの衆院予算委でも、菅首相は「沖縄の理解を得ることを含め、いくつかのプロセスがさらに必要」と発言。11月末の沖縄県知事選後に決着時期を先送りした。
解決の兆しが見えない政府の対応に業を煮やすのが、都内の立石建設工業の立石勲社長(77=顔写真)。普天間の移設先に名前の挙がった鹿児島・種子島沖の無人島「馬毛島」の所有者だ。なぜ、普天間移設は暗礁に乗り上げたのか――。馬毛島のオーナーが、極秘交渉の一端を本紙に打ち明けた。
「官僚組織とは、自分たちの意に沿わない勢力には権力を利用して散々嫌がらせをする。普天間交渉の裏側で、そう実感しました」 昨年12月上旬。突然、立石建設工業と立石社長の自宅に東京国税局の強制調査が入った。グループ企業間での不動産取引で損失が出たように装い、所得10億円を隠した。それが“ガサ入れ”の理由だ。
ちょうど、与党内で馬毛島が移設先に浮上した時期と重なる。
「実は強制調査の2カ月前にも、同じ件で国税局の指摘を受け、修正申告することで話がついていたのです。なのに、有無を言わせず、調査に乗り込み、馬毛島関連の資料一式を押収していった。その数は段ボール約120箱分にも及びます」
不可解な出来事は続いた。鳩山首相の「5月末決着」発言を受け、与党幹部A氏が立石社長に極秘会談を持ちかけた。その席で、与党幹部は押収資料を見なければ、知る由もない事柄をペラペラと話し始めた。「馬毛島は十数年前に旧平和相互銀(旧住友銀に吸収合併)の関連会社から譲り受けたもの。土地の担保など権利関係は複雑です。その一端をA氏が開帳したのですから、国税を通じて押収資料が政府全体に流れているのだと悟りました」


◆背後に官僚、政治家、ゼネコンの“大きな力”を感じた

馬毛島を「国に売ってほしい」と持ちかけたA氏。対する立石社長は「売れば価格が高いと批判されかねない。沖縄の米軍用地の半分の賃料で、国が借り上げて欲しい」と譲らない。交渉は数回に及んだが、まとまることはなかった。
「A氏によれば、北沢防衛相が、権利関係の複雑さに難色を示す防衛官僚の意向をくみ、クビを縦に振らなかったそうです」
この間にも、鳩山内閣の副大臣が馬毛島を極秘視察するなど、水面下交渉は続いていた。そして、5月末に鳩山前首相がセットした全国知事会の直前、立石社長に“朗報”がもたらされた。
「鹿児島県知事が徳之島案は反対するが、馬毛島案は受け入れる可能性がある」
ところが、知事会の当日に所得隠しの一件が、当局からマスコミに一斉リークされたのだ。
「これで一縷(いちる)の望みが消えました。旧政権が決めた辺野古移設案は、官僚、政治家、大手ゼネコンの利権の巣窟(そうくつ)といいます。一連の出来事は、背後に何か“大きな力”が働いたとしか思えないのです」
少なくとも立石社長の目には、普天間の迷走劇はそう映っている。