官房機密費のマスコミ汚染を追え 上杉隆の新たな戦い。

高木 幹太 雑誌『ダカーポ』最後の編集長

(ダカーポ的 時評 2010年8月6日) http://bit.ly/bCQvdF   


「官房機密費マスコミ汚染問題」をご存じだろうか。おそらく、知らない人が大半だろう。なぜなら、新聞、テレビなど、大手メディアが、ほとんど報じないからだ。この問題に正面から取り組んでいるのは上杉隆氏と『週刊ポスト』のコンビだけ。5月28日付号を皮切りに10回に渡る告発キャンペーンを続けている。上杉氏については、昨年もこのコラムで取り上げたが、いま最も勢いのあるジャーナリストである。彼はこの間、記者クラブ開放を主張し、政権と大手メディアの癒着体質を批判してきた。最近ようやく、政府の記者会見に記者クラブ加盟社以外のジャーナリストが出席できるようになったが、これも上杉氏の闘争の成果である。


「官房機密費マスコミ汚染問題」の概要はこうだ。5月28日付『週刊ポスト』によると、4月19日放送のTBS『NEWS23X』で、小渕内閣の官房長官を務めた野中広務氏が重大な発言をした。官房機密費は歴代内閣の「引き継ぎ帳」にあるリストをもとに、政権維持に有益と思われる人に配られたとし、その中に「(政治)評論をしておられる方々に、盆暮れにお届けするというのは額までみんな書いてありました」「テレビで正義の先頭を切るようなことをいってる人が、こんな金を平気で受け取るのかと思いました」と語ったのである。この衝撃発言に対して、メディアは追求するどころか、完全に黙殺。ほとんどの新聞は1行も報道せず、テレビも企画は上がっても中止になる状況だ。メディアは日頃から政権や官僚と一緒になって世論形成したり、政局を動かそうとしたりしているが、上杉氏はこれを、「マスコミ対策費で餌付けされ飼い慣らされた政治記者が偏向報道をタレ流している」のではないかと疑っている。


そして上杉氏は、官房機密費配布先の「実名リスト」を入手。リストに載っている評論家たちに直撃取材を行った。回答は以下の通り。三宅久之氏は、最初はデタラメだと一蹴したが、後日、講演の謝礼として藤波孝生氏の事務所から100万円をもらったことがあるとした。田原総一郎氏は、野中氏の他、田中角栄氏、中曽根康弘氏、安倍晋太郎氏からも金を受け取ったが、いずれも後日、別の人物を介して返した。中村慶一郎氏は、自身は受け取ったことがないが、三木武夫内閣の首相秘書官時代に配布リストを見た。政治評論家に官房機密費を配っていたのは事実と回答。俵孝太郎氏は、半年に一度ぐらいずつ官房長官などが数十万円を持って挨拶に来ることがあった。こういうお金をもらっていたのは私だけではないと答えた。というような状況である。官房機密費かどうかは別にして、政治評論家が政治家から金を受け取ることは常態化していたのである。


では、新聞やテレビの政治記者はどうなのか。『ポスト』からの「記者に内閣官房機密費が渡されたことはあるか?」という質問に対して、回答した全社が、受け取りの事実はないと答えた。これは信じられるのか。上杉氏の調査によると、記者クラブメディアへの餌付けは、以下のように行われているという。たとえば、「官房長官と記者たちとのオフレコ会食の際、秘書が現金付きの手土産を記者に渡す」あるいは「記者の転勤や出産、家の新築の機会に、官邸から現金入りの祝いの品が届けられる」「そうした記者が社の幹部となり、退職後は政治評論家となり、今度は政府の審議会委員などへの謝礼として機密費を受け取る」。


配った側の証言もある。野中氏が官房長官だった時代に官房副長官を務めた鈴木宗男氏は、上杉氏のインタビューに対して、以下の内容を答えた。総理と政治部長などとの懇談の際、お車代として10万を渡すのが慣例だった。官邸に専門家を呼んで話を聞く場合などは、20~30万の謝礼を出した。外遊の時、随行の記者たちに現金を配る慣例があった。さらに鈴木氏は、政治記者が集めた現場の取材メモを幹部が官邸に「上納」していたのではないかと問われて、こう答えた。「番記者を通じて全部入ってきますよ」「マスコミは反権力を謳いながら、みんな権力に乗っているんですよ」。


政権とメディア、まさに、ズブズブの関係ではないか。こんなことでは「政治とカネ」の追求など、メディアが本気でできるはずもない。外国人記者も呆れ果てている。「我々は1円でももらったらクビ」というのだ。また上杉氏はこうも書いている。「アメリカでも機密費を使った『スピン(情報操作)』が仕掛けられているが、メディアの側に警戒感が強く『2ドルルール』『5ドルルール』などを設けている。政治権力からコーヒー代などを超える金品の提供を受けてはならない、という自主的なルールである。破ったジャーナリストは事実上、メディアから追放される」「私のいた『ニューヨーク・タイムス』は2ドルルールで、おごられるのは本当にコーヒー1杯で終わり。スターバックスとタリーズで、『本日のコーヒー』ならOKだが、カフェラテをたのむとOUTだった」。


上杉氏は、この戦いを始めてから、様々な誹謗中傷を受けたり、テレビ出演をキャンセルされたりしているそうである。あるテレビ局の政治部の幹部は「上杉のスキャンダルを探せ。全力で探せ。経歴詐称でも、女絡みでも、誤報問題でも何でもいい。とにかく潰せ」と号令をかけたという(『週刊ポスト』)。大手メディアの古い体質に浸かっている上層部からすれば、記者クラブ問題、メディアとカネの問題と、次々に挑んでくる上杉氏は許せない存在らしい。誰がどう見ても、正義のジャーナリストに間違いないのに、である。「私は死んでも追求を止めない!」という上杉さんに、ここで、あらためてエールを送りたい。頑張れ、上杉さん!