3兆円介入で1ドル=98円まで押し戻せるのに [超円高]敵は日銀・白川総裁

(日刊ゲンダイ2010/8/16)

外為特会に資金はジャブジャブ

「95年に記録した1ドル=79円まで行くしかない」といわれている超円高。止める手はあるのかないのか。産業界や金融市場では「為替介入の断行」を迫る声が強まっている。
為替介入の基本は、円安誘導水準と介入資金の規模だ。市場では「1ドル=90円台まで戻さないと大変」とする見方が有力だ。トヨタ自動車やパナソニックなど多くの輸出企業の為替想定レートが90円前後だからである。
介入資金はどのくらい必要なのか。経済ジャーナリストの小林佳樹氏がこう指摘する。
「為替介入の主たる目的は徐々に円安誘導して、輸出企業がきちんと為替予約できるようにすることです。1995年以降行われた為替介入を振り返ると、1年間で投入する金額は平均して3兆円規模にのぼります。計7兆円を投じた01年から02年の単独介入で、円は1ドル=120円から133円まで13円下がりました。今回、年3兆円規模の介入を2年間行えば、同じくらいの効果が期待できるとみられている。菅首相がこうした前例を踏襲できるかどうかです」
為替介入の資金は、悪名高い外為特会にジャブジャブ余っているから心配はない。1ドル=85円が98円に戻れば、1ドルで300億円の為替差益が出るトヨタをはじめ、日本の輸出企業の収益も大幅に改善し、国内景気もグッと明るくなってくるはずだ。
しかし為替介入は、実はそう簡単でない。米国はドル安誘導を政策にしているし、12日にはユーロ圏の高官が「日本が為替介入することを歓迎しない」と、協調介入しないことをにおわせ、プレッシャーをかけている。
だが本当の敵は身内にいる。日銀の白川総裁である。日銀の基本スタンスがとにかく常識はずれなのだ。白川総裁は10日の日銀金融決定会合で「円相場や市場の動揺について注意深く点検する」という説明にとどめた。介入の「カ」の字も示唆しなかった。



◇「景気は回復基調」と信じているらしい
「日銀は日本経済の現状を悪いとは見ていないのです。むしろアジアの成長で日本は景気回復局面にあると認識している。だから、追加の金融緩和策や為替介入を必要としないという立場です」(前出の小林佳樹氏)
円安になると、輸入品価格が上がりインフレになることを日銀は恐れているらしい。「景気は回復局面にある」と判断してきた白川総裁のメンツもある。この大デフレ不況の中で信じられない話だ。
菅首相は「日銀と連携」などと口走っているが、この世間知らずのトンチンカンな日銀を説得できるのか。むしろ財務相経験者でありながら“経済オンチ”の菅首相では、理屈で言い負かされてしまう。総理のメンツを潰されることになるだけだから、白川総裁との会談も期待できない。かくして、超円高は79円まで進むという見方は強まる一方なのだ。9月代表選で、この円高問題が命取りになっておかしくない。