長過ぎる菅内閣の夏休み 小泉デタラメ政治20年の呪縛   (日刊ゲンダイ2010/8/18)


民主党代表選の9月14日まであと1カ月もある。内外から押し寄せる難問にその間対応不能という前代未聞の事態

その代表選の結果、菅首相が再選され小沢一郎が政治的決断で離党した場合と菅首相が延命のため小沢一郎を閣内に取り込んだ場合のどちらも政治は機能しないだろう猛暑、酷暑が続くニッポン列島。熱中症でダウンする国民が続出、都内ではこの1カ月で100人が死亡という凄惨なことになっている。円高・株安の進行で日本経済を取り巻く環境も日に日に悪化。放置が許されない水準だ。
まさに国民の生命と財産が危機にさらされているのだが、菅政権はマトモな対応ひとつできない。5泊6日の夏休み、軽井沢滞在中は急激な円高進行・株下落に電話で閣僚に指示を出しただけ。帰京後、4―6月期のGDP速報値が大幅に鈍化しても、効果的な経済対策を打ち出すわけでもない。
きのう(17日)になってようやく菅首相と日銀総裁の会談予定が浮上した。それとて23日というのだから、悠長なものだ。どこまで夏休み=政治空白を続ければ気が済むのか。

◇このままいけば日本沈没の危機


「呆れてモノが言えませんよ。菅首相を筆頭にこの政権の閣僚は9月14日の民主党代表選のことしか頭にないのではないか。少なくとも誰ひとり経済が分かっていない。政府・与党内部ではここへきて、エコポイント制度の延長、新卒者の就職支援などが浮上しているようですが、根幹の円高を止めないことには話になりません。一方的な円高を阻止するための国際会議や協調介入の呼びかけをなぜしないのか。
日本の無策が分かっているから欧米諸国に足元を見られ、投機筋が安心して円を買う展開になってしまっている。このままいくと円は70円台に突入し、株価は8500円を割り込み、底なしの展開になってしまいますよ」(経済評論家・広瀬嘉夫氏)
それなのに永田町の最大関心事は「9・14代表選」であり、日本経済や国民生活は二の次三の次である。
「昨日は野田財務相を中心とするグループが箱根で会合を開いたほか、小沢前幹事長に近い山岡副代表も自身の勉強会の世話人会を開いた。いずれも代表選をにらんだ動きです。この先も鳩山前首相のグループが軽井沢で研修会を、旧民社党系、旧社会党系もそれぞれ会合を予定しています。この間、事実上の政治空白が続くわけで、内外から押し寄せる難問に機動的に対処することは無理でしょうね」(政界関係者)
日本経済がSOSを発している時に、国民不在の権力闘争が1カ月も繰り広げられるというのである。しかも、その代表選が終わってからも不毛政治が続くというのだから最悪だ。

◇民主党から小沢一郎を追い出せば政治空白はさらに長期化必至


さて、その代表選である。気の早い菅陣営は、菅が再選されたら「脱小沢を維持して小沢氏を幹事長には起用しない」方針を固めたという。牽制のつもりか知らないが、分かりやすい連中だ。国民ウケすることを言って、世論にアピールしようというのである。
“小沢抹殺”が社是みたいな大マスコミも協力的。バンバン世論調査を打って菅のシリを叩き、一緒になって「脱小沢」を既定路線化しようとしている。
だが、見通しが甘すぎないか。代表選の結果、小沢が最終的に政治的決断で離党したらどうなるか。羅針盤を失った船があっという間に漂流してしまうように、民主党の政権運営は確実にグチャグチャになる。政治空白がますます長引くことになるのは間違いない。政治評論家の浅川博忠氏がこう言う。
「今度の代表選で負けた方は、民主党にいられなくなるかもしれない。つまり菅首相が再選されれば、小沢氏の離党が現実味を帯びてくるということです。ただ、そのときに党を出るのは小沢氏ひとりではない。親小沢の反菅勢力がごっそり抜けるから、菅民主党はたちまち立ち往生でしょう。ねじれ国会を乗り切るために、自民党や公明党との連立を模索せざるを得ないが、当然、そこにも小沢氏は手を突っ込んでくる。菅民主党が衆院過半数を取るのは至難の業です。結局、野党各党の顔色をうかがいながらの政権運営となる。それでも法案は一本も通らないかもしれない。完全に機能停止です。そうなると、総辞職か解散か。いずれにせよ、政治はますます停滞してしまいます」


◇小沢を取り込んでも行き詰まる


いくら小沢でも民主党を飛び出して、すぐに政界再編なんてできるものじゃない。それには相当な時間がかかる。
では、菅政権が延命を図るために小沢を取り込めばうまくいくのか。首相側近の荒井国家戦略相は、「菅さんと小沢さんは政治手法がだいぶ違うが、挙党態勢をつくり上げていくことが求められている」なんてオベンチャラ発言までしている。その狙いは代表選対策だ。鳩山が挙党態勢の構築を条件に菅の再選を支持する考えを示しているから、とりあえず小沢と手を握ろうという魂胆である。しかし、これもすぐに行き詰まる。
「小沢氏を入閣させても、仙谷官房長官や前原国交相ら反小沢の急先鋒は小沢氏に仕事をさせる気はない。これでは意味がないし、小沢グループも黙ってはいません。党内の亀裂はますます深まり、政権は機能不全に陥ります」(政界事情通)
政権交代からもうすぐ1年。あまりにも軽薄ではないか。
支持率のために脱小沢をブチ上げたり、代表選のために小沢の取り込みを図ったり。こんなフラフラ政権が、まともな政治なんてできるはずがない。

◇小泉型ポピュリズム政治再来でこの国はいつか来た道に逆戻り

それにしても、この政治の劣化は何なのか。菅政権を見ていると、世論や党内の風向きをうかがうためのパフォーマンスばかりで中身はゼロである。
唯一やった“仕事”といえば、国民に約束した衆院選マニフェストをあっさり後退させたことぐらい。おかげで財界や霞が関は喜び、旧勢力と結託した大マスコミも歓迎している。その結果が、最近の支持率回復だ。
世論を巧みに誘導し、政権維持のためなら約束だって平気で破る。これまでの菅政権を見ていると、「自民党をぶっ壊す」と大口をたたいて総裁選に出馬し、国民の喝采を浴びて首相になった小泉純一郎のポピュリズム政治にそっくりに見えてくる。
小泉も財界人や官僚、TVのほか、竹中平蔵のようなペテン学者まで使って、国民にバラ色の社会を夢見させた。国民はまんまとダマされ、その結果、稼ぐが勝ちの無慈悲な格差社会が進行し、自殺者は12年連続3万人を突破した。庶民の暮らしはメチャクチャに破壊されたのである。
国民はこれ以上、パフォーマンス政治にだまされてはいけない。それでなくても、菅政権は「国民生活が第一」 の看板を下ろし、財政再建の旗を掲げた。消費税増税発言も法人税減税のためだ。その先に広がっているのは荒涼とした砂漠でしかない。ジャーナリストの斎藤貴男氏が言う。
「労働者派遣法改正などを掲げ、弱者寄りの鳩山政権が誕生して財界は困った。さっそく『鳩山不況』なる言葉が出てきて、株が下がった。首相が代わり、いつの間にか成長が最も大切なことのように語られている。成長を優先させて社会を壊した小泉構造改革の反省をすっかり忘れているのです」

他国なら断罪される小泉的な自民党政治がまだ政界を覆っている。この国と国民は不幸だが、このままではいつか来た道。菅政権のパフォーマンスにだまされて、失われた20年に逆戻りすることだけは絶対に避けなければダメだ。