税率20%の欧州で暴動が起こらないのにはカラクリがある


[国民はダマされている 消費税をめぐるウソ 斎藤貴男と本紙取材班]   (日刊ゲンダイ2010/8/23)


菅首相が唐突に言い出した消費税増税議論は、民主党の参院選大惨敗もあって一時沈静化したように見える。
しかし、だからといって油断はできない。政府が口を閉ざしている間にも、「大増税は避けられない」というプロパガンダは着々、進行しているからだ。それを大マスコミが垂れ流し国民に財政危機を刷り込むのである。
こうしたプロパガンダには気をつけなければならないウソが多い。それをひとつひとつ列挙し、検証してみようと思う。
まず、消費税議論になると必ず出てくる「諸外国との比較」である。
日本は5%だが、フランスは19・6%、ドイツは19%、イギリスは17・5%、スウェーデンは25%。財務省はこうした数字を示して、「日本の消費税は安すぎる」と吠(ほ)えるのだが、この数字はマヤカシだ。
「高い消費税をとっている国には非課税や税率ゼロの品目、軽減税率が適用されている品目が数多くあるのです。例えば、イギリスはデリカテッセンなどスーパーで買う食品や総菜には消費税はかからない。消費税がかかる食品はレストランでの食事やテークアウトの温かい食品だけです。標準的なイギリス人は毎日、家で食事をするので、消費税が20%近くでも普段の生活にはあまり影響がないのです」(英国在住特派員)

◇ふつうの生活をする分には影響なし

イギリスは土地の譲渡・賃貸、建物の譲渡・賃貸、金融、保険、医療、教育、福祉は非課税。食料品の他に、水道水、新聞、雑誌、書籍、国内の交通費、医薬品はゼロ税率。家庭用燃料および、電力には軽減税率が適用されている。
フランスでは食料品や書籍に加えて、レストランでの外食にも軽減税率が適用され5・5%、新聞、雑誌、医薬品は2・1%だ。
また、フォアグラ、トリュフは5・5%だが、キャビアは19・6%。カカオ含有量50%以上のチョコは19・6%だが、ふつうの板チョコは5・5%だ。
つまり、欧州の高い消費税は贅(ぜい)沢(たく)品に限った話で、日常生活でふつうに暮らす分には、ほとんど消費税の影響を受けないのである。
翻って、日本の非課税品目は土地、住宅の譲渡・賃貸、保険、医療、教育、福祉などだけ。軽減税率なし、税率ゼロの品目もなし。もちろん、食料品や新聞、書籍にも消費税がかかっている。それを5%から10%に上げれば、生活困窮者を直撃することになるのである。
しかも、日本には“隠れ消費税”がある。酒税やガソリン税だ。「これらを加味して、国際比較すれば、日本の物品税は跳ね上がるはず」(経済アナリスト)といわれる。

例えば、日本はビール100リットルに2万2000円の酒税がかかる。これに対し、イギリスはアルコール分4%ビールならば、100リットルで9748円、米国はたった1369円。ドイツは麦汁1度あたり104円で、平均的な12度のビールであれば、1248円で済む。日本はワイン100リットルに8000円の税金がかかるが、フランスは1134円である。
ガソリンは、日本は価格の44・8%が税金だが、米国は17・3%、カナダは27・2%。ヨーロッパはもっと高いが、日本のガソリン税は国際的に見て高水準だ。
いずれにしても、消費税の国際比較はかくも難しい。少なくとも、「日本は先進国の中で際立って安い」という論法は、大ウソと断じていいのである。


●さいとう・たかお
1958年生まれ。早大卒、英バーミンガム大修士号。「経済学は人間を幸せにできるのか」など著書多数。最新刊「消費税のカラクリ」(講談社)が好評。