大阪地検が取り調べメモ廃棄 最高検通知に違反

(asahi.com 2010年9月8日5時1分) http://p.tl/qN1k


郵便割引制度を悪用した偽の証明書発行事件で、関係者の取り調べの際につけたメモ(備忘録)を廃棄していた大阪地検特捜部の複数の検事の対応が、最高検の通知に反するものだったことがわかった。地検の内部調査の結果、刑事部などもほぼすべてを廃棄していたことが判明。地検は6月、公判で捜査段階の供述調書の信用性などが争いになると予想される場合は、メモを通知に従って適切に保管するよう各部に指示した。

 複数の検察幹部が朝日新聞の取材に対し、最高検の通知と大阪地検での取り調べメモの取り扱いについて認めた。

 取り調べメモについては、最高裁が2007年12月、警察官の備忘録について「個人的メモの域を超えた公文書」として証拠開示の対象になるとの初判断を示した。

 これを受けて最高検は08年7月と10月、検事や副検事が容疑者の発言や質問事項などを記すメモの取り扱いについて各地検に通知。取り調べ状況が将来争いになる可能性があると捜査担当検事が判断した場合、(1)メモを公判担当検事に引き継ぐ(2)公判担当検事はメモを一定期間保管する――ことを刑事部長名で求めた。

 ところが、今年1月に始まった厚生労働省元局長の村木厚子被告(54)=10日に判決公判、無罪主張=の公判で、昨年2月以降の特捜部による捜査で村木元局長の事件への関与を認めたとされる元部下らの取り調べメモがないことが発覚。3~4月に証人として出廷した特捜部の6人の検事と副検事が「必要なことは調書にしたので、メモは破棄した」と説明した。

 村木元局長の事件への関与をめぐっては、元部下らが元局長の公判などで捜査段階の説明を翻し、「調書はでっち上げ」などと証言。特捜部の調書が元部下の意思通り作成されたかどうかが焦点となっていた。

地裁は5月、検察側が証拠採用するよう求めた43通の調書のうち34通に関し「誘導で作られた」などとして採用しないと決定。裁判長は特捜部の検事がメモを廃棄したことにも言及し、「メモは有罪立証の有用な資料となりえる」との見解を示して捜査に疑問を投げかけた。

 この指摘を受け、地検が容疑者らの取り調べを担当する刑事部や公安部などの対応も調べたところ、メモのほぼすべてが廃棄されていたことが判明。廃棄の詳しい理由については調べなかったという。

 郵便不正事件の捜査に携わった検察幹部は「取り調べメモが公判で必要かどうか、部内で検討されたことはなかった」と話している。(板橋洋佳、野上英文)