構造改革のための25のプログラム 石井紘基議


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第一節 官企業の全廃がもたらす経済の覚醒


■プログラム一

既得権益と闘う国民政権をつくる


 今日の、わが国に根付いている「官制経済システム」とは、経済に対する政治・行政権力の支配であり、その意味で一種の社会主義体制である。こうした体制においては市場の競争原理は抹殺され、価値の創出は減殺され、資本の拡大再生産機能が失われる。
 一定の経済水準に達した社会における社会主義は極めて危険である。それはソ連邦の崩壊や東欧社会主義諸国の末期において、すでに実証されている。経済は市場と不可分なのだ。今日わが国において市場経済を樹立するには、体制の変革が必須である。体制変革とは、すなわち革命である。
 わが国の官制経済体制には政官権力の利益と既得権が貫徹している。さまざまな制度や、意識、社会システムがそれを支えている。こうした既得権の集大成を打破するためには、ある程度の社会的混乱は避けられない。社会的混乱は二つの要因から起こる可能性がある。
 一つは、既得権益に依拠する勢力とその犠牲になってきた民間企業や勤労者との対立からだ。もう一つは、補助金団体や天下り団体、そのファミリー企業において多数の失職者が出現することからだ。こうした事態に対処し、改革を成功させるためには、民主的で強力なイニシアティブが不可欠である。
 したがって、真の構造改革の断行を可能にするには、総選挙において改革のプログラムを明確に問い、政治責任を明示した公約を掲げ、四年間の信任を得た、強力で有能な国民政権の樹立が必要になる。
 この政権がつくるプログラムは、三年間で国家の基本的モデルチェンジを断行し、変革の成果を得なければならない。そして、遅くとも五年後には経済の快調な走りを実現することに責任をもたなければならない。
 小泉内閣は国民の熱狂的な支持を受け、平成十三年の参議院選挙で勝利した。しかし、それは単に、従来の政治に対する幻滅が期待となった人気に基づくもので、構造改革のプログラムを明示して国民に選択を求めたものではない。
 小泉氏に真の構造改革を断行する決意があるならば、彼は改めて早急に国民が確信を持てる改革プログラムを提示し、そのための体制を確立すべきである。さもなくば新たな革命的政権にとって替わる必要がある。

■プログラム二
すべての特殊法人廃止を急ぐ

 特殊法人は廃止すべきである。この場合、特殊法人という組織のあり方の問題と、それぞれの特殊法人・認可法人が行っている事業内容の問題がある。存在のあり方、すなわち、特殊法人という組織形態は無条件に廃止しなければならない。その理由は第二章で述べたように、わが国の法体系に矛盾する不当な存在だからである。事業内容については、特殊法人・認可法人は主として民間が行うべき活動を行っているので、この観点からも原則的に廃止しなければならない。
 ただし、廃止の時期、方法などは、それぞれの特殊法人がかかえている借金の整理、特恵的な法制、税制、政策との関係で異なってくる。
 また、各特殊法人とも多数の”事業”に進出しているが、それらの”事業”のなかには基礎科学研究分野などで優れた人材を有しているものもある。このような、経済活動以外の分野での人材や技術は大学などに吸収する手立てが必要であろう。逆に、福祉や教育、環境など、耳あたりよい領域に進出して融資事業を行っている特殊法人もあるが、これらの仕事は直接国が予算をつけるべきものか、または民間がやるべきものか、どちらかであるから、一律に廃止すればよい。
 特殊法人改革を進めるにあたっての基本原則は次の二つである。

一、経済活動に属する事業・組織はすべて廃止すること。
小泉首相の言う「民間にできることは民間に」は間違っている。このようなことをいっていては、またしても、(政府系金融機関が実施している)長期固定低金利の大量資金融資などは「制度上民間にはできない」ということになり、存続されてしまう。必要なのは福祉、教育、医療、治安、防衛といった行政の事務以外は「すべて民間がやるべき」と宣明することである。特殊法人などが行っているさまざまな事業のうち、経済分野のものは自然と市場の論理で民間に吸収されるであろうし、行政が担うべきものは国と地方の行政機関が予算の許す範囲でやればよい。

二、特殊法人の民営化(株式会社化)は原則として行うべきではない。
 国の金と権力で巨大化し経済を浸蝕した独占企業を民営化することは、決して経済全体にとって好ましいことではないばかりか、政治・行政のモラルを踏みはずす。そもそも彼らは政府による法的、政策的、財政的後ろ盾があって、はじめて存在できる組織であるから、民間の水にはなじまない。民営化があり得るのは、基幹的社会資本整備部内で類似のものが民間にない企業体だけであろう。NTT、JRが民営化された今日、残るのは道路関係の公団ぐらいしかない。

■プログラム三
高速道の建設を凍結する

 以上の原則に基づいて特殊法人を具体的にどう改革するか。小泉内閣の特殊法人改革で最大の問題になっている道路四公団の問題から始めよう。
 この問題を考えるには、わが国の道路行政が完全に行き詰まっているという認識を明確にする必要がある。わが国にはトータルな交通運輸政策がなく、狭い島国で旧運輸省は空港、港湾、新幹線を、旧建設省は高速道路などを、それぞれ局ごとに作れ作れでやってきた。その結果、港湾は一〇九三、空港は一〇〇ヶ所、新幹線は現在工事中を含め総延長二四六五キロメートル、高速道路は六六〇〇キロメートルとなったが、ごく少数の路線、施設を除いては、すべて不採算の状態で、各省庁の利用予測は他の公共事業と同様、大きく狂っている。
 これを抜本的に改革するには、まず、国土全体の将来像を作り、その中で交通機関全体の有機的、機能的組み合わせに自然環境、経済・社会のあり方を長期的に考慮した「国土と交通のあり方」の基本構想を策定することが必要だ。そして、建設は、原則として政府自らが指揮をとったり金を出したりするのではなく、市場経済と社会が必要な限りにおいて建設、維持することにする。
 こうした原則にたって高速道路建設計画を全面的に見直し、向こう二〇年間の建設凍結(モラトリアム)を決定するのだ。なぜなら、今後大きな需要の増加は見込めないし、これ以上、自然環境、生活環境を犠牲にすることとはできないからだ。さらに高速道路を造り続ければ、社会資本としての経済性が失われるばかりか、マクロの社会・経済活動にコスト高というマイナス効果をもたらす。とくに、日本道路公団、首都高速道路公団、阪神道路公団、本四連絡橋公団、アクアラインなどは財政破綻を来している。このまま放置すれば悲劇的事態に至るのは明白である。

■プログラム四
日本道路公団の借金は20年で償却する

 日本道路公団については民営化せよとの意見もあるが、性急な民営化論は正しくない。なぜなら、公団には多額の料金収入が入ってくるため、新規建設を止め利権による収奪システムを再編しさえすれば、国民の大きな負担で作られた、この道路という資産は将来(孫子の世代ではあるが)日本経済に貢献することができるからである。
 近い将来の民営化となれば、二七兆円(平成一三年現在)もの借金を引き受ける民間組織はあり得ないから結局、国鉄清算事業団方式のように、いったん別枠の、名実ともに国民の借金の形に付け替え計上せざるを得ない。民営化された会社の「株」は、現状ではマイナス評価だから全額政府保有となる。これでは、いずれにしても民営化とはいえないし、特殊法人廃止の趣旨とも矛盾する。
 しかも、形式上の経営形態が株式会社となれば、経費方針、経理、財務状況について、原則的に国会は口を出せない。法令で経営・経理の内容を規制することは構造改革の趣旨にも反する。
 これでは、最終的に二七兆円を国民の負担にされた国鉄の轍を踏むことになりかねない。また、現状では採算のとれる路線は東名、東北道、名神などに限られているので、経営の分割は極めて困難であるし、一方、基幹道路となった多くの不採算路線を営利的観点からのみ捉えることにも問題が出よう。結論的に、日本道路公団の民営化は一五年早いのだ。
 では、国民の立場からどうしたらよいか。現状の財務状況を基に改革の方向を探ってみよう。
 道路公団の経営は、国の補助金を除き、収入は二.二兆円(主に通行料)しかないのに借金返済は三.三兆円という、恐るべき”サラ金地獄”状態にある。にもかかわらず、厚かましくも約三兆円の新たな借金をして道路を作っている。別の言い方をすれば、収入をまるまる充てて新規道路を造り、借金返済のために借金をし、それでも足りない返済部分に税金を注ぎ込んでいるのだ。
 この”地獄”状態から脱出する途は、一刻も早く日本道路公団を廃止し、財務省の直接管理とし、同時に新規道路建設を全面ストップすることから始めなければならない。財務省の直接管理となる新「組織」の仕事は、社起因返済と既存道路の維持・管理だ。
 返済すべき借金額は年間で三.三兆円もあるが、これは次のような方法で捻出できる。すなわち、まずは料金収入などの二.二兆円。次に公団ファミリーの道路サービス機構、ハイウェイ交流センターの両財団法人等を廃止し、彼らが独占している収益事業を直接管理することによって四〇〇〇~五〇〇〇億円の収益を見込む。さらに、公団が保有している遊休土地および支社等の土地資産(購入価格一.五兆円余り)の売却を行い収入を確保することも必要である。その他、子会社・孫会社の整理などによる収入も計上できる。
 これでも完全な返済には足りないので、当分の間、七〇〇〇~八〇〇〇億円程度の借入金(公団債等)が必要となろう。これは当然、漸減していく。
 新規工事の中止と補修等でのファミリー企業への高額な工事発注を止め、天下り、高額退職金の廃止、人件費の減少、管理費の軽減等によって、収支は少なくとも年間二.六~二.七兆円は改善されると考えられる。今後、維持・補修事業は公正・厳格な競争入札で発注し、現在ある一四ヶ所の地方支社、七五の工事事務所、九八の管理事務所、八ヶ所の技術事務所は大幅に縮小する。総裁以下の高級役員はすべて不要となる。もちろん、毎年注入されてきた約三五〇〇億円(平成一一年度)の税金も必要なくなる。


■プログラム五
公団のファミリー企業から資産を回収する

 さらに、第二章第三節で述べた公団ファミリー企業の不当な株売却をやり直して資産の回収をはかり、そのうえで、(財)道路サービス機構と(財)ハイウェイ交流センターを解散させることが必要である。これで一兆円から一兆数千億円が国庫に戻ることになろう。
 以上、私が提案した抜本的改革を実行すれば、日本道路公団の借金は一五~二十年間で完済の目処が立つ。この時点で、はじめて民営化を俎上に上げ得る状態となろう。
 この際、借り入れた財投資金の返済方法については規則の変更(繰り上げ返済の制限など)が必要となろう。また、首都高、阪神高等の改革との関連もあり、流動的な要素は少なくないが、おおむね改革の基本線は以上の方法以外にないであろう。
 日本道路公団に注ぎ込まれてきた国費(税金)は最近の一〇年間で約三兆円であるから、民営化の際には、今後さらに投じられる国費も含め、それを上回る株価評価が達成されるべきである。その後は、民営化してその利益からあがる「税収」に期待するか、民営化せず年間二兆数千億円の道路収入を直接国庫で確保する途を採るか、それとも通行料金を下げることで国民に尽くすか、選択肢は広がる。
 大きな問題は日本道路公団がかかえている八八〇〇人の職員の雇用問題である。これらの職員は、サービスエリア等の管理業務が増えるとしても、その六割を削減すべきだ。その方法は自然減と「特別保証退職制度」のようなものを新設して処遇する以外にない。しかし、一方では一連の真の構造改革の進展のなかで国民の将来への不安が薄らぎ、金融や住宅建設・不動産などの分野を中心に経済に活力が生じてくることを認識すべきである。
 一方、道路の補修・メンテナンスなどの工事を行うファミリー企業の清算・整理後の運命については、公正な競争入札に適応する民間の生存競争が発生するだけである。また、現場工事業者にとってはむしろ中間搾取が減るメリットが生じるだろう。
 高速道路の新規建設事業がなくなることによってゼネコンに影響は出る。しかし、将来のゼネコンの行き方としても、行政の下請け、政治のサイフとして公団や役所に玩ばれる存在ではなく、行政から離れて大きく創出される住宅及び都市整備事業などの主役として経済のリード役を果たすべきである。この意味でゼネコンは体質と構造の転換を迫られる。
 なお、この「プログラム五」に挙げたファミリー企業の整理方針については、道路公団に限らず、政府系官企業すべてについて、基本的に第二章第三節に述べた通り、整理・清算または純資産方式による処分を行うべきである。


■プログラム六
都市基盤整備公団などは、民営化でなく解体する

 都市基盤整備公団は、総資産の規模で民間最大手の三井不動産の八倍強であり、年間売り上げでは四倍もの巨大組織である。そのうえ、多数の子会社を有している。
 わが国の公的な不動産・建設事業機関としては、都市基盤整備公団のほかに、雇用促進事業団の天下りビジネスであり、その資本規模を合わせると民間が占めるそれにほぼ匹敵する。道路公団、鉄建公団、地域振興整備公団、緑資源公団、水資源開発公団等の不動産事業も少なくない。
 これらすべてを廃止すべきである。住宅、不動産の行政企業が解体されれば、膨大な仕事が直接市場のものとなり、しかも“仕事が仕事を生む”生きた経済を創り出す。したがって一時的に職場を失う人々の何倍もの雇用が創出されるのだ。
 この際、公団などの「廃止」は決して民営への移行ではなく、あくまで清算手続きを行うことが重要である。なぜなら、特殊法人は「設置法」などによって行政ビジネスとして「政策遂行」を建て前に予算が投入されてきた既得権益の一種である。市場の水には合わず「民営化」にそぐわない。げんに「設置法」には廃止に際しては清算するよう謳われている。
 都市基盤整備公団の清算・廃止に当たっては、いま、公団本体に四八三一人、系列子会社等に三五九四人の合計八四二五人いる職員の雇用問題が生じる。系列会社等についても原則として廃止すべきであるが規模の縮小で存続できるものは雇用問題の観点から存続させてもよいと思われる。また公団の中でも賃貸住宅については国の“政策”に従って入居した方々が多数存在しているのであるから、これには財務省が直接責任を持って今後とも別の形態(固有財産管理として)で、その管理を継続しなければならない。このための人員として一〇〇名程度が必要と考えられる。家賃収入は借金返済と高齢者福祉などの財源異あてられる。
 結局、整理対象となる人数は四七〇〇人くらいとなろう。雇用促進事業団の住宅部門、民都機構、地方公社等の住宅・不動産関係の行政企業全体で二万人ほどと考えられる。これについては道路公団の場合と同様の対策を考えなくてはならない。