[大下英治(作家)]彼は西郷隆盛であり大久保利通 [私は小沢一郎を支持する]
(日刊ゲンダイ 2010/9/14)

建築ができるから壊し屋になれる戦後政治史で稀有な政治家

小沢さんとは、本を10冊近く書いた関係で、何十回と話を聞いたけど、戦後政治史において稀有(けう)な政治家です。
とにかくスケールの大きさが違う。「この国の形を変える」「仕組みごと変えないといけない」と小沢さんは言う。だれもが言いそうなことだけど、小沢さんだけはグランドデザインをもっている。これまでも、省庁再編や民営化をやった政治家はいたが、中曽根康弘も橋本龍太郎も小泉純一郎も微修正したにすぎない。小沢さんは国の骨格そのものを変えようとしている。
ひとつの例が、今回の代表選でも取り上げられた地方への一括交付金です。この国は明治以来の中央集権制の下、ヒモつき補助金によって官僚が地方を支配してきた。しかし、それが地方の独立と活力を失わせ、国力も衰退させてしまった。小沢さんは、明治維新前に戻して権限もカネも与え、薩摩藩や長州藩のように地方が自立すべきだと考えている。廃藩置県の逆。それが官僚支配を壊すことにもなるし、地方経済の復活にもなるのです。
子ども手当と高校無償化。これも明治時代の富国政策が頭にある。人気取りのバラマキ策なんてレベルの話じゃなくて、少子化が進む国が成長できるわけがない。ならばドンと税金を使って、子どもを増やし、十分な教育を与える。それが日本成長の源泉になるという発想なのです。
小沢さんはアピールがへたで理解されにくい人だけど、めざす新たな国づくりには夢と発展がある。それが一番大事なこと。だから一度は総理大臣にさせてみたいのです。小沢さんは、「情と壊し屋」の西郷隆盛、「非情と建築」の大久保利通の両方を持った人だと思う。壊し屋の面だけが強調されているが、むしろ建築をずっと考えてきた人なのです。
もちろんこの国を変える改革を進めるのは簡単じゃない。政治主導、官僚支配からの自立が不可欠。でも小沢さんはそこも分かっている。霞が関と手を組んだ田中派、経世会で育ってきたから、官僚支配の弊害も弱点も熟知している。どの分野においても知識と経験を持ち、おまけに腕力、破壊力をそなえた政治家は、今の時代には小沢さんしかいないのです。代表選の結果は分からない。しかし、菅さんでは行き詰まるのは目に見えている。仮に負けても、すぐに小沢さんが復活する日が来るし、そうならないと、この国は変われないのです。
おおした・えいじ 1944年生まれ。広島大文学部卒。政治家の人物伝執筆に定評があり、「小沢一郎vs.自由民主党」「小沢一郎の最終戦争」など著書多数。