どこがクリーン?これじゃ小沢と同じだよ 菅直人「政治とカネ」新たな疑惑

(週刊現代10月2日号 ジャーナリスト松田賢弥)


私は前号で菅直人の「政治とカネ」の疑惑を書いた。その記事が出る2日ほど前から、私のもとには代表選で菅支持を表明していた複数の民主党幹部が「菅首相の事務所費について、記事が出るらしい」と口にし、慌てているという情報が入ってきた。一方、他人の「政治とカネ」疑惑には徹底した攻撃を加えてきた菅本人だが、自身の疑惑については口を拭い続けている。
そこで、新たな疑惑を提示する。クリーンを売りにしてきた菅が、結局は小沢と同じであるということがわかるはずだ。

まず前回、私が指摘した点について簡単に振り返っておく。
①菅の政治資金管理団体「草志会」は、菅の政治団体「菅直人を応援する会(以下、応援する会)」と同じ東京・武蔵野市のマンションの一室を「主たる事務所」として届けている。ところが、マンションには「草志会」の看板すらなく、政治資金収支報告書では人件費も'99年から10年間にわたり「0」だ。
②家賃が大半を占めるはずの事務所費は、前述の二つの団体を合計すると10年間で約1億6300万円を計上している。ところが、「草志会」の収支報告書では家賃は月額約28万5000円。10年でも約3420万円にしかならない(「応援する会」の報告書には家賃の記載なし)。
①の事実から浮かび上がるのは、「草志会」が本来計上すべき人件費を「応援する会」に付け替えており、政治資金規正法が禁じる虚偽記載に当たるのではないかという疑惑だ。②については、家賃に比して、なぜこれほど高額な事務所費がかかるのか理解ができない。それらを問うた本誌の質問に対し、菅事務所は「適正に処理している」と答えるのみだった。
派閥のために肩代わり
では、私が掴(つか)んだ新たな疑惑について記そう。これは前述の①②の疑惑とも関係している。異なるのは、そこに菅個人の政治団体だけでなく、菅の派閥「国のかたち研究会」の人件費や事務所費も大きく関与しているということだ。
結論から言うと、「草志会」が払っている月額約28万5000円の家賃は、「国のかたち研究会」が「主たる事務所」の所在地として総務省に届け出ている東京・平河町の豪華マンション「ノーブルコート平河町」304号室の家賃である。
菅個人の政治団体が入っている武蔵野の部屋のオーナーに、「草志会」の収支報告書に記載されている家賃の欄を見せたところ、オーナーはこう証言した。
「そもそも『草志会』の名前は知らないし、私が家賃をもらっているのは『応援する会』からで月額15万3000円です。そこ(収支報告書)に書かれている家賃の金額も、家賃の支払先になっている『神鋼不動産』という会社も、私には全くわかりません」
そこで改めて菅の関係する政治団体の所在地を調べ、登記簿を見ると、菅の派閥「国のかたち研究会」の事務所が置かれている「ノーブルコート平河町」が、「神鋼不動産」の所有する物件だということがわかった。このマンションの仲介業者のホームページなどに掲載された数式から、「国のかたち研究会」が入っている部屋の家賃を試算すると、金額的にも月額約28万5000円という家賃と矛盾しない額になる。
つまり、菅個人の政治資金管理団体「草志会」は、派閥の「国のかたち研究会」の家賃を肩代わりしていることが裏付けられたのである。これも政治資金規正法の虚偽記載にあたる、新たな疑惑である。
「国のかたち研究会」が政治団体として総務省に届け出たのは'05年4月。歴代の代表には江田五月前参院議長や土肥隆一衆院議員、会計責任者にも荒井聰(さとし)国家戦略相や加藤公一衆院議員といった菅の側近議員が就いている。所属議員は約40人と言われ、今回の代表選でも、菅支持の中核を担った。
同研究会の疑惑はまだある。同会は人件費、光熱水費、事務所費などの経費がすべて「0」なのだ。これはどういうことなのか。
前述したように「草志会」も人件費は一切計上していない。考えられるのは「応援する会」が、「草志会」と同様に「国のかたち研究会」の人件費も肩代わりしているということだ。それを裏付けるように、家賃15万円余りの小さなマンションの一室にある「応援する会」が、10年で約2億2709万円もの人件費を計上しているのである。
端的に言えば、菅の派閥「国のかたち研究会」は、家賃を「草志会」に、人件費を「応援する会」に肩代わりしてもらっている可能性が極めて濃厚なのだ。
派閥の事務所があるはずのマンション(上)には、なぜか菅氏個人の政治団体の名前が
原資は国民の税金ですぞ
この三つの団体のカネの流れを見ると、最初のカネの受け入れ先は「草志会」だ。その収支報告書を見ると、'99年からの10年間で1億6419万円のカネが民主党から寄附名目で流れ込んでいる。その原資は国民の税金である。民主党は収入の約85%を政党交付金に依存しているからだ。
次に「草志会」は党からのカネを、寄附名目で今度は「応援する会」に流す。その額は'99年からの10年間で1億5844万円だから、「草志会」はトンネル企業のように、党からのカネをほぼ丸ごと「応援する会」に渡していることになる。「応援する会」は人件費や事務所費の名目で、他の2団体の支出を肩代わりする。必要経費の付け替えは政治資金規正法の虚偽記載にあたる。
私は「国のかたち研究会」の所在地である「ノーブルコート平河町」に向かった。東京・永田町の議員会館にほど近い瀟洒(しょうしゃ)なマンションだ。郵便受けを見るが、「国のかたち研究会」の表示はどこにもない。収支報告書に「主たる事務所」の所在地として届け出ていながら、現地には看板すら出さず実態がないという構図は、「草志会」と全く同じだ。そして、本来「国のかたち研究会」の名があるはずの304号室の郵便受けには「草志会」のプレートが掲げられていた。
政治資金規正法は、収支報告書をガラス張りにすることで「国民の不断の監視と批判の下におく」と定めている。国民の目を欺くように、実態のない住所を記載することは、それ自体、虚偽記載に該当するのではないか。この点を総務省選挙部収支公開室に質(ただ)した。同省は届け出があった所在地に、実際に事務所の実態があるかをチェックする調査権はないとした上で「最終的に司法の判断に委ねるしかない」と答えた。その回答からは「黒」とは言えないが、「白」とも言えない、極めて「グレー」なことが菅個人とその派閥グループの政治団体の間で行われていることを窺(うかが)わせた。
「適正に処理している」と答えるだけの菅事務所に代わり、私は菅の〝金庫番〟的存在で、「草志会」の会計責任者、「応援する会」の事務担当者を務める古参秘書に話を聞こうとした。しかし、3日間にわたり訪ねた自宅でも、家族が「外出中」と言うばかりで、趣旨を伝えて名刺を残してきたが連絡はない。「草志会」「応援する会」がある武蔵野のマンションでは、明らかに居留守を使った。
菅が「国のかたち研究会」や「草志会」「応援する会」を舞台にやっていることは、経費の付け替え、虚偽記載の疑いがある行為だ。金額の多寡こそ違うが、小沢がやっていることと何が違うのか。総理を続投する菅には、この疑惑に答える説明責任がある。
(文中一部敬称略)