これでクリーンなら、クリーニング屋が怒るよ 菅直人にもあった「政治とカネ」の重大疑惑


(週刊現代9月25日号 ジャーナリスト 松田賢弥)


菅直人首相は代表選の間、口を開けばクリーンを謳(うた)い、「政治とカネ」で小沢一郎前幹事長との違いを際立たせようとしてきた。田中真紀子元外相はその姿を「クリーニング屋じゃないんだから」と揶揄したが、果たして菅は、それほどクリーンな男なのだろうか。「政治とカネ」の問題とは無縁だと言い切れるのか。
私はこれまで赤城徳彦元農水相や菅の側近・荒井聰国家戦略担当相の事務所費問題などを取材したことがあるが、菅の政治資金について取材を進めると、同じような不透明なカネの流れにぶちあたった。
舞台となるのは菅が代表を務める政治資金管理団体「草志会」で、'97年1月に総務省に政治資金管理団体としての届け出を行っている。具体的なカネの流れの説明に入る前に、この「草志会」の概要について、若干触れたい。
公表されている「草志会」の政治資金収支報告書を見ると、同会は毎年のように東京や関西などで政治資金パーティや総会、懇親会をを開催している。また、民主党本部から'06年~'08年の3年間で約1億3400万円もの献金を受けていることがわかる。
献金は当時、民主党代表だった小沢一郎の名前で支出され、「寄附金」名目で計上されている。民主党は収入の約85%を政党交付金に依存しており、言うまでもなくそれは国民の税金が原資である。
つまり、「草志会」は党を通して税金が注ぎ込まれており、その運営には当然、透明性が求められる。

カン、アウト?
(写真あり)
「草志会」があるはずのマンションだが、郵便受けには名前もない

私は東京都武蔵野市に向かった。菅の選挙区(東京第18区)は武蔵野、小金井、府中の各市にまたがっており、「草志会」の所在地も膝元の武蔵野市になっている。JR中央線の三鷹駅北口から歩いてすぐの7階建てマンション。'83年に建てられたものだ。「草志会」の収支報告書では、「主たる事務所」はこのマンションの302号室と書かれている。
ところが、マンションの1階にある郵便受けを見ると、302号室には「草志会」とは別の「菅直人を応援する会(以下、応援する会)」「菅直人事務所」などの表示があるだけ。隣の301号室の郵便受けには「民主党東京都第18区総支部」と記されていた。302号室のドアにも「応援する会」のプレートと、菅
直人の名前の上にガムテープを貼ったのか、単に「事務所」と書かれた表示があるのみで、「草志会」の文字はいっさいない。これはどういうことなのか。
「応援する会」の収支報告書を見ると、「主たる事務所」は確かに302号室になっているから、同一の場所に二つの政治団体が同居していることになる。それだけではなく、「草志会」の会計責任者と「応援する会」の事務担当者は同じ女性で、菅事務所の古参秘書。菅事務所関係者によれば、彼女は菅の〝金庫番〟的存在だという。
特筆すべきは、「草志会」の経常経費のうち人件費が'99年から10年間、「0」になっていることだ。前述したように「草志会」は政治資金パーティなどを開いて活動している他、党本部からの巨額のカネの受け入れ先になっている。しかも、'08年だけで約880万円の個人献金も集めている。
パーティを開けば、パーティ券の発送から当日の受付など、当然、人件費がかかるはずだ。そもそも会計責任者の女性は無償で仕事をしていることになる。政治資金規正法は「労務の無償提供」について「政治活動に関する寄附」とみなし、収支報告書に人件費相当額の記載を求めているが、「草志会」の収支報告書を子細に見ても、それが記載されている形跡はない。
私はある疑念を抱いた。「草志会」と同一の場所に置かれている「応援する会」の人件費は、'99年からの10年間で約2億2700万円が計上されている。このなかに本来なら「草志会」で計上すべき人件費を紛れ込ませている、あるいは「応援する会」に人件費を肩代わりさせているのではないか。細かいことに思えるかもしれないが、これは経費の付け替えであり、政治資金規正法の虚偽記載に当たる犯罪である。小沢の一連の陸山会事件で、元秘書の石川知裕ら3人が逮捕されたのも同じ容疑だった。
事務所費が異常に多い

しかも、不自然なのは人件費だけではない。事務所費にも重大な疑惑がある。政治資金規正法では、事務所費を家賃、税金、保険料、電話代など「事務所の維持に通常必要とされるもの」と定めている。だから、通常、事務所費の大半を家賃が占める。この事務所費が家賃に比べて、不自然なほど多額なのである。
「草志会」の事務所費は'99年からの10年間で約1億0710万円。同じ部屋を借りている「応援する会」からは同期間で約5590万円が計上されており、合計すると築27年が経つマンションの一室に総計約1億6300万円、年間で約1630万円の事務所費がかかっていることになる。
では、事務所費の大半を占めるはずの家賃はいくらか。「草志会」の'08年の収支報告書によると、家賃・共益費として年間約342万円が計上されていた(「応援する会」の報告書には家賃の記載なし)。つまり、10年間で家賃以外にざっと1億2880万円が事務所費として使われている計算だ。これらはいったい、何に使われたのか。
同じマンションに住むこの部屋のオーナーは、本誌の取材にこう語った。
「菅さんや(「草志会」会計責任者の)女性には会ったことがありますが、『草志会』という名前は聞いたことがない。他の場所にあるんじゃないですか。あの部屋は20年以上前から貸しているが、初めて聞いた」
「政治資金オンブズマン」のメンバーで、神戸学院大学法科大学院教授の上脇博之は、収支報告書を見て、次のように指摘する。
「確かにこの家賃にしては、事務所費が異常に多い。それに人件費が長い間、まったく計上されていないのは極めて不可思議なことです。代表選で菅さんはクリーンを標榜してきたが、菅さんにも『政治とカネ』の問題が出てきたと言わざるを得ません。菅さんは過去にさかのぼって事務所費や人件費の内訳を明らかにする説明責任があります」
本誌は二つの政治団体が入った部屋を訪ね、会計責任者の女性に会いたい旨を伝えたが、インターホン越しに「代表選で、取材に対応できる者が出払っている」という答えが返ってきた。そこで、菅直人事務所に質問状を送った。内容は①「草志会」の人件費がゼロなのはなぜか、②家賃に比して事務所費がこれほど多い理由はなぜか、などである。
菅の事務所は、
「お尋ねの件については、法に則り適正に処理しております」
と回答するのみだった。
菅の政治団体に関する「政治とカネ」の重大疑惑。現時点では、菅サイドが意図的に不自然なカネの流れを作り出しているのか、それとも単に杜撰(ずさん)な経費処理をし続けてきただけなのかは判然としない。言えることは、小沢が代表を辞めるにいたった政治資金規正法の虚偽記載の疑いが、菅にもそのまま降りかかってきたということである。(文中一部敬称略)