【政治部デスクの斜め書き】政局秋の陣 小沢氏と仙谷氏の対立激化か
(産経ニュース 2010.9.19 18:00)  http://p.tl/S8Yt


菅改造内閣の発足とともにようやく暑かった夏も終わりを告げようとしている。混乱続きの政局も安定に向かうことを期待したいが、どうもそうなりそうにない。火だねはやはり民主党の小沢一郎元幹事長だ。東京第5検察審査会が10月中に出す見通しの議決で、起訴すべきだ(起訴議決)と判断すれば、小沢氏は強制起訴される。その場合、菅直人首相は小沢氏の離党勧告に踏み切るのか。踏み切れば、民主党内の対立が激化する可能性がある。菅陣営の「事実上の司令塔」と言われている仙谷由人官房長官と、小沢氏の間で神経戦が展開されそうだ。

 民主党内で仙谷氏はかねてから小沢氏批判の急先鋒(きゅうせんぽう)だった。自民党時代、田中派、竹下派と権力の中枢に居続けた小沢氏のことを、野党暮らしが長かった仙谷氏はどうしても批判的な目でみるのかもしれない。

 仙谷氏は小沢氏が代表選の最中、米軍普天間飛行場移設問題の再検討を表明したことについて「鳩山前内閣の決定であり、これを誠実に守っていかなければ、(日本は)国際社会の中で生きていけない」と述べるなど、真っ向から反論した。

 今回の内閣改造でも、「脱小沢路線」を推進したのも首相よりもむしろ仙谷氏だったとの見方が党内では多い。

 小沢氏も黙ってはいない。今月2日に日本記者クラブで行われた代表選の公開討論会で、自らの「政治とカネの問題」に関して、首相から突っ込まれた小沢氏は「同じような政治とカネの問題で、最近もいろいろとメディアで報道された方がいる」と反撃した。

 具体的には言わなかったものの、仙谷氏の3つの政治団体が長男の司法書士事務所の経費を補填(ほてん)していた疑惑報道を指しているのは明らかだ。

仙谷氏は政治団体から長男側への支出を認めたが「(政治団体の)事務を委託しており、それを負担をするのは当たり前だ」として、問題はないとの認識を示している。

 また、小沢氏は討論会のなかで、衆参両院で多数派が異なる「ねじれ国会」への対応について「参院選で大敗し、野党は菅政権に協力できないと話している。どう打開するのか」と提起。首相の唱える「パーシャル連合」について「考え方の違う問題では、全く動かない。リーダーは打開策を考えておかなければならない」とこき下ろした。

 自らの対応については「当選した場合は、スカッと皆さんに申し上げる」と述べるにとどまったが、新たな連立相手として、公明党を想定しているとみられている。

 小沢氏は2月下旬、公明党の支持母体である創価学会前会長の秋谷栄之助・最高指導会議議長らと都内のホテルで密かに会談、民主党内に波紋を広げた。

 小沢陣営は「創価学会とパイプのある小沢さんだったら公明党とうまく手を結べる」と新人議員の説得を試みた。

 小沢陣営関係者は解説してみせる。

 「仙谷氏はいまでは学会と対立関係にある矢野絢也・元公明党委員長の長男を公設秘書としている。仙谷氏が官邸にいる限り、公明党は菅政権とは連立を組まないだろう」

 仮に第5検察審査会が起訴議決した場合、仙谷氏はどう対応するであろうか。参考になるのが、小沢氏の元秘書、石川知裕衆院議員が小沢氏の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反の罪で起訴された際の発言だ。仙谷氏は2月9日の記者会見で「離党もあるんじゃないか。そういう判断をした方がいいと思う」と、離党を促した。石川氏は11日に離党届を提出した。

 菅陣営内には「小沢氏が離党しても、ついていくのはせいぜい数十人だろう。むしろ菅政権の基盤は強くなって好ましい」(中堅議員)との強気の見方もある。

 起訴議決に至らなかったとの議決が出た場合、小沢氏は起訴されない。小沢陣営内には「検察審査会さえ乗り切れば、あとは攻勢に出られる」としている。

 小沢氏と仙谷氏の溝はなかなか埋まりそうにないが、筆者が思い起こすのは、参院選での自民党惨敗を受けて誕生した小渕恵三内閣で、官房長官だった野中広務氏の対応だ。

 野中氏はそれまで「危険な独裁者」とも「悪魔」とも呼んでいた小沢氏率いる自由党との連立を考えた。当時、官邸担当だった筆者は野中氏が記者会見で「法案を通すためなら小沢さんにひれ伏してでも、国会審議にご協力いただきたいと頼むことが、内閣の要にあるものの責任だと思っている」と発言したことに驚いた。

 菅政権もねじれ国会で厳しい立場にある。仙谷氏がこのまま「脱小沢路線」をとるのか、それとも党内融和を図るため、小沢氏との妥協の道を探ることになるのか。

 自自連立政権に対し、仙谷氏は平成11年1月の講演でこう断言した。

 「今回、自自連立政権というのができました。小沢さん、野中さん…皆さんこの顔ぶれをご覧いただいてどうですか?

 この自自連立が『国民的な性格を持つとか、市民的な常識が反映できる』そういう政府にならないことは明らかです。早晩矛盾が爆発する」

 連立政権は予言通り崩壊したことを考えると、今回仙谷氏がとるべき道は小沢氏との連携を模索することよりも、あくまでいまの路線を貫くことだろう。(有元隆志)