「日中衝突」で迫られる「米国依存外交」からの自立 [高橋乗宣の日本経済一歩先の真相]

(日刊ゲンダイ2010/9/24)

日本の領土をめぐり、これほど緊張感が高まったのは、戦後初めてのことではないか。韓国やロシアとも懸案の問題はある。かつては米国との間にも沖縄返還という難題が横たわっていた。これは「密約」という歴史のトゲを残したが、いずれも全面衝突は回避されてきた。
それだけに今回の中国の強硬姿勢は、多くの国民を不安にさせている。温家宝首相は、中国人船長の即時釈放を求め、受け入れられなければ、「さらなる行動を取る」とも言っているそうだ。
むろん、船長の釈放は領土の放棄に等しく、のめるものではないが、さりとて「売られたケンカは買いましょう」というわけにもいかない。中国も、手を振り上げながら、落としどころを探っているはずだ。これからは日中間の水面下の交渉がカギを握るのだろう。
はたして日本政府は、そのシナリオを描けているか。拉致問題の解決も米国の圧力頼み。2国間交渉はからっきしという非力の国が、子どものように自分たちの主張ばかりを声高に叫ぶ中国を説き伏せるのは簡単ではない。
頼みの綱の米国も静観の構えだからなおさらだ。スタインバーグ米国務副長官は「良好な日中関係はわれわれの利益だ」として両国に対話を呼びかけている。だが、仲裁に乗り出す姿勢は見られない。経済の立て直しで四苦八苦の今、他国のいざこざに口を挟んでいるヒマなどないということだろう。
日本にとっては正念場である。確かに目の前で発生しているのは日中問題だが、そのウラでは日米関係のあり方も問われている。日本の外交政策は、善くも悪くも「米国の言いなり」だった。日本が主体的に動くことは皆無で、米国に依存してやってきた。それでも、これまでは何とかなったのだ。
しかし、今回は、米国任せの他力本願が通用しない。沖縄に駐留する米軍の抑止力は大きいが、それすら一朝有事に際し動くのか、本当のところは分からない。日本外交の本当の力が試される場面になっているのだ。
「対等な日米関係」は鳩山前首相が掲げた民主党政権のテーマである。ところが、菅首相は自民党流の対米追随に舵を切った。それだけに不安が募るのである。
(金曜掲載)