「小沢元幹事長外し」を画策! 仙谷官房長官が頼ったフィクサー

国民そっちのけの「党内バトル」が進行中だ

永田町ディープスロート

(現代ビジネス FRIDAY2010年10月01日)   http://p.tl/2n7x


かつて、かの松下幸之助は言った。

「人事問題は、経営を左右する」

 菅直人首相(63)は、「小沢外し」という道を選択した。小沢一郎元幹事長(68)、および彼が率いるグループのメンバーは、一人として閣僚に入らなかった。

 副大臣・政務官ポストの人事で、かろうじて小沢氏を支持する「一新会」の面子にお呼びが掛かったくらいだ。ボスから「打診があったら受けるように。政治は一時も停滞しない」と言われている彼らに断る理由はない。小沢氏の盟友で参謀でもある平野貞夫元参院議員は、今回の組閣を「脱小沢ではない。これは小沢排除だ」と評するが、菅首相サイドの耳に届くのは"負け犬の遠吠え"であろう。

 そんな小沢グループにも、呑気な勢力が存在する。「ひょっとして」などと過信する輩が、周到にある準備を整えていたのだ。民主党議員が笑いながら明かす。

「小沢グループの中で、組閣の当日、部屋にモーニングを吊るしていた御仁がいるんですよ。それも二人も。本人の名誉のために名前は明かしませんが、小沢派で当選回数を重ねている人なんて、そういませんから、すぐ分かりますよ(笑)」

 ただし、「代表選が終わればノーサイド」と言った手前、菅首相が小沢グループに配慮しようと動いたのは事実である。民主党幹部が内幕を解説する。

「改造前の農水相の山田正彦が小沢グループなので、『農水相ポストは小沢派へ』というのが菅の考えでした。しかも、代表選の最中、小沢が頻繁に情報交換していたのは山田で、"小沢側近"をアピールする山岡賢次(党副代表)は相手にされていなかった。

菅には、山岡を閣僚に迎えれば小沢グループの分断を図れるとの計算があったが、そのアイディアを一蹴したのが仙谷(由人官房長官)だった」

 複数の民主党議員から「菅首相は最低一人でも、小沢グループから入閣させたがっていた」との証言が漏れ伝わる。だが、仙谷氏は徹底してNOを突きつけた。

「小沢グループには、(閣僚になるだけの)経歴を踏んだ者がいない」

 仙谷氏の掲げる理由はもっともだが、最初から仙谷氏の「閻魔帳」には「小沢グループ」の「お」の字も記載されていなかったようだ。「閻魔帳」とは、仙谷氏の側近が命名したリストを指すが、そこには当選回数、経験した役職、年齢、所属グループ、党員・サポーター票の結果、内閣情報調査室の"身体検査"、寸評という項目が横列に並び、縦列に入閣候補者の名前が並ぶ。仙谷氏が真っ先に気にしたのが年齢と、小沢グループか否かという点だった。先の民主党幹部が続けた。

「ポイントは、閻魔帳に名前のあった髙木義明の初入閣(文部科学相)だ。彼が所属する民社協会は、代表選で『菅か、小沢か』で分裂した。また、鳩山グループの海江田万里は小沢に票を入れながらも経済財政担当相で入閣した。小沢寄りの人間を処遇して小沢から距離を遠ざける。仙谷はその辺、実に徹底している」

 この徹底ぶりには、菅首相ならずとも「党を割る気か」と気を揉むのは当然であろう。仙谷氏とて「トップが好きか、嫌いか」だけで代表選を実行する幼稚な民主党で権力闘争を再燃させれば、己の足元がグラつくことくらい承知している。だが、徹底した「小沢外し」へと仙谷氏の背中を最後にひと押ししたのは、9月9日の自民党の党役員人事であった。

「幹事長になった石原伸晃は早々に『小沢さんが民主党を出ても組まない』と発言しているし、総務会長の小池百合子も新進党で一緒だった小沢と袂を分かっている。つまり、自民党は世代交代とともに反小沢色が強くなったわけです。

民主党代表選に先駆けて自民党が人事を断行したのは、民主党内の反小沢勢力=仙谷氏に向けて、『菅を勝たせれば、小沢を駆逐できる』とのメッセージを送ったとする清和会幹部もいます」(自民党幹部)

 勝っても負けても小沢氏に存在感があるのは、手持ちのシンパを従えて党を割り、自民党をはじめ他党と手を結ぶのではないかという疑心暗鬼に基づく。だが、その自民党内でも"小沢アレルギー"が高まれば、小沢氏の勢力は削がれる。

 どうやら仙谷氏は、自民党の動きと連動して小沢氏の力を封じるべく、早くから"ナビゲーター"を探していたようだ。前出の自民党幹部が解説する。

「参院選の後、今年7月半ば頃から仙谷は動いていました。選挙に大敗した菅首相の責任論が噴出し、小沢が主導権を握ろうとするのは時間の問題でしたからね。

 そこで仙谷は、(1)分裂危機の可能性が高まった民主党がねじれ国会を乗り切るため、自民党といかに手を結ぶべきか、(2)小沢は、本気で菅首相の座を脅かすのか―という2点に明確な答えを出せるカウンターパートを求めたのです。そして2党の間でフィクサーとして情報を取り結ぶ役として浮上したのが、野中広務(元自民党幹事長)さんだと聞きます」

 野中氏は取材を拒否したが、噂の類と斬って捨てることはできない。前出の平野氏は、「小沢外し」の人事について見解を求めた本誌に、こんな証言をしている。

「菅首相という人間は、悪霊に繋がれているのです。仙谷氏は、野中氏と相談してことを進めている。私は直接、野中氏に聞いてますから。7月の末に会った時、『仙谷から、いろいろ相談を受けている』とね。自民党の守旧派の連中と仙谷氏は一緒になって小沢を排除しようとしている。自民党より悪いものに突き動かされているんですよ、この菅政権は・・・」

 小沢氏は最近、自派の若手の会合に顔を出し、不気味なひと言を言い放った。

「衆院は、いつ戦いがあるか分からない。備えておけ」

 幸之助翁の言葉の通り、今回の人事は民主党の将来を左右しよう。そして、事実上は"仙谷政権"で角を突き合わせる民主党幹部には、次の言葉を贈りたい。

「われわれはお互いに相手を尊敬すべきだ。お互いに大した人間ではないのだから」(デール・カーネギー=米の実業家)